ドロロンなキツネ娘っ
首だけ令嬢はもはや何かを掴んだようじゃが……さてさて、キツネ娘はどうじゃろな。
「…………」
どうやら……学校に忍び込んでおるようじゃの。はて、陰ながらいじめ被害者を守れ、という命令が出ていた筈じゃが……?
「……リファリスと一緒に居る女の子、私が護衛する意味は無いと思われ」
う、うむ、確かにその通りじゃな………………ん?
ま、待て待て待て。何故にワシの考えていた事に反応を……?
「……私、何で急に独り言を……?」
周りを見ても、真っ暗な屋根裏に埃が舞っているだけ。
「……気のせいか」
自分でも不思議なくらい、自分の独り言が理解できなかった。
「まあいっか。それよりもいじめっ子の特定と、証拠集め」
初等科の四年生だという事は、学年毎に色分けされたスカーフで判明してる。
「その中でも、やたらと威張ってるボスザルみたいなのが怪しい」
学年カーストの上位を占めているであろう旧貴族達。明らかに平民出の子達に対する態度がデカい。
「ちょっと、貴女」
「え? あ、はい」
「私、ハンカチを落としてしまいましたの。拾って下さらない?」
落としてしまったって……今々自分で、わざと落としたのに。
「は、はい……痛っ!」
拾おうとして手を伸ばすと、その手のひらを踏みつけた。うわ、最悪。
「ほぉぉぉら、さっさと拾って下さらない? どうしたのかしら、私の頼みが聞けないのかしら?」
グリグリグリッ
「痛い痛い痛い! や、止めてよぉ!」
「止めてよぉ、じゃ無いでしょ! 止めて下さい、でしょ!」
うわぁ、見てるだけでもドン引きと思われ。
グリグリグリッ メキミシメキッ
「ああああああああ! 折れる! 折れるぅぅぅぅ!」
泣き叫ぶ女の子を見ながら、嬉しそうに笑ういじめっ子。
「ふふふふっ」
踏みつける足に力を込め、そして。
ボキィ!
「ぎゃああああああああ! いだいいだいいだいいいい!」
ついに手の甲の骨が折れたようだけど、それでも足を退けない。
メキメキッ ボキボキッ
「ひぎゃあああああ! あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」
周りの子は目を背けて、助けようともしない。
「ほらほらぁ、早く拾いなさいよぉぉ!」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」
騒ぎが大きくなり、ついに先生達が教室に入ってくる。
「一体何の騒ぎだ!」
だけど先生に見つかる前に、いじめっ子は退散済み。おまけに。
「今回の事をバラしたりしたら、次のメリーシルバーは貴女よ?」
脅して口を封じ済み。結局手の甲を数本折られた女の子は「転んで手を着いた拍子に折れた」と誤魔化さざるを得なくされてしまった。
「あははは、可笑しかった~」
「見た、あの顔。いだいいだいいいい、だって」
「ちょっと、止めてよ。また思い出しちゃう」
尾行されている事にも気付かず、さっきのいじめをネタにケタケタと笑い合う。
「でもさ、メリーシルバーはまだ教会なのよね?」
「みたいねー。お父様に頼んで教会から連れてきてもらうよう頼んであるから、明日には寮に戻ると思うよ」
「そっかあ……あ、だったらさ、歓迎の準備しない?」
一番派手な子の提案に、他の子達もニンマリと笑って応える。
(はぁあぁ……人間って年齢に関係無く、とことん残酷になれるんだねえ……)
いじめっ子達は途中の画材屋で大量に絵の具を買い込むと、初等科女子寮へと向かった。
「こんにちは」
「はい……あ、これはこれはお嬢様」
女子寮の管理人室で、管理人らしい女性がペコペコと頭を下げている。
「メリーシルバーの部屋の鍵、貸して頂ける?」
「はい、勿論でございます、はい」
本来は貸してはいけない鍵を、管理人は手渡してしまう。
「あら、ありがとうございます」
「いえいえ」
愛想笑いを振り撒く管理人に、いじめっ子はまた弑逆的な笑みを浮かべる。
「ああ、そういえば娘さん、手を怪我なさったようでしたよ。早く迎えに行ってあげた方が良いんじゃない?」
あの管理人、手の甲を踏み砕かれた女の子の親みたい。
「っ!? そ、そんな……も、もう娘には手を出さないと」
「……何よ、私に意見するつもり?」
睨まれた管理人は、それだけで何も言えなくなってしまう。
「……ふん、平民風情が。身の程を弁えなさい」
そう言って鍵を奪うと、わざと管理人の足を踏みつけてから、メリーシルバーの部屋へと向かった。
「あはははは!」
「あら、上手いじゃない。なら、ここは……こうね!」
「あらあ、芸術的な部屋になっちゃて。メリーシルバーも泣いて喜ぶわね!」
部屋の中で何をしているか、丸分かり。さっき買った絵の具を部屋中に塗りたくっていると思われ。
「よーし、証拠も完璧」
後は部屋の表札を元に戻す。かつてメリーシルバーが暮らしていた筈の部屋の表札は「リブラ」へと変わる。
「管理人さん、ご協力感謝」
「いえ……これで、娘の恨みも晴らせるのなら」
「うむ、貴女達親子は今日からリブラ伯爵家の庇護下。もう被害に遭う心配無し」
「はい、ありがとうございます……これで娘も安心して初等科に通えます」
ガチャ
「あははは、面白かった」
「綺麗な部屋になったわよね」
「おい」
「え? 何よ、貴方」
「我々はリブラ侯爵家の者だが……何故お嬢様の部屋からお前達が出てくるのだ?」
「え!? リブラ侯爵家!?」
「あ、いえ、この部屋は平民の部屋でございますよ!?」
「……表札はリブラとなっているが?」
「え!? そ、そんな!?」
「な、何かの間違いよ!」
「何の間違いが有ったかは、我々には関係無い。それ以上に、お嬢様が住まわれる予定だった部屋が、お前達に汚された事実の方が重要だ」
「あ……ど……どうしよう……」
「わ、私に言われても……」
こうして、実行犯を押さえた。後はリファリスの仕事だ。
次第にいじめの真実が炙り出されます。