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聖女様の閑話

「お姉様~♪ お姉様♪」


 あああ、久し振りにお姉様の御尊顔が拝見できますわ……♪


「待っていて下さいね~、お姉様~♪」


 うふふふ、秘密の突撃訪問、どんなリアクションをされるのかしら。


 ズギャアアアン!

「ひぎゃあああああ!?」

 ズガガガガガン!

「ぽげええええええ!?」


 あら? あの美声はお姉様では?


「どうにも……様子がおかしいような……?」


 バギャアアアン!

「ひぃあぁあぁあぁ!?」


「ま、まさか、あの悲鳴は……」


 嫌な予感がして、私はお姉様の元へ駆け足で急ぎました。

 すると。


「あははははははははは! もう参ったんですの? それではリジーの足元にも及びませんわよ!」

「も、もう、もう無理ぃぃ……」

「あははは、まだ修行は序の口ですわよ。まだまだ厳しくなりますから…………あら?」


 な、何なんですの、あの猛々しいシスターは?


「リブラ、貴女によく似た女性が、こちら側を呆けた様子で見入ってらっしゃいますわよ?」

「無理無理無理ぃぃ…………え?」


 私の前に現れたお姉様は……あんなに煌びやかで美しかったお姉様は……。


「ラブリ、どうしたのよ、一体?」


 質素な修道服で身を包み、化粧っ気の無い素顔で私を迎えてくれました。

 しかも、擦り傷と泥だらけの状態で。


「……キルユー」

 ガギィン!

「……リブラ、貴女の家ではこれが挨拶ですの?」


 私とシスターの鍔迫り合いの横で、お姉様が焦った様子で駆け寄って来るのが見えました。



「大変申し訳ありませんでした」


 お姉様を苛め……いえ、稽古していらっしゃったのが、聖女様だったとは……。


「頭を上げて下さいまし。誤解されても仕方が無い状況でしたから」


 そう言って頂ければ……はぁぁ、私とも在ろう者が、聖女と讃えられるような立派なシスターに刃を向けてしまうとは……。


「それにしても、一体どうしたのよ?」


「どうしたのよも何も、音沙汰が全く無いんですから、心配して当たり前でしょう?」


「……リブラ、ご家族との連絡を禁止した覚えは無くってよ?」


「あー……ただ単に億劫だったから」


 億劫!? お姉様が私に連絡するのが億劫!?


「お、お姉様にとって私は、その程度の存在……!?」

「え?」

「あ、ヤバ」


 シュインッ

 剣を抜き放ち、自らの首筋にっ!

「もう死ぬしか……死ぬしかぁぁ!!」

「待って待ってストップストップ! 大好きだから! ラブリが大好きだから!」

「……本当に?」

「本当に!」

「誰よりも?」

「誰よりも!」


 その言葉を聞きたかったのです。落ち着いた私は、剣を鞘に戻します。


「良かった……まさかシスターに心変わりしたのかと」

「…………」

「なっ……やはり、死ぬしか! 死ぬしかぁぁ!!」

「待て待て待てええ!」



「グスン……わ、私、お姉様を聖女様に奪われてしまったのですわ……」


 夜更けに一人、聖女様が住む聖リファリス礼拝堂近くの公園で、お姉様の姿を求めて彷徨っている最中です。


「結局お姉様からはお叱りの言葉を頂いてしまいましたし……」


 それはそれで良いものでしたが……。


 ザッ


 っ!?

 背後に気配を感じて飛び退き、剣を抜き放ち……。


「待って、怪しい者では無い」


 自らを怪しくないと仰るのは、全身を鎧で固めた女性でした。


「……突然背後を取ろうとした者の言葉、信用できる筈がありません」


「むぅ、確かに」


 そう言って女性は兜を脱ぎ……あら、意外と可愛らしい。


「私、リファリスの護衛で、聖騎士で呪剣士のリジーと申すと思われ」


 お、思われって……いや、それ以前に。


「聖騎士様ですのに、呪剣士なんですか??」


「いや、呪剣士だったのに、聖騎士にされて困惑中」


 確かに、それは困惑しますわね……。


「で、今は聖女……リファリスに聖属性の扱いを叩き込まれ中」


 それはそれは、お気の毒に。


「そう言えばリブラも聖属性叩き込まれ中」


 そうですね、リブラも……ん?


「貴女、お姉様を知ってますの?」

「知ってるも何も、隣の部屋に住んでる」


 そうですの、隣の部屋に……隣の部屋?


「つまり、一つ屋根の下に?」

「むぅ……不本意ながら、そうなる」


 不本意、ですって?


「貴女、お姉様と一つ屋根の下の、何が気に入らないんですの?」


「不本意は不本意。リブラとは反りが合わない」


 反りが、合わない。


「何故ですの? 女神に愛されて加護を受けたようなお姉様の、何が気に入らないの?」


「だって、狙っているものが同じだから」


 狙っているものが同じ……つまり。


「貴女も、聖女様に?」


「う、うん、まあ……今は二番目だけど」


 二番目?


「でも、もしも戻れないのであれば、一番になると思われ」


 は、はい?


「オホン……何はともあれ、狙ってるのは本当」


 な、成る程……つまり、お姉様には何の興味も無いと。寧ろ、邪魔だと。


「……リジー、でしたね」

「そう」

「ならば、私と組みませんか?」

「は?」


 私はお姉様が居るであろう、灯りを見上げながら答えました。


「私はお姉様が大好きです。と言うより、お姉様以外に興味はありません」


「……シスコン?」


「はい、認めます。重度のシスコンです。だから、お姉様を聖女様に盗られたくありません」


「ああ、つまりリブラがリファリスとくっ付くのを阻止したい。だから私と組みたい?」


「そうですわ。如何です?」


 リジーさんがお姉様と真っ向勝負を挑みたい、という方だったら、誘いを断るでしょうが。


「乗った。組もう」


 ……そこまで堂々とした方では無かったようです。

明日から新章です。

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