師匠な撲殺魔っ
キィン! ザクッ!
「ぎゃああっ!」
「進むのじゃ! 敵は怯んでおるぞ!」
「「「おうっ!」」」
「……流石は獅子心公殿だな。些かも衰えが感じられん」
「ああ。彼が味方で本当に良かったと思うよ。敵には回したく無いな」
ふっふっふ、ちゃーんと聞こえておるのじゃ。ワシの能力は『千里眼』だけではなく、『順風耳』という遠くの会話も聞き分ける指向性異常聴力もあるのじゃよ。
「そう言えば、ライオンハート殿にはもう一つ異名があったな」
「ああ、『死に戻り』だな」
う。あ、あまり触れてほしくない話題じゃの。
「文字通り死んだのだが、生き返ったんだそうだ」
「何だそりゃ。今じゃ聖女様の復活魔術もあるんだから、生き返りなんて珍しくも無いだろ」
そうじゃそうじゃ。話題を変えい。
「それがだな、ライオンハート殿は現在の聖女様が現れる前から、何回も生き返っているらしい」
ぎくっ。
「何だそりゃ。まるで神様だな」
ぎくぎくぅ!
「いや、神様じゃなくてアンデッドだろ」
アンデッドじゃと!? ゾンビみたいな低俗な輩と一緒にするでないわ!
……ヒュン……ドスッ!
「うぐぅふ!?」
「ラ、ライオット様!?」
「ライオンハート様に矢が!?」
ぐ……くっ。こ、これは……致命傷じゃな。
「な、何のこれしき。心の臓には届いておらぬ。ワシはまだ健在じゃぞ! 首を跳ねるくらいせねば、この〝死に戻り〟を屠る事は叶わぬぞ!」
「「「うおおおおおおおおお!!」」」
い、今のうちに再生せねば……マジで死んでしまうのじゃ。
「……ライオンハート殿は不死身か。あれだけの傷を受けながら、平気そうにしているとは」
「存外、ああいう姿勢が〝死に戻り〟の異名の由来かもしれぬな」
「違いない。魔術無しで復活する筈が無いしな」
そ、その通りじゃ……実際は死にそうなんじゃがな。
「そうなると、例の噂もデマか」
「例の噂、とは?」
「いや、〝死に戻り〟の由来は、ライオンハート殿が死後の世界と現世を行ったり来たりできるから……だとか」
ぎっくぅぅぅ!!
「あははは、そんな馬鹿な」
「そうだな、そんな筈が無いか」
こ、この刺さっておる矢より、心臓に悪い会話じゃな。
「……?」
「リファリス、どうかした?」
「……いえ、どこぞの変態が、常世に逝きかかっている気がしただけですわ」
「はい?」
気になさらないで下さいまし。
「それより、随分と捕まえましたわね」
リジーとリブラ、二人で捕まえた犯罪者は三桁に届く勢いです。
「そう言うリファリスは……まあ住宅街だし、そんなに居る訳無いよね」
わたくしは泥棒さんが二組、婦女暴行未遂さんが三人、変態さんが一人ですわ。
「変態さん?」
「女性の下着を大量に所持していました」
「うっわ最低」
全員撲殺した後、復活させてから簀巻きにして道に転がしてあります。
「うーん、そろそろ警備隊詰所も満杯らしいから、私達もそうしようかな?」
「撲殺ですの?」
「違う違う。身動きが取れないようにしてから放置っての」
ああ、そっちですのね。
「ならばリブラ、修行の成果を見せて下さいます?」
「修行の成果って……ま、まさか『茨』!?」
そのまさかです。
「む、無理だって! あれって超難しいじゃん!」
「あら、回復や復活よりは簡単でしてよ?」
「それと一緒の括りにしないで!」
同じ聖属性ですわよ。
「無理だと仰るのであれば、仕方ありませんわね……ならリジー、貴女が『茨』して下さい」
「うい」
「…………ん?」
「どうかしまして?」
「私じゃなくて、リジー?」
「ええ。リジーはマスターしてますわよ」
「マジで!?」
「うい。聖属性の呪いで絶好調」
「聖属性の呪いなんて聞いた事無いって!」
わたくしも正直、考えた事もありませんでしたわ。
「後からわたくしに弟子入りしたリジーに抜かれているようでは、リブラ侯爵家の名が泣きますわよ」
「ふっふーん、抜いちゃった、抜いちゃった♪」
「むかっ……い、言ってくれるわね……!」
さあ、その気になってくれるかしら?
「だけど、その手には乗りません。リジー、だったら頼むわ」
む……。
「ううむ、リブラも多少は成長したか」
確かに、少し前のリブラでしたら、確実に挑発に乗ってますわね。
「でもそうなると困りましたわね。リブラの修行の一環のつもりでしたが」
「うーん、リブラがああなったら、絶対に言う事聞かないと思われ」
あら、よく分かってらっしゃるわね。
「なら私が『茨』やっておk?」
「…………いえ、リジーはもう実用できるレベルに達していますから…………」
何とかして、リブラを焚き付けられないでしょうか。
「……リファリス、どうしてもリブラにやらせたいなら……」
「はい?」
「……手は、ある」
「はあ……本当にするんですの?」
「リブラの修行の為」
……仕方ありませんわね。
「あー、リブラ」
「ん?」
……はぁぁ。
「今日……一緒にお風呂に入りませんか?」
「…………え?」
「ですから、一緒にお風呂」
「入る」
「返事早いですわね!?」
でも、釣れましたわ。
「ですが、条件があります」
「ぅ……な、何?」
「それは勿論」
「く……『茨』ね」
さあ、実際に捨て身の作戦、リブラはどうなさいますの?
「く…………う、ううぅ……そ、その手には……」
「ならリファリス、私が一緒に入ると思われ」
「なっ!? や、やるわよ! 私が『茨』やる!」
はい、陥落しました。
「ならばお願いしますわね」
「はい、よろしく~」
「く、け、結局乗せられた……!」
リジーの方が一枚も二枚も上手ですわね。