破廉恥千万の撲殺魔っ
「え、やるの?」
「マ、マジで?」
「し、仕方無いではありませんか。このまま無観客で行う訳にも参りませんし……」
わたくしは新しく刷り直したポスターを貼り出しながら、ため息を吐くしかありませんでした。
「しかし、リファリスも……」
「思い切った真似を……」
ポスターにはこのような告知がなされていました。
『再来! シスター・リファリスの水着だらけの説法会』
前回のトラウマも無くはなかったのですが、一応水着を持ってきておいて助かりました。
「リファリス、着替えた?」
「ええ、もう宜しくてよ」
長年愛用している水着に着替え、同じく着替え中の二人に向き直ります。
「待って。せーの、で見せ合いっこしよ」
「別に構わないであーる」
「分かりましたわ……と言うより、見せる程のものではありませんが」
「「リファリスがそれを言わないで」」
本当に見せる程のものでは無いのですが。
「じゃあいくよ……一、二、三!」
一斉に振り向き。
「……はあああ?」
「な、何ですの、それは!?」
「あ、あり得ないと思われ!」
三者三様の反応が、わたくし達が居る部屋に響きました。
「まずはリファリス、それは無い!」
わたくしから見れば100%あり得ない格好をしているリブラから駄目出しを頂きました。
「何が駄目なんですの? わたくしが百年程前から愛用している高級水着ですわ」
「百年前って時点で時代遅れ確定だから!」
そういうリブラの水着は……何と言いましょうか……。
「破廉恥千万な貴女に言われたくありませんわ」
「そうだそうだ、露出狂」
いえいえ、リジーのそれもあり得ませんわ!
「リジー、あんたさ、それって単なる防具じゃないのよ!」
「失敬な。対水属性に特化した呪われアイテムなのに」
「対水属性は海水浴に使うものではありませんわよ?」
まあ、簡単に言ってしまえばじゃ。
シスターは身体の半分以上を覆う、時代遅れ過ぎな水着。
首だけ令嬢は肝心な部分しか隠していない、ビキニアーマーと称される鎧と似通ったデザインの水着。
キツネ娘は……普通に全身鎧じゃな。
「じゃあリファリス、あんたの格好がどれだけあり得ないのか、まずは海水浴場へ行って確認してみよ!」
「確認って……わ、わたくし、この格好で出歩くんですの!?」
「いやいや、海水浴場に行けばその格好の方が恥ずかしく感じるから!」
そう言って無理矢理連れ出されたわたくしは、そのまま浜辺を歩かされ。
「ほら、見えてきた。あれが今の常識的な水着だよ」
「なっ……~~~~っ!!!?」
海水浴場に入ったわたくしは、あまりの光景に両目を覆いたくなりました。
「ね。私の水着でも大人しい方でしょ」
お、お腹が出ているのは当たり前、脚は付け根まで晒しているのが当たり前、む、胸の谷間まで……!
「現実を見てから、自分のを見たらどう思う?」
「じ、時代遅れとか言う問題ではありませんわ! わ、わたくし、この格好でも顔から火が出る思いですのに、あ、あ、あんな破廉恥な……!」
そう言ってしゃがみ込むわたくしを、再びリブラがせき立てます。
「そう言うなら、あそこの店に行ってみよ。老若男女全対応の水着専門店だから」
老若男女…………つ、つまり、お年寄りがお召しになる水着もあるのですね。
「わ、分かりましたわ。でしたら、行きましょう」
いくら何でも、お年寄りがあんな大胆な水着は着用しないでしょう。その事実を盾に、この水着の正当性を証明してみせますわ。
が。
「こちらが高齢者用の水着になります」
「こ、高齢者用でこれですの!?」
あ、脚の付け根まで露出するのが、当たり前なんですの!?
「ねえ、店員さん。シスターのあれ、水着だって思える?」
「あら、水着だって分かりますよ」
ほぅら、リブラ。ちゃんと水着と認識されてますわよ?
「学校の歴史の教科書に出てました」
ガンッ!
「え、あ、あの、お客様? 顔、痛くありませんか?」
きょ、教科書……わたくしの格好、歴史の教科書レベルですの……。
「く、くひひ、歴史の教科……くひひひひ!」
リ、リブラ、笑いすぎですわよ!
「て、店員さん、シスターにピッタリの水着、選んであげてよ……くひひひひ」
「お客様にピッタリな水着ですか?」
も、もう、立ち直れませんわ……。
「あの、申し訳ありませんが、そちらのお客様がお召しになられそうな水着は、かなり限られてしまうのですが……」
「かなり限られるとは、やはり同じデザインのものがありませんの?」
「同じデザイン? いえいえ、そんな博物館級の代物、当店にある筈が」
ガンッ!
「お、お客様? 顔、本当に大丈夫ですか?」
「くひひひひ……ね、ねえ、店員さん、自然にリファリスを追い込んでるよね?」
「はい?」
この店員さん……天然ですのね……。
「それより、限定される理由は何?」
「あ、はい、それは……サイズ的な」
「あ~……驚異的な胸囲ってヤツか」
「こ、こんな格好しなくちゃならないんですの!?」
「はい、サイズ的にはこれしか合うものが……」
あ、赤い三角が恥部を覆うだけの、こんなものが水着なんですの!?
「うわあ、しかも紐ビキニ……私でも御免被るわ」
リブラ!?
「ですが、よく似合ってるわ……悔しいくらい」
「はい、よくお似合いですよ」
「こ、こんな破廉恥千万なもの、わたくし着れませんわ!」
「なら、教科書レベルで」
「博物館級の水着になさいます?」
ううぅ!