聖女様の閑話
シスターはあまり知らなんだようじゃが、マリーゴールド王女と言えばお転婆ぶりが有名じゃった。
例えば。
「あ、鳥の巣だ!」
「あれは燕の巣でございますね。巣を作られた家は、末代まで繁栄すると言われて…………あら、マリーゴールド様?」
ヂヂヂヂヂッ!
「あー、卵が三個あるー! 一個もーらい!」
「マリーゴールド様!?」
これ以降、燕が王宮に巣を掛ける事は二度と無かったそうじゃ。
更に。
「きゃあああっ!」
「どうしたのですか!?」
「あ、申し訳ございません! そ、その、蛇が……」
「蛇?」
シュー、シュー
「ああ、王宮内に住み着いているアオダイショウですね」
「蛇がいる家は繁栄すると言われてますね。とりあえず放っておきますか」
「あ、蛇だー!」
ガシッ
シャ!?
「え゛」
「ひ、姫様?」
「えいえーい、鞭だ鞭だー!」
ブンブンブン!
ジャアアアア!!!?
「ひ、姫様あああ!!」
このアオダイショウ、解放されてすぐに住処を変えたのは言うまでも無いの。
更に。
ニャアア
「あら、猫ちゃん。どこから迷い込んできたのでしょうか」
「厨房で餌付けしている猫じゃありませんか?」
ニャ
「ひ、人懐っこい……」
「か、可愛い……あ、そう言えば、猫が出入りする家は繁栄するって」
「あ、猫さんだー!」
「あ、マリーゴールド様」
「猫さん、ぐーるぐる!」
ガシッ
ニャ!?
「マリーゴールド様!?」
「ね、猫の尻尾を掴んでは……!」
「猫さん、ぐーるぐる!」
ブンブンブン!
ニ゛ャア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!
「マ、マリーゴールド様!?」
その後、猫が王宮に現れる事は二度と無かったそうじゃ。
更に更に。
「あら、兎」
「兎は幸運の証で」
「あ、兎さんだー!」
ガシッ ブンブンブン!
「あはは、兎さんぐーるぐる!」
「マリーゴールド様!?」
王宮に迷い込んでしまった兎は、二度とこの周辺に現れる事は無かったそうじゃ。
更に更に更に。
クルックー
「あら、鳩」
「平和の象徴ですね。幸運を運ぶとも」
「あ、鳩さん鳩さん♪」
バサッ ポッポー!?
「マリーゴールド様!?」
「鳩を捕まえてはいけません!」
「焼き鳥焼き鳥クルックー♪」
クルックゥゥゥゥ!?
これ以降、鳩が王宮にやってくる事は……もうパターンじゃな。
とにかく、マリーゴールド王女の縁起潰しが積み重なった結果か、王家は急な不幸に見舞われる事になった。
第一王位継承者であった第一王子が急逝し。
繰り上がって第一王位継承者になった第二王子は失踪し。
その他の第三第四第五は王子も、第一王位継承者になる度に、急逝したり失踪したり急逝したり失踪したり。
そして、ついに第一王女であるマリーゴールドしか居なくなり。
「まあ、女王も存在しなかった訳では無いからの」
「幸いにもマリーゴールド様は聡明な御方。立派な女王になられましょう」
マリーゴールド王女は第一王位継承者へと上り詰めたのじゃ。ちなみにじゃが、王位達の急逝失踪は本当に偶然の連鎖である事は明記しておく。
「わ、私が女王!? い、いいのかしら」
「大丈夫でございますよ……多分」
「マリーゴールド様でしたら……おそらく」
侍女達の返事に、王女は眉をひそめた。
「ちょっと、多分とか、おそらくとか、失礼じゃないのよ」
「……マリーゴールド様の今までの行いが……」
「……マリーゴールド様自身に返ってこなければ……」
「うぅっ」
王女はもうすぐ成人。流石に昔のようなお転婆ぶりは影を潜め、王族らしい立ち振る舞いもできるようになっておった。思慮深く思い遣りがあり、侍女達の意見を聞けるような度量もある。王となる器じゃとワシも思うのじゃが……。
ニャ
「あら、猫ちゃん」
「黒猫ですね」
ニャニャ
サッ
「……目の前を通り過ぎましたね……」
ブチッ
「あ、靴の紐が」
ポトッ
「つ、椿の花が落ちて」
バキッ
「箸が折れた!?」
……今までの行いがアレじゃったからの……国が滅ばねばよいが……。
そんな不吉を身にまとったような王女であったが、ある日、転機が訪れるのじゃ。
「あは、あははは、あはははははは!」
「せ、聖女様? 私は王女なのですよ? 第一王位継承者なのですよ?」
「あはははははは! 第一王女を撲殺できるなんて、この身に余る光栄ですわぁぁ……あははは、あはははははは!」
「ひ、ひぃぃ!」
「ではいきますわよ! 天誅!」
ブン バガァ!
「ぎゃあっ」
「あははは、天罰!」
ブン ゴチャア!
「ぶぎぃっ」
「あははは、滅殺! 抹殺! 撲殺!」
グシャグシャメキャア!
……ドシャ
「あはははははは! 王女様が頭をかち割られて亡くなられましたわ! あははは、最っ高。最高ですわ、あははははははははは!」
グギャア……ギアアア……
「……あら? この気配は……何かの怨念ですわね」
ギアアア……ゲァアア……
「五月蝿いですね、『浄化』」
パアアアア……
ギャアアアア!
「あら、随分と凝り固まった怨念ですわね。ならば直接……天誅!」
バシィィン!
グゴワアアアアアア!
ジュウウ……!
「はい、消滅ですわ……さて、そろそろ王女様を生き返らせましょうか。『彷徨いし魂よ、身体に戻れ』」
「……ぅ……うぐ……は、はあ、はあ、はあ……あ、あれ?」
「目覚めましたね。では、二回目の撲さ」
「身体が……軽い」
「はい?」
「ずっと体内にあった錘が取れたかのよう……」
「それは怨念ですわね」
「……怨念?」
「どのような経緯で貴女の体内に溜まっていたのかは分かりませんが、さっき浄化しておきましたわよ」
「浄化……聖女様が? あれを?」
「はい。では、二回目の撲さ」
ぎゅむっ
王女は何を考えたのか分からぬが、突然シスターに抱き付きおった。
「何ですの、一体」
「ありがとう……ありがとうございます、聖女様!」
「はい?」
「貴女は私の恩人ですわ!」
「そ、そうですか。よく分かりませんが、では二回目の撲さ」
「お姉様!」
「つ……はい?」
「聖女様の事、お姉様と呼ばせて頂きますわ!」
「はいい!?」
これが、シスターの長年に渡る受難の始まりなのじゃ。
明日から新章です。




