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裁く撲殺魔っ  2

 引きずられていった校長様と担任教師を見やり、戦々恐々と言った様子の悪党さん達。勿論、手を緩めるつもりはありません。


「さて……次に元奴隷商人さん」

「へ、へえ……」

「逆恨みも甚だしい……と言いたいところですが、言っても無駄ですわね」


 仕返しを考えてわたくしに楯突いていらっしゃる時点で、愚かとしか言いようがありません。


「く……」

「貴方には慈悲は必要ありませんわね…………リジー!」

「うい」

「成敗なさい」

「おふこーす!」

「そ、そんな、待っ」

 ザシュ!

「がは…………っ」

 ドチャ……


 血溜まりで痙攣する元奴隷商人さん。自業自得ですわね。


「さて、次は……リブラ、お願いできますわね?」

「もうすぐ来るわ……あ、ほら、あの馬車」


 確かに馬の嘶きと蹄鉄が地面を蹴る音が近付いてきます。


「いじめっ子達は?」

「それは別で保護してあるわ。リファリス次第で、いつでも連れてくるよ」


 リジーとリブラの有能さには驚かされます。


「ありがとうございます。全て片付きましたら、お二人には何かお礼をしなくてはいけませんわね」


 お礼、という言葉に、喜色満面になる二人。そんなに嬉しいものでしょうか?


「団長、いらっしゃいました」


 騎士様に連れられていらっしゃったのは、派手派手しい格好をなさった、小太りの男性でした。


「リブラ侯爵家からの呼び出し故に参ったが……伯爵である儂が、このような平民臭い場所に来る事になろうとは、な」


 本人は小さな声で言っているつもりでしょうが、エルフの血を引くわたくしの耳にはちゃんと聞こえてましてよ。


「お初にお目にかかります。わたくし、リファリスという、しがないシスターでございます」

「おお、貴女が聖女様ですか。儂はグレン伯爵家当主・オグルである」


 一応、礼儀は尽くします。


「リブラ侯爵からの要請によってこの地に参ったが、何故の呼び出しか、お教え願いたい」


「栄えある初等科教育所にて、あるまじき不正が行われておりました」


「それが何か?」


 それを聞いてもどこ吹く風。大した面の皮ですわね。


「その内容は『身分差の無い、平等な教育の場』という理念を覆そうとする愚行です」


「身分差の無い教育……ですか」


 学校が設立された際に大司教猊下が定められた理念を、鼻で笑いました。


「それを主導なさっていたのは……貴方ですわね?」

「そうだが、それが何か?」


 あらあら、あっさりとお認めになられましたわね。


「儂は常々言っている。高貴な血を引く我らと卑しい貧民共が、同じ学び舎で教育を受けるとは……考えるだけで虫唾が走るっ」


 虫唾、と仰いましたわね。


「同感ですわ、伯爵様」


「……ほう……聖女様は我らと同じ考えだと?」


「いえいえ。わたくし、貴方の顔を見るだけで虫唾が走りますので、そこだけが同じです、と言ったまでです」


 伯爵様のこめかみに血管が浮かびました。


「……つまり、聖女様は、そのくだらない理念とやらに賛同なさる訳ですか」

「勿論ですわ」

「……ならば何も話す事は無い。我らと意見を違えるような生臭僧侶が何故聖女などと讃えられるのか、理解に苦しむな」


 生臭。


「わたくしに聖女を名乗る事を許されたのは、大司教猊下です。つまり、大司教猊下がお決めになった事に、公然と逆らうおつもりですの?」


「ちっ…………虎の威を借る狐か」


「はい。このような場合に威を借りられるのが、聖女の称号を授かったわたくしに許された特典ですので」


 正々堂々と言い返すと、伯爵様は何も言えなくなったようで、口をパクパクさせるだけでした。


「あらあら、餌を強請る鯉の真似ですの?」


 自分の仕草を貶された事を理解するまでに、少し時間がかかられました。次第に顔を紅潮させ、剣に手を掛けます。


「何が聖女だ。口が達者なだけのクソ女が」


「そのクソ女に言い負かされているようでは、高貴な血とやらもたかが知れますわね」


 シャッ


 ついに我慢の限界に達したらしく、装飾だらけの儀礼剣を抜き放つと。


 ザシュ!


 わたくしを袈裟切りしてきたのです。


 ビシャアアッ


 辺りにわたくしの血が飛び散ります。


「ふん、聖女などと自称する下賤な女は、儂が直々に成敗してやったわ」

「あら、成敗なさったおつもりですの?」


 切り捨てた筈のわたくしの声に、肩をビクリと動かされました。


「ま、まさか……」


「あら、わたくしをこの程度で殺せたつもりでしたの?」


 既に塞がった傷を撫でながら、わたくしはニッコリと微笑みます。


「それはさておき、皆様。伯爵様は無抵抗な生臭僧侶に剣を振るわれました。その証人になって頂けますか?」


「勿論」

 リブラ。

「当然」

 リジー。

「我らが団長に剣を向けた事実、自由騎士団(フリーダン)を代表して証言致す」

 護衛の騎士様。


「さあ、これで三名の証人が居ます。わたくしの肌に刃を突き立てた罪、どのようにして償って頂けますの?」

「く……わ、儂は知らん! 何も見ておらんし、何もしておらん!」


 そう言い募って、足早にこの場から立ち去りました。


「いいの、放置して」

「後は警備隊のお仕事ですわ。それに、わたくしが裁きたい本命は、別ですもの」


 わたくしが視線を向けると、リブラが頷き。


「い、痛い! 何なのよ!?」

「こんな事して、パパが黙ってないんだからね!」


 数人の女生徒が連行されてきました。無論、メリーシルバーをいじめていた子達です。

次回、撲殺回。

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