世間知らずの撲殺魔っ
カッカッカッカッ
広い廊下にわたくしの歩く音が響きます。
「シスター、今日はどうされ……シスター?」
「シスター・リファリス、何か用事……あ、あれ? シスター?」
すれ違う中に、よく教会にお見えになる方もいらっしゃいましたが、今回は軽く会釈するだけに留めました。謝るのは次の機会に。
「……あの部屋でしたわね」
重厚な造りのドアの前には二人の衛兵さんがいらっしゃいます。申し訳ありませんが、こちらも無視します。
「あ、シスター。今は会議中…………え?」
「待って下さい、ストップストップ!」
バアアアン!
蹴破る、と言うくらいに強烈な勢いで開く扉。これも後で謝罪致します。
「だ、誰だ、騒々しい!」
長いテーブルの市場奥に、町長様が座ってらっしゃいます。
「朝早くから失礼致しますわ、町長様」
「あ、貴女は……シスターではありませんか」
会議中に乱入してきた不届き者を見た人が数人、わたくしに歩み寄ります。
「シスターが一体何の用かね! 会議中に無理矢理入ってくるとは、聖職者らしからぬ蛮行だな!」
「衛兵は何をしているのだ! さっさと摘まみ出せ!」
「これは由々しき問題ですぞ、聖女様!」
強気で出る者達に対し、わたくしは再び左手の指輪をかざします。
「お静かにお願い致します。シスター・リファリス、ロードの権限を以てこの場に参上致しました」
ロード、の言葉を聞いた方々が、明らかにたじろいだ様子でわたくしを見返します。
「ロ、ロード!? シスターが!?」
「シスターがロードを務めるなど、聞いた事が無い!」
あらあら、随分とお古い考え方ですわね。
「男尊女卑など、今時流行りませんわよ?」
「なっ!?」
「大体ロードの証でもある指輪を見せているのですから、疑いようが無いのではありませんの?」
そこまで言われては反論もできず、わたくしを睨むに留めます。
「静かになったのでしたら、早速用件を。すぐに衛兵さんを動かして頂きたいので」
「衛兵を……動かす?」
わたくしは懐から例の鉄ゴテを取り出すと、テーブルの上に置き。
「……奴隷禁止の詔を無視する輩がいらっしゃるようですので、捕まえて頂きたいんですの」
奴隷、と言う言葉を聞いて、室内は再び騒然となりました。
「……話は分かりました」
わたくしの話を聞き終えた町長様がそう呟き、深く深くため息を吐きます。
「……誰かは知らないが……何という愚かな真似を……」
事の重大さを理解した方々は、完全に黙り込んでしまいました。
「あ、あのぉ」
そんな中で一人だけ、わたくしに不審な視線を送り続けていた男性が手を挙げました。
「ん、何だね」
「いや、あの……わざわざ今話す必要がありますかね?」
男性の言葉は、違う意味で会議室内を凍り付かせました。
「な、何を言ってるんだね?」
「ですから、わざわざこの場で話す程の事ではないでしょう。警備隊に連絡して、取締りを強化してもらえば済む話では?」
こ、この方は何を仰ってるんですの?
「き、君、何を言ってるんだね?」
「ですから、警備隊長の権限で治まる話を、わざわざ重要な会議中にぶちあげる必要性は無いのではありませんか?」
……重要な……会議ですか。奴隷が存在する現実よりも、重要だと言いたいのでしょうか。
「失礼ですがシスター、聖女聖女と持ち上げられて自身の権限を過信しておられませんか?」
「な、何て事を!」
「いくら何でも失礼だぞ!」
周りから非難されても、男性の口は止まりませんでした。
「大体世間知らずなお嬢様が、神聖なる施政会議にしゃしゃり出てくる事自体が考えものですよね?」
世間知らずなお嬢様……ですか。
「……先程から随分と強弁なさってらっしゃいますが、わたくしがロードだと分かった上での暴言ですの?」
「ロードの何が偉いんだ? 宗教が政治に口を出すなってんだよ!」
「君! 今の発言は聞き捨てならんぞ!」
「発言を取り消して謝罪したまえ!」
町長様を始め、周りの方々からも集中放火に晒される男性は、鼻で笑うばかりで気にも止めていない様子。
「……はぁぁぁ……もう宜しくてよ、皆さん」
全く……こんな朝から、もう。
「町長様、少し隣の部屋をお借りしても?」
わたくしの背後を朝日が照らし、顔を影で塗りつぶします。
「ひっ…………ど、どうぞ」
「ありがとうございますぅぅぅ……さぁて、そこの貴方」
「ああ?」
「隣の部屋で、一対一でお話しましょうかぁぁぁ?」
訝しげにわたくしを見た男性は。
「……っ!」
三つの紅い月に照らされて、顔を紅く……いえ、青く変色させていましたわ。
……パタン カチャ
「……『静寂なる壁』」
キィン!
魔術で音を漏れないようにし、準備完了ですぅぅぅ♪
「お、お前、お前は……!」
「あぁらぁ、今頃になってわたくしが誰か分かったんですかぁぁ? 貴方、さては余所者ですかぁぁ?」
「わ、私は、隣町から、赴任してきたばかりで……」
「あらあらあらぁぁぁ。それは大変ですねぇ。わたくしの事も知らなかったんですかぁぁ?」
「し、知り、知り知り知りませんでした!」
「そうですかぁ。なら、仕方無い…………で済む訳無いじゃありませんかぁぁぁ」
聖女の杖を振り上げ、男性に迫ります。
「ひ、ひぃい、来るな! 来るな来るな来るなぁぁぁ!」
「来るなと言われて、来ない殺人鬼は居ませんわよぉぉ……そぉれ!」
ブゥン!
「天誅!」
ゴチャ!
「ぐばっ!?」
「あは、天罰!」
グチャ!
「かびゃ!?」
「あははは! 滅殺! 抹殺! 撲殺!」
グシャグシャゴシャアッ!
ドチャ……
「あははは! あはははははははは! 世間知らずなお嬢様に撲殺されるのは、どぉぉぉんな気分かしらぁぁぁ…………あはははははははははははは!
」
さぁて、すぐに会議に復帰してもらわなくてはいけませんから、すぐに復活させてあけますわ……あははは!
「……はあ……」
「シスターも、あれが無ければなあ……」
心中、お察しするのじゃ。
さて、問題です。
シスターが教会の建具を壊してしまった時、大変嘆いた理由は?
1、ある円盤をセットすると巨大な楽器と化し、時と空間を司るポケモ……いえモンスターを鎮める効果があるため、とても大切にしているから。
2、聖女戦隊キョウカイジャーのロボット・スーパーキョウカイシンの胴体部分のため、とても大切にしているから。
3、溢れる信仰心により、とても大切にしているから。
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