何気に偉い撲殺魔っ
首だけ令嬢、キツネ娘の二人が、与えられた使命をきちんとこなしたようじゃ。そうなると、後はそれを裁く御仁が必要になってくるのじゃが……さてさて、どうなるのやら、見てみるとしようかの……。
騎士様を伴って歩いていると、いつの間にか隣にリジーが並んでいました。
「どうでしたの。首尾よく進みまして?」
「うい。リファリスの言ってた通り」
やはり……。
「マリーゴールドをいじめた連中は、身柄を拘束してある」
「メリーシルバーですわ。で、証言は?」
「バッチリ」
これは動かぬ証拠になりますわね。
「リファリス」
同じタイミングで並んだのですが、口にするのが一瞬リジーが早かった為、今まで黙り込んでいたリブラ。リジーの話が一段落した瞬間に無理矢理割って入ります。
「リブラ、まだ話し中と思われ」
「黙れ、ゴン」
「な、ゴ、ゴンって」
「リファリス、親と校内の繋がり、やっぱり有った」
学校側に協力者が居ましたか。睨んだ通りでしたわね。
「過去にも似たような事件もあったわ。それに関しても、証人は確保済み」
「……証拠は有りまして?」
「妹が見つけてくれたわ。証拠品はまとめて、既に提出済み」
「提出できる程に確固たる証拠ですのね?」
「十年くらい遡って集めた資料を分かりやすくまとめてあって、私にも理解できるくらい確固たる証拠だったわ」
十年分遡ってまで証拠品を集めて下さったんですの?
「……近々妹様には、お礼に伺わなくてはなりませんわね」
「あー……多分その必要は無い」
え?
「会うのを向こうが嫌がるし…………第一、極度の人見知りだから」
ひ、人見知り……。
「わたくしが心配する事では無いでしょうが、大丈夫ですの? 貴女の代わりに侯爵家を継いだのでしょう?」
「ま、まあ、何とかなるでしょ、双子だし」
…………成る程。役割分担、適材適所という訳ですね。
「リブラ。妹様を助けるという理由でしたら、奉仕を免除致しますわね」
「え、いいの!?」
「但し、嘘だった場合は……」
「あ、あははは、大丈夫よ、サボる理由に使ったりしないって」
……冷や汗ものだった、というのが顔に出てますわよ。
初等科が見えてきました。わたくしの両隣をリブラとリジーが……あら?
「リジーは?」
リジーの代わりに騎士様が並んでいます。
「リジーの嬢ちゃんなら、どっか行ったぜ」
はい?
「何だったかな、確か『忍者役には私がなる』とか言ってたかな」
忍者……役?
「だから、俺が団長の警護役だってよ」
はあ?
「リジーは何がしたいんですの?」
「さあ……よう分からん」
リジーの考えている事は、さっぱり理解できません。
「……リファリス、大量のお客さんだ。どうやら歓迎してくれてるみたいよ」
リブラがそう言って大剣を構えます。
「どうやら……そのようだな」
騎士様も剣を……あら?
「素手ですの?」
「ああ。俺は剣よりこっちが得意でな」
路地裏に潜んでいた方々が、ワラワラとわたくし達を取り囲みます。
「わたくし達、忙しいんですの。通して頂けません?」
するとリーダーらしき人物が前に出て、唾を地面に吐き捨てました。
「それはできねえな。旦那にはたんまり金を頂いたからな」
お金で雇われた刺客、という事ですか。
「それにあんたには恨みもある」
「……わたくしに、ですの?」
「よくも組織を潰してくれたな」
組織……ですか。
「貴方、まさか奴隷印の時の」
「そうだ。あんたが余計な事をしてくれたから、こっちは失業中って訳でよ」
やはり、人身売買組織の生き残りですのね。
「だから今回の仕事、まさに渡りに船でよ」
男も剣を抜き放ち、切っ先をわたくしに向け。
「仕返しついでに、お前を目玉商品にして商売再開してやる! 野郎共、殺っちまえ!」
「「「おおっ!」」」
その掛け声と共に、刺客達が襲い掛かったきました。
ならば、こちらも徹底的に殺るだけですわ!
「リブラ、騎士様! 懲らしめてやりなさい!」
「「はっ!」」
リブラが喜々として大剣を振るい、騎士様は無表情で敵を殴り倒していきます。
「ではわたくしも」
聖女の杖を構え、走りだします。
が。
「駄目。御老公はドンと構えてて」
いつの間にか背後に居たリジーに止められました。
「……わたくし、御老公ではありませんわよ」
「なら聖女様はドンと構えてて」
そう言って何かを投げました。
「……風車?」
「やっぱりこれじゃないと」
ヒュヒュッ
ドスドスッ!
どこで作ってきたのか、風車が付いた針を投げ、敵を倒していきます。
「リジー、一体何がしたいんですの?」
「いいからいいから」
……??
「だいぶ敵も少なくなってきた。リブラ、騎士、そろそろ頼み申す」
「……本当にやるの?」
「騎士言うなよ。俺にだって名前はあるっての」
「早くっ」
リブラと騎士様は大きなため息を吐いてから。
「し、静まれ~」
「静まれ~」
急にそう叫び出したのです。
「な、何なんですの?」
「知らない。リジーに聞いて」
「嬢ちゃんから頼まれたんだよ。俺にも何が何だか……」
静まれも何も、大半は叩きのめされて地面に転がってますから、かなり静かですが。
「静まれ~」
「静まれ静まれ~」
やがてわたくしの両隣に立った二人は、懐から。
「この紋所が目に入らぬか!」
あ、それはロードの証。
「この紋所が目に入らぬか!」
あ、それは自由騎士団の紋章。
「こちらに居わす方を何方と心得る! 恐れ多くも、セントリファリスのロードで在らせられるぞ!」
「自由騎士団団長で在らせられるぞ!」
「な、ロード!?」
「騎士団団長だって!?」
「皆の者、頭が高い! 控えおろう!」
「「「は、ははあーっ!」」」
一斉に土下座されたわたくしは……どうすれば良いのですか!?
「これよ、これ。これを実際に見てみたかったと思われ」
リジー、やはり貴女の考えている事は理解不能ですわ!
たまにBSで放送してますので。