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水着の撲殺魔っ

 港の説法会について解説しようかの。この世界は魔術が発達しておるが、それ以外はそなた等の世界で言えば……中世の頃の技術レベルじゃ。

 その時代の船となれば帆船や手漕ぎ船が主で、最新の魔術制御船はまだまだ出回っておらぬ。つまり、海難事故が非常に多い時代じゃった。

 そんな背景がある故に、沿岸部では聖心教以上に土着の海神信仰が盛んでのう。船の無事を願い船員やその家族が一年に一度、海の大祭を開き海神を祭っておったのじゃ。

 命に関わる事案故に、聖心教もそれらを否定する事はせず、逆に海神信仰を取り込んで儀式化しておるくらいじゃ。それがシスターが言っておった、港の説法会なのじゃよ。

 何と言っても、聖女たるシスターのお膝元。その説法会ともなれば、その盛況ぶりたるや……。



「…………」


 説法会の会場に到着したのですが……。


「……誰も……」

「居ないと思われ」


 誰も居ません。わたくしを案内して下さった係員の方に視線を向けますが、サッと逸らされます。


「あの、ちゃんと広報して頂いてますわよね?」

「はい、勿論です」

「告知日付、間違ってませんわね?」

「はい、勿論です」

「なのに……これですの?」


 人っ子一人、居ません。


「……リファリスって、案外不人気?」


「説法に人気も何もあったものでは無いのですが……」


 係員の方は、大きな大きなため息を吐き。


「おそらく……去年のアレを期待しているのではないかと」

「え゛」


 去年の……アレですの!?


「……去年の、アレ?」

「アレ、何なのか、気になる」


「…………」


 その話をするつもりは、一切ありませんわ。


「気になる気になる」

「気になる木」


「気になりません。それ以上気になるのでしたら、撲さ」

「去年シスターは水着姿で説ぽ」

 バガッ!

「ごぶぅ」

「それ以上喋ったら撲殺しますわよっ!」


 頭をかち割られて横たわる係員を見ながら、リジーが一言。


「……もう手遅れと思われ」


 あああっ! 罪無き方に何という事をを!



 おお、そう言えばそのような事があったの。どれ、ワシが説明してしんぜよう。

 それは去年の説法会の途中じゃった。当時の説法会はやはりシスター人気によるものもあってか、それはそれは大盛況じゃった。


「……と言う訳で、主と同様に、海神様も我々を見守られていて……」


 皆が熱心に聞き入り、海神に安全な航海を祈っておる途中じゃった。


「た、大変だああ!」


 浜辺から助けを求める声が響いてきたのじゃ。


「っ!? どうかしまして?」


 シスターを始め、説法会に参加していた漁師達が駆け付けると。


 キシャアアアアア!


「テ、テンタクルス!?」


 船の大敵として恐れられるテンタクルスが浜辺で人々を襲っておったのじゃ。


「な、何故こんな浅瀬にテンタクルスが!?」

「さ、最近沖に住み着いておったのは確認しておったが……餌が乏しくて村を襲ってきおったか!?」


 普段深海に生息しておるテンタクルスじゃが、食料を求めて浅瀬に来る事は稀にある。そのタイミングで、人間が浜辺に集まっておったもんじゃから……。


「うああああ!」

「く、食われるぅぅ!」


 腹が減ったテンタクルスには、ご馳走の山に見えたじゃろうて。


「皆さんは退いて下さい!」


 聖女の杖を取り出し、テンタクルスに捕らわれた人々を救い出すシスター。


 バシッ!

「早くお逃げなさい!」

「あ、ありがとう、シスター」

 ビシッ!

「今のうちですわ!」

「た、助かった!」


 捕まっていた人々を次々に救出していくシスター。しかしテンタクルスが黙っている筈は無いの。


 キシャアアアアア!

「天誅!」

 バシィ!


 流石にシスターの一撃も、軟体のテンタクルス相手では効果が薄いようじゃ。

 やがて。


 グルルッ

「く、しまった……!」


 不意を突かれたシスターは、腕の一本に巻き付かれてしもうた。


「シスター!」

「早くシスターをお助けするんだ!」


 漁師達も黙ってはいない。銛を投げてテンタクルスに対抗するが、如何せん体格差がありすぎる。


 キシャアア!

「「「ぐああっ!」」」


 腕の一振りで吹っ飛ばされてしもうた。これはシスター、絶体絶命じゃの。


「くぅぅ……し、仕方ありません。食べられるよりはマシです」


 生きたまま食べられるのは流石にシスターも御免のようで、何やら詠唱を始めた。む、これは……。


「……『癒しの光を、この者に』」


 テ、テンタクルス相手に回復魔術じゃと?


「『癒せ、癒せ、生きる為の力を煽れ』」


 いや、これは……。


 シュウウウ……

 ギシャアアア!?

 グズグズ……ボトッ


 ギシャ、ギシャアアア!?


 腕がもげたテンタクルスは、慌てて海へと逃げていってしまったのじゃ。


「ふう、久々の『過剰回復』でしたが、上手くいきましたわ」


 過剰回復か、シスターも味な真似をするのぅ。

 あ、過剰回復とはの、回復魔術を過剰にかける事で、対象の肉体を破壊する魔術じゃ。栄養を花に与えすぎて枯れてしまうようなものじゃな。


「シスター、大丈夫ですかい!?」


「え、ええ……しかし法衣が」


 吸盤に吸い付かれたせいか、ビリビリになっておる。


「着替えは無いんですか?」

「あ、あるにはあるのですが……」



「……で、結局こっそり持ってきてた水着しか無くて」

「水着姿で説法を再開したと……そりゃ、水着説法の方が見たいに決まってる」


 ううぅ、夜中にこっそり泳ぐつもりで水着を持ってきていたのが、バレてしまったのです……。


「シ、シスター、今回も水着説法を」

 バガッ!

「しません……あああっ! わたくし、また罪無き係員様を撲殺してしまいました! 主よ、お許しを!」



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