呪具と撲殺魔っ
「痛い熱い痒いヒリヒリピリピリビリビリー!」
「悪かったですわ……ほら、ジッとして下さい」
追いかけてみると、礼拝堂の中で全身火傷状態になったリジーが倒れているのを発見し、急いで治療しているところです。
「はい、『癒せ』」
パアアアア……
「く、ぐ、ううう……」
火傷自体は治すのは難しくありません。問題は、何故にこうなったのか、です。
「リジー、まさかとは思いますが……神具の鎧が原因なのですの?」
「そうっ!」
リジーの様子がおかしくなったのは、呪具の「肉付きの鎧」を浄化し、常時体力回復の効果を付けた神具に生まれ変わらせてからです。
「一体何があった!? 心地良い呪いに身を委ねていたら、突然祝福で全身を焼かれた!」
祝福で全身を火傷した、というのが信じられないのですが……実際に目にしてしまいましたから、間違い無いのでしょう。
「申し訳ありませんでした。その傷はわたくしが原因ですわ」
「…………リファリスが?」
「はい、実は……」
今までの経緯を掻い摘まんで話します。
「なっ…………つ、つまり、リファリスが」
「はい、呪いを浄化し、祝福を付与した時から様子がおかしくなりましたから……」
おそらくは、わたくしの術式が失敗したのが原因では……。
「の、の、呪われアイテムがあああああああ!!」
はい?
「呪われアイテムが! 世界に一つだけしかない、呪われアイテムがああああ!」
あ、あの~……?
「もう戻らない呪い! あの心地良い呪い! 全身を燻すような、香しき呪い!」
く、燻製ですの?
「その貴重な呪いを! 重要文化財的呪いを! 国宝級の呪いを、浄化しちゃうなんてえええ!!」
「えっと、その、全身火傷状態になるような失敗祝福を怒っているのでは……ありませんの?」
「祝福に身を焼かれるのはいつもの事!」
祝福に、身を焼かれる?
「私、呪剣士だから、呪われアイテム以外は装備できない。だから、祝福は逆に害にしかならないっ」
そうなんですの!?
「わ、わたくしの知り合いにも呪剣士はいらっしゃいますが、そんな話は聞いた事がありませんわよ?」
「レベルが違う、レベルが。私は呪剣士を超えた呪剣士なり」
そ、そうなんですの。
「だから、私が怒っているのは、全身火傷程度の事ではナッシング」
な、なっしんぐ?
「私が怒っているのは……貴重な呪われアイテムを台無しにしてしまった事以外に無かりけり!」
な、なかりけり?
「だからリファリス! 失われた呪われアイテムを弁償しなさい」
「あ、はい」
弁償で済むのでしたら、それで構いませんわ。
「え、弁償してくれるの?」
「ええ、まあ。教会の倉庫に沢山ありますから、好きなのを持って行って下さいな」
「……それ、弁償じゃないと思われ」
いえ、弁償ですわよ。
「いいですか。呪具は基本的に装備者に災いしかもたらしません」
「うん」
「つまり、需要が無い訳です。ですから、どこの店でも買い取りすらなさいません」
「うん」
「つまり、どう転んでも教会に行き着く訳です」
「……それで?」
「呪具なんて銅貨一枚にもならないのですわ」
逆にお祓いの為の料金を払わなくてはならない事もあるくらいで、呪具廃棄が社会問題になっているくらいなのです。
「ですから、弁償で宜しければ、銅貨数枚になりますわよ?」
「いえ、ありがたく頂戴致します」
そのままリジーは倉庫へと物色しに行ってしまいました。
「ま、まあ、リジーの身に変調が起きたという事は、わたくしの術式は間違って無かったのですわね」
ホッとしたような、そうでないような、複雑な気分です。
「うむ、満足なり」
幾つも呪具を抱え、ご満悦な様子のリジー。
「銅貨数枚の価値しか無い廃棄物でご機嫌になるんだから、安いもんよね」
茶々を入れるリブラに殺気を向けるものの、わたくしに睨まれてリジーは大人しくなりました。
「それでリジー。祝福が先天的に身体に合わない事は、誰にも言っては駄目ですわよ?」
「別に言うつもりは無いけど、一応何で?」
「主の祝福を受け入れないなんて、リブラと同じように闇の住人と思われても仕方ありませんわ」
「そうね。私もデュラハーンである事は秘密にしてるし」
そもそもリブラがこの教会に住み込みになった理由も、デュラハーンであったが故に命を狙われたのが原因でしたわ。
「つまり、私もバレればしつこくしつこくしつこく狙われる可能性、大?」
「「大」」
「ううむ、しつこく狙われるのは嫌。分かった、言わない。ていうか、言うつもりは毛頭無い」
その方が身の為でしてよ。
「貴女もアンデッド狩りに狙われた方がいいんじゃな~い?」
「そのアンデッド狩りにボコボコにされて、首だけで死にかかってたのは、何処の何方だったかしら~?」
ギィン!
「ふふふ……あんたもデュラハーンみたいにしてやるわ。首と身体は今日限りで、永久のお別れになるのよ」
「ふふふ……やれるもんならやってみろ、と思われ」
「貴女達は……いい加減になさいな」
わたくしの介入により、不承不承ながら剣を退きました。
「ああ、そうでした。言い忘れてましたが、リジーもリブラも泊まりの準備をして下さい」
「え? い、いきなりだね」
「何があった?」
「明日から港での説法会がありますから、二三日泊まり込みです」
「港での……」
「……説法会?」
「ええ。もうすぐ海開きですから、海難事故防止の為の祈祷もするのですわ」
「海開き……」
「つまり……」
リブラとリジーが珍しく手を取り合います。
「「海水浴!」」
「まあ……休憩時間に泳ぐくらいなら、構わなくてよ」
「「やたー!」」
水着回近し。