表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

91/428

凶報と撲殺魔っ

 今回は少々毛色が違っての、シスターが住む国の周辺国との話じゃ。実はシスター、過去にも従軍魔術士として何度か参加した事があるのじゃが、その中でも最も名を馳せる事となった事件を紹介しようかの。

 前回に海でテンタクルスを討伐してから、一ヶ月も経っておらぬ頃に、それは起きたじゃ。



 ザッ ザッ


 今日も気持ち良い朝です。早朝の奉仕も捗りますわ。


「『癒せ』、『癒しなさい』、『癒されなさい』」


 その近くでリブラが、枯れかけた草を相手に回復魔術の練習をしています。


「うぅ~……『回復しやがれ』……『死ぬまで回復しろ』」

 ……ポゥ……


「あ…………す、少しだけ元気になった!?」


 喜びながらわたくしをジッと見てくるリブラを見ながら、わたくしはニッコリと微笑んであげました。


「よくできました」

「うふっ、うふふふっ」

「やっとリジーの足元に及びましたわね」

「ぐふぅ」


 そのまま前のめりに突っ伏すリブラ。草むらに顔を突っ込むと汚いですわよ。


「詠唱の結びの言葉は、魔術を発動させる上で最も重要です。その言葉の選び方次第で、効果も大きく変わってきますわ……例えば」


 葉の先を虫にかじられた樹木に手を伸ばし。


「このくらいでしたら、わたくしが直接修復するよりも、木本来の回復力を高める方が良いですわね……『貴方が、癒せ』」


 幹から光が溢れ、かじられていた葉っぱがみるみる再生されていきます。


「こうすれば術者自身の魔力消費も最低限に抑えられますわ。但し、回復する対象の体力が明らかに落ちている場合は、この回復方法は逆に致命的になってしまいます。その場合は」


 今度はリブラが必死に癒やそうとしていた枯れ草に、聖なる魔力を流し込みます。


「わたくし自身の魔力を注ぎ込み、内部から直接癒やしていきます……『わたくしが、癒せ』」


 パアアア……


 茶色い葉っぱは青々とした新緑同様に蘇り、傾いていた茎は天を突かんはがりに屹立します。


「相手の容態に応じて、回復魔術を使い分けるのです。これが沢山の方の傷を癒やすコツですわ」


「ほ、ほへぇ~」


「病気の場合は、また少し違ってきます。元となっているものに攻撃する、という術式になりますわ。ですから先程のような癒やす魔術は、逆に病気の元を活性化させてしまう恐れがありますので、ちゃんと症状を見極める〝眼〟が必要になってくるのです」


「眼、ねえ……ううぅ、難しいなあ……」


「相手を殺す術を学んできた貴女には、傷を癒やす系統の方が合いますわね。まずはそこから磨いていきましょう」


「は、はい……先は長いぃ」


 そんな会話をしていますと、慌ただしく駆けてくる鎧がぶつかり合う音が響いてきました。


「……ふう。せっかく後継者を育てる喜びに満たされてましたのに……不粋ですわね」


 ため息を吐きつつ、現れるであろうもう一人の弟子を待ちます。


「て、てえへんだああ! てえへんだてえへんだ、てえへんだあああ!」


 ……てえへん?


「てえへんだあ、親分!」

「誰が親分ですの……と言うより、何なんですの、それ?」

「うい、一度やってみたかった」


 ……時々リジーが分からなくなります。


「あ、三角形のじゃないの?」


 …………。


「リブラ、寒いですわよ」

「リブラ、オヤジギャグ」

「はぅぅ!?」


 リブラが往来で横たわるのを放置しながら、わたくしはリジーから話を聞きます。


「何があったんですの?」


「そ、そ、総動員令が」


 え?


「まさか、総動員令が発令されましたの?」


「は、はいぃ! 全ロードは聖地に出頭するように、と」


 ………そうですか。


「また、戦争ですのね……」


 戦争、という言葉に、リブラが反応しました。


「まさか……北の?」


「ええ。北大陸からの圧力ですわね」


「ちぃ……また魔王教の連中か」


 魔王教信仰の国は、南大陸では一番北の魔国連合くらいしかありません。


「やはり、海ですの?」


「魔国連合を経由して、だろうね」


 前回と同じパターンですわね。


「あ、あの?」


「何ですの、リジー」


「ま、魔王教って?」


「「………………は?」」


「あの、魔国連合って?」


 し、知らないんですの?


「貴女、元諜報部隊員でしょう?」


「うい。だけど私は国内専門だったから」


 そ、そういう問題では無いような気が……。


「はあ……分かりましたわ、説明して差し上げます。魔王教とは……」



 長くなりそうじゃからの、魔王教については掻い摘まんでワシが説明しよう。

 魔王教というのは魔王崇拝では無く、魔王封印を願う宗教じゃ。

 簡単に言えば「魔王マジ怖いよね。だから祭って誉めて讃えまくって、いい気分で大人しくしててもらお」っという事じゃな。主に魔王のお膝元である北大陸で信仰されておる宗教での、南大陸の聖心教とは教義が相容れず、過去を振り返っても争いが絶えなんだのじゃ。シスターが参加した戦争と言うのも、この宗教間の争いの事なのじゃよ。



「…………くっだらない」


 リジーがポロッとこぼした言葉が、全てを物語っています。そうです、ハッキリ言ってくだらない戦争なのです。


「ですが、抵抗しない訳には参りませんわ」

「どうして?」


 目を閉じて、わたくしはため息混じりに言葉を紡ぎ出しました。


「だって、魔王教の最終目的は、聖地サルバドルに眠る魔王妃なのですから」 

さあ、戦争だ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=529740026&size=200 ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ