ギリギリな撲殺魔っ
あ、あの大胆な水着で、本当に説法をしよるわい……い、色んな意味で流石はシスターじゃな。
「……わたくし達の行いは、全て主に見守られ……」
最初は揺れる胸目当てに集まっておった若い男共も、段々と話に聞き入っておる。煩悩すらも無視させてしまうシスターの説法、見事と言う他ないの。
む、そろそろ終わるようじゃな。
「……以上でございます。御拝聴、ありがとうございました」
わあああっ! パチパチパチパチ!
ふう……ようやく終わりました。
「流石だねえ、リファリス……」
「堅っ苦しい話になりがちなのに、あんなに人を惹き付けてる。カリスマと思われ」
大きな拍手の中、壇上から降ります。
「お疲れ様、リファリス」
差し出された水を口に含み、リブラに笑顔で応えます。
「~~っ!! こ、これは反則……!」
何が反則なんですの?
ガシャンッ ズゥン!
「リブラはリファリスの水着姿に当てられてるのに、更にニッコリ微笑まれて失神寸前と思われ」
「よ、余計な事を言うなあ!」
ガィン!
「あきゃあああ!」
……? 何をしてるんですの、リブラは。
解説すると、照れ隠しに突っ込みを入れたのじゃが、相手はフルアーマーのキツネ娘じゃ。強靭な鋼をモロに叩いてしまい、自分がダメージを受けたのじゃな。
「ふっふっふ、今の私は無敵なりぃぃ」
「く、流石は全身鎧。突っ込む箇所が見当たらない……!」
つっこみ、ですの?
「つっこみ、とは具体的にどのような?」
「突っ込みってのはね、相手がボケた時にすかさず入れる合いの手みたいなものよ」
「愛の手、ですの?」
「そう、合いの手」
愛というなら、尊きもの。尊きものは、主のお導き。主のお導きは、聖なるもの。
「つまり愛の手とは、聖属性の一撃ですのね?」
聖属性の魔力を集中させた右手で。
ブンッ メゴォ!
「ごふぉお!?」
リジーにつっこみます。
メキメキッ バキャア!
パアアアア……
「ゲホゲホ! あ、あああ! 呪われアイテムが! 私の秘蔵の呪われアイテムがあああ!」
私の一撃で呪いが解け、邪気が浄化されていきます。
「リジーはこれをお望みでしたの?」
「違ううううううっ!」
「……流石はリファリス、突っ込み一つ取ってもレベルが違うわ」
説法会の後は、皆さんがそれぞれに出店された夜店を楽しみながら、フィナーレの魔術花火を待ちます。
「……相変わらずリファリスは肉は食べないねえ。もしかして、聖女様って肉食禁止なの?」
「いえ、完全にわたくしの好みですわ。主は『奪った命を軽んじる無かれ』とお教え下さってますので、感謝した上で食するのであれば全く問題ありませんし」
「あ、そうなんだ……良かった、私、お肉大好きだから」
そう言って鶏肉をパクパク食べるリブラを見て、わたくしは驚くばかりでした。
「仰って下されば、ちゃんとお肉も用意しましたのに」
「いやあ、リファリス見てたらさ、お肉は食べちゃ駄目なのかと思って」
そう言ってペロリと舌を出すリブラは、実に悪戯っぽく笑いました。
「あぁ、だからたまに買い物中に串焼きを買い食いしてた?」
代わりの呪具を提供する事でようやく機嫌が直ったリジーが、話に割り込んできました。
「あ、それは言わない約束だったよね?」
「問題無いなら別に良いと思われ」
「あ、そだね。問題無いんだった」
あら?
「問題無くはありませんわよ。殺生禁止の週は、勿論駄目ですわよ?」
「え?」
「殺生禁止の、週?」
「はい。主の生誕祭に合わせて、御先祖様がこちらの世界に帰って来られる週は、殺生も肉食も禁止ですわ」
「そ、そうなの? 私、知らずにバクバク食べちゃったよ」
「私も」
…………あらああああ?
「わたくし、先々週にちゃんとお教えした筈ですわよおお?」
「「……え?」」
「その週に入る先日、夕飯の際にちゃんと説明しましたわよ? 明日から一週間は肉食は禁止です、と」
「え……っと」
「そうだったっけ?」
「……リジーはともかく……リブラ、修行中の貴女は、ちゃんと守って頂かなくては困りますわよ?」
「あ、あはははは、ごめんなさい」
「はい、次回から気を付けて下さい」
分かっていて食べていたのでしたら撲殺ですが、今回は初犯でもありますし、大目に見て差し上げますわ。
「あれ、でもリブラ、バレなきゃいいかって言ってフガフガ」
「ば、馬鹿! 余計な事を」
…………へええええええええ。
「わたくしの忠告を、敢えて、無視したんですの?」
「あ、いや、そう言う訳では」
「ちなみに先々週の話」
「リジー!?」
……先々週ですの。
「つまり、肉食禁止の週に、敢えて、お肉を食べる事を、敢行したのですね?」
「あ、あはははは、あはははは……」
「あはははは、あはははははははは! ありがたいですわぁぁぁ……だぁぁぁってぇぇぇぇ……」
わたくしはニッコリと、紅い月を浮かべて。
「今は、殺生禁止の週からは外れてますものおおおおおっ!」
「きぃ、きぃあああああああっ!!」
紅月化したシスターが、喜々として首だけ令嬢を追いかけ回しておるのう。
おほ、揺れる、揺れるのう。おほ、もう少し、もう少しで外れそうじゃ。
「あはははは、待ちなさい!」
「いいいいいやあああああ!!」
ほれ、もうちょい、もうちょい。
ブチッ
おほ、外れおった!
「天誅!」
ブゥン!
ボガッ!
ぐふぅお!?
な、何故にワシが殴られるんじゃ…………ぐふっ!