裁く撲殺魔っ 1
わははははは! あ、あのシスターが、あのシスターが! あ、あそこまで慌てふためいて……ぶ、ぶふふ……ぶひゃひゃひゃひゃひゃひゃびごぶぶぁふ!?
「……リファリス? 急に杖を振り回してどうしたの?」
「え? あ、いえ、何故か急に身体が反応して……」
ご、ごふ……で、では、続きを……見守るが……良いぞ………………がくっ。
「…………」
「リファリス、今は裁きの途中」
あ、あら、そうでしたわね。今は遠き地で命が尽きる瞬間に、思いを馳せていました。
「コホン、では…………初等科で生徒のいじめを見逃していた件から、ですわね」
それを聞いた校長と担任教師は、地面に擦り付けていた額をサッとあげました。
「い、いじめを見逃すなんて、私達は一切していません!」
「そうですわ! 我々は必死でメリーシルバーを助けようと」
「あら? メリーシルバーがいじめの対象だった、という事はご存知でしたのね」
少しだけ皮肉を込めて言い放つと、二人揃って表情を崩されました。
「貴女……メリーシルバーの担任教師でしたわね」
「は、はい」
「何故わたくしの教会に押し掛けたんですの?」
そう聞かれた担任教師は、憎しみを込めていた瞳をサッと逸らしました。
「あ、あれは、早くメリーシルバーを保護しなければ、と思いまして……」
「わざわざ用心棒を雇って、ですの?」
用心棒、と聞いた辺りから、額に脂汗が滲み出し始めたようです。
「そ、それは……」
「何故、用心棒が必要だったのか、と聞いているんですのよ?」
「そ、その、被害者であるメリーシルバーを守る為ですわ!」
「……何から守る為?」
「も、勿論、いじめっ子達からに決まってます!」
あらあら、言い訳にしては筋が通っていますわね……穴だらけですが。
「つまり貴女は、いじめっ子達があの用心棒を連れていないと、対処できない程の存在だと仰りたいのですわね?」
「え…………あ、はい! そ、その通りでございます!」
想像通りですわ。ここでわたくし、わざと大仰に驚いてみせました。
「あらああ、何て凶悪ないじめっ子なんでしょうねええっ」
「そ、そうなんです! 我々も手を焼いていまして」
「でも、変ですわね。そんな用心棒が必要な程に凶悪な生徒を、何故放っておいたのですか?」
「……へ?」
呆気にとられた様子の担任教師を見て、思わず笑みが零れてしまいます。
「だってぇぇ、用心棒が必要だという事は、それだけの戦闘能力を有しているのですわよねぇぇ?」
「あ、そ、それは……」
「そこまで危険なのなら、学校で対処するレベルを超えてますわよねぇぇ。でしたら、警備隊に相談すべきだったのではありませんのぉぉ?」
未成年であっても、当然ながら警備隊の手は逃れられません。
「そ、それは……か、加害者であっても、生徒は生徒です! 一生を棒に振ってしまいかねない判断はできません!」
「もう一度言いますが、貴女方が用心棒を雇わなければならないような、危険な生徒です。それでも、その生徒の肩を持つと?」
「せ、生徒である以上、我々の指導の対象ですわ!」
はい、詰みですわね。
「でしたら、被害者であるメリーシルバーは宜しいんですの?」
「…………え?」
「加害者を必死で守ろうとする意思は感じますわ。ですが、メリーシルバーを守ろうとしているようには見えませんわね」
「で、ですから! そのメリーシルバーを守る為の用心棒であって……っ」
もう一度笑みを浮かべたら、担任教師は話すのを止めました。
「ですってよ。どう思われます、用心棒の皆様」
わたくしがそう言うと、リジーが縛られた破落戸様を連れて来ました。
「あ、貴方達は……!」
「ぜーんぶ、この人達が吐いた。大金で雇われたと。教会内に押し入ってでも、メリーシルバーを拉致するつもりだったって」
「ぐ……っ!」
「さあ、まだ白を切りますの?」
「し、知りません! 私、こんな連中は知りません!」
あらあら、ますます自分の立場を悪くなさいましたね。
「あらあああ? わたくし、貴女がこの方々を連れていらした現場に、鉢合わせてますわよ?」
「あ……!」
墓穴を掘りましたわね。
「わたくしの元にいらっしゃった時に、この方々と一緒だった貴女は、単なるそっくりさんだったのでしょうか?」
「…………お、恐れ入りました……」
「あらあら、ならば罪をお認めになるのですわね?」
「…………はい……校長先生に……命令されまして」
それを聞いた校長様が、顔を白黒させます。
「校長先生が、メリーシルバーを学校に連れて来いと! 多少手荒な真似をして構わないと、あの方々を私に」
「う、嘘だああ! 私はそんな命令はしていない! 第一そんな権限は私には無い!」
あらあら、今度は罪の擦り付け合いですの? 取っ組み合いを始めましたわよ。
「どう考えても、お二人とも罪が無いとは言えませんわね……リジー、とりあえずどこかにぶち込んでおいて頂けます?」
「ういー」
リジーに襟首を掴まれて、引きずられていきますが。
「貴方が! 私に! 命令したくせに!」
「五月蝿い! 何故私が! 道連れにされなくては! ならないのだ!」
その体勢でお互いを叩き合う姿は、情けなくもあり、滑稽でもありました。