裁く撲殺魔っ 3
「何なんだよ、これ」
「私達、何もしてないってのに!」
刑場に引きずり出されても、元気いっぱいですわね。
「ご機嫌よう、いじめっ子の皆様」
「はああっ!? 急に私達を捕まえておいて、今度はいじめっ子呼ばわり!?」
「ふざけんなっての!」
お二人は非常にお元気でしたので。
ブン! ゴシャア! ゲシャア!
「「ぎゃああああああああ!!」」
膝関節を反対側に曲がるようにしてあげたら、歓声を上げて喜ばれましたわ。
「痛いぃ! 痛い痛い痛いぃ!」
「いだい~……ああああああああああああ!」
「あらあら、泣く程に嬉しいんですの?」
痛みを訴えながら泣くお二人を揶揄するように、ニッコリと微笑みます。
「何言ってんだよ、あんたがこいつらを杖で叩いたんじゃん!」
「そうですわね、杖で叩いたのですわ。ですが、わたくしは真似をしただけですわよ?」
真似、と言われていじめっ子達は困惑します。
「あのさ、オバサン。真似って何の真似よ?」
リジーとリブラが集めた情報、存分に活用させて頂きますわ。
パサッ
報告書の一枚目を見せつけるように、目の前に突き付けます。
「三ヶ月程遡ります。貴女方、体育で自分達より足が速かった事が気に入らず、メリーシルバーの足首を踏み折りましたわね?」
「うっわ、最悪」
「世も末だなぁ」
リジーとリブラも、わたくしに調子を合わせておどけて見せます。
「っ!?」
いじめっ子の一人が、過剰に反応しました。
「メリーシルバーはそれが原因で走れない状態になってしまい、部活動は休んでいるようですわね」
「…………」
「貴女……メリーシルバーと同じ部活動をされてましたわねー……何部でしたか?」
「…………」
「あらああ、聞こえませんでしたの?」
ブン! メキャ!
「ぎぃああああああああ!!!?」
「はい、もう一度お聞きしますわねぇ……貴女、何部でしたか?」
「ひぎ、り、陸上、陸上部ですぅぅぅ!」
「あら、そうですの……貴女、どんな競技をなさってたんですぅ?」
「ひ、ひぎ、い、いだいぃ……」
「どんな、競技を、なさってたんですぅ?」
「た、短距離走です!」
「あらあら、偶然ですわねええ……メリーシルバーと同じ競技ですわねええ」
「ひ、ひぃ……」
「……貴女、メリーシルバーが走れなくなった翌日から、大会の代表選手に選ばれてますわね?」
「……は、はいぃ……」
「つまり、貴女はメリーシルバーの足を壊した事によって、レギュラーの座を掴んだのですわねええ?」
「っ……そ、そうだよ! あいつが! 私より身分が低いあいつが! 私より速いからいけないんだ! 本当なら、本当なら高貴な血を引く私が代表選手に選ばれて当然なんだよおお!」
「……最っ低」
ブン! グシャ!
「ぎゃああああああああああ!!」
「最っ悪」
ブン! ビチャア!
「ひぎいいいいいいいいいい!!」
「どうしようも無い下種ですわね……そんな貴女には」
ブン! ブチィ!
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
血塗れの夢の跡を見せてから、川に放り投げます。
「夢追う道具は、不要ですわ」
絶望を超えた絶望に現実を受け入れられなくなったいじめっ子の一人は、自らの夢が流れていく様子を見てケタケタ笑っています。
「あらあら、お花畑に行ってしまわれましたの? 言っておきますが、メリーシルバーは同じ状況下から一人で這い上がり、今も努力を続けていますわよ」
「……メリー……シルバー……」
「同じ状況下の貴女は、耐えられずに壊れてしまいました。つまり、貴女は」
「あ……あ……」
「メリーシルバーに、またまた負けてしまったのですわ」
「いやああああああああ!!!! や、止め、止めてええええええええええ!」
「あははははははは! 無様ですわね! 貴女は足の速さでも、自身の心の強さでも、メリーシルバーの足元にも及びませんのよ!」
「言うなああああ! 言うな言うな言うな、言うなああああ!」
「あははははははははは! おっかしい! 最高に面白いですわ! どうですか、貴女が主張する『高貴な血を引く者』が『下賤な平民』に負けた気分は? あっはははははははははは!」
「……リファリス、もう疲れたよう……」
三人目を同じように追い込んでいた時、リジーがわたくしに情けない訴えをしてきました。
「まだ三人目の途中ですわよ? もう少し楽しみたいですわ」
「もう体力の限界っ」
……仕方無いですわね。
「でしたら、もう宜しくてよ」
そう言われたリジーは、普段は隠しているキツネの耳をピクピクさせて笑いました。
「あはは、なら終ーわり!」
パッ
リジーがそう言うと同時に、わたくし達を覆っていた何かが消え去り。
「あは、あははは、足が、足が……」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいいい」
「メ、メリーシルバー、もう許してええ」
瀕死だった筈の三人は傷一つ無い状態に戻りました。つまり、今回の撲殺はリジーのスキルによる幻覚だったのです。
「リファリス、確かに肉体的には無傷だけど」
涎を垂らしながら笑ういじめっ子の一人を指差して、リジーは苦笑いします。
「精神的には致命傷と思われ」
「大丈夫ですわよ。こんな風になってしまった娘を見て、先程の伯爵様はどんな反応をするのか楽しみですから」
「……つまりいじめっ子達を心配する気持ちは欠片も無い、と思われ。怖っ」
流石に見飽きたいじめっ子の醜態ですが、最高の見せ物だったのは間違いありませんわね。
次回、貴族様も撲殺?