表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

86/428

水中戦な撲殺魔っ

 な、何はともあれ、う、海の大祭も、フィ、フィナーレじゃな。魔術花火の饗宴じゃ。


 ザバ……


 む? この反応は……もしや。


 ザアアアア……


 まさか……このタイミングでか。これはいかん。


 キシャアアアア!


 ……彼奴には申し訳無いが……今回は仕方無いの。



『……巨大な……気配が……近付いて……』


「っ!?」


 何かの声が聞こえた気がして、辺りを見回しますが…………気のせいでしょうか。


「どうしたの、リファリス?」


 水着から修道服に着替えようとしていたリブラが、訝しげにわたくしを見てきます。


「い、いえ……これは『御神託』? ですが、いつもとは違うような……」


『巨大な……イカが……』


「巨大……イカ!? ま、まさか!」

「リ、リファリス!?」


 まだ着替えていないわたくしは、水着姿のまま浜辺に向かって駆け出します。


「まさか、再びアレが動き出したんですの!?」


 正体不明の『御神託』擬きが、どうか外れていますように。



 擬きで悪かったの!



 浜辺では、既に魔術花火が上がり始めていました。様々な光が、静かな海に彩りを加えます。


「ちょっと通して下さい!」


 人混みを通り抜け、最前列に出て暗い海を睨みます。


「シスター、まだ着替えてなかったのですか?」


 顔見知りの衛兵さんに会いましたが、今はそれどころではありません。花火の光を頼りに、真っ黒な海面をジッと見続けます。


「シスター?」


 ……ザバ


 あ、あれは、テンタクルスの触腕!


「衛兵さん、落ち着いて聞いて下さい。『御神託』……があり、テンタクルスがこちらに向かっていると」


 テンタクルスという単語に、衛兵さんの表情にに緊張感が表れます。


「ですので、わたくしが確かめてきますから、いざという時は皆さんの避難誘導をお願いします」

「わ、分かりました!」


 そう言うと衛兵さんは、駆け足でこの場から離れました。


「お願いしますわよ……ふっ!」


 わたくしも緊張感を全身に張り巡らせ、聖女の杖を握って波打ち際まで進みます。


「え、ちょっと?」

「そこは立ち入り禁止だぜ?」


 咎めるような声が掛かりますが、無視して海を見続けます。

 すると。


 ザバ!

 シュルルル!


 わたくしより離れた場所から触腕が現れ、海に近い人々を捕らえようとします。


「天誅!」

 バシィ!


 集中していたお陰でどうにか間に合い、触腕を叩き伏せる事ができました。


「テンタクルスです! 急いで浜辺から出て下さい!」


 わたくしの全力の声で、賑やかだった会場が静まり返りました。


「え、テンタクルス?」

「ま、まさか……」

「でもあれって、聖女様だよな?」

「ほ、本当に?」


 そのタイミングで衛兵さんがお仲間を引き連れて駆けつけて下さり、観客の皆さんの避難誘導を始めて下さいました。


「聖女様、こちらはお任せ下さい! すぐに増援も到着しますので、しばらく持ちこたえて下さい!」

「無論ですわ」


 前回は取り逃がしましたが、今回はそうはいきませんわよ。


「リファリス!」

「何か出てくると思われ?」


 今回は頼もしい味方が居ますから。


「テンタクルスですわ。過去にも一度襲撃を受けています」


「テンタクルスかぁ……厄介だね」

「海の中なら強敵。だけど浜辺に上げてしまえば、単なる海の幸」


 食べたくはありませんが、陸上に上がってしまえば動きが鈍くなるのは事実。


「それは向こうも分かっていますから、海中から触腕を伸ばす攻撃に終始するつもりでしょう」

「だったら、一本釣りしてでも引きずり出すだけ」

「一本釣りするにしても、餌は必要と思われ」


 餌ですの?


「でしたら、わたくしがその役を引き受けますわ」


 そう告げた途端、リブラとリジーの表情が一変しました。


「な、何を言ってるのよ! リファリスを最前線に立たせるなんて、駄目に決まってる!」

「シスターは後衛! 前衛である私が前に出る!」


「そう仰られても、リブラは修道服、リジーは鎧姿。水中で戦うには向いた格好とは言えませんわ」


 それに引きかえ、わたくしは水着のまま。どちらが水中戦に有利か、一目瞭然ですわ。


「ですのでリブラとリジーは、水中からの触腕攻撃への対処をお願いします」


 そう言ってからわたくしは、海へと駆け出しました。



 キシャアアアア!


 前回の戦いで、杖での打撃が通じない事は分かっています。


「ならば有効な手段を使うまでですわ。『癒せ、異常を来すまで』」


 奥の手である『過剰回復』を杖の先端に纏わせ、触腕に突き立てます。


 パアアアア……ボロッ

 ギシャアアア!!


 中間からもげ落ちてしまった触腕。テンタクルスが苦痛の咆哮を発します。


「触腕ではなく、本体に『過剰回復』できれば……」


 危険は承知の上で、相手の懐に飛び込みます。

 が。


 シュルルル!


「く……! 数が多すぎます!」


 連続で襲いかかってくる触腕の数に、杖だけでは対処できません……!


「リファリス!」

「援護するです!」


 苦しむわたくしに、リブラが矢を放つ事で、リジーがブーメランを投げる事で、救いの手を差し伸べてくれます。


「ありがとうございます! 終わったら必ずお礼致しますわ!」


 水中に潜り、高速で泳ぎ進むと……。


(見えましたわ!)


 テンタクルスの背後に回れました。杖を構え、そのまま突っ込み。


(天誅!)

 ドズッ!

 ギシャアアア!?

(天罰!)

 ゴズッ!

 ギシャ! ギシャア!!

(滅殺! 必殺! 撲殺!)

 ガッ! ガッ! ズムッ!

 ギィィィアァァァ!!!!


 海の中にテンタクルスの断末魔の振動が響き渡り……。


 ……ゴボッ。


 わ、わたくしの息も……。

シスターは無事なのか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=529740026&size=200 ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ