語らう首だけ令嬢っ
そうなのじゃよ、首だけ令嬢は双子じゃったのじゃ。公表されておらんでの、知らんのも無理は無い。
この国の古くからの習慣なんじゃが、双子は凶兆とされており、あまり良く思われておらんのじゃ。じゃから貴族の間では生まれてすぐに平民に養子に出したりするのが一般的じゃな。万が一養子の受け入れ先が見つからなんだ場合は、流石に棄てたりするのは気が引けるようで、孤児院に預けられるのじゃよ。そして、親は最後の責任として、纏まった額を孤児院に寄付するのじゃ。それが孤児院の運営資金となっており、この国に過剰な程に孤児院が存在する理由となっておるのじゃ。
じゃがリブラ侯爵家はその慣習をまるっと無視し、産まれた二人をちゃんと育てた。愛情を注がれてすくすく育った二人は、やがてそれぞれ違う分野で才能を見せ始めるのじゃが……。
「ふむ……ならば、二人で一人を演じさせれば良い」
双子の父、つまり先代リブラ侯爵は、双子である事を公表せず、二人に架空の「リブラ」を演じさせる事にしたのじゃ。体力面に優れた姉は、その分野が必要とされた時に出張り。頭脳面が必要な場合は、妹が入れ替わって前に出る。
これを繰り返す事により「一人の万能な娘」をでっち上げ、何百年か振りの女性当主誕生へと繋がっていったのじゃ。
まあ、今回の姉の横恋慕により、先代の計画は破綻してしまったのじゃが……。
「……くしゅんっ!」
「あら、お姉様、風邪?」
「いや、違うわね」
「でしょうね、でしょうね」
「……なーんか悪意を感じる反応だったわね……」
「いえいえ、お姉様だから風邪を弾かないのでは無く、馬と鹿の……あらやだ、私ったらはしたない」
「馬と鹿って、どう考えても『馬鹿は風邪を弾かない』って言いたいのよね!?」
「流石はお姉様、よくお分かりで」
「誉められても嬉しくないわよ!」
久々に賑やかな声が、リブラ侯爵家の食堂に響いた。
「で、お姉様、色々分かりまして?」
「まぁね。やっぱりリファリスの睨んだ通りだったわ」
昨日一日お茶会で粘った甲斐があって、なかなか有益な情報が集まった。
「……それに関しては本当に流石ですわ。お茶会なんて、私には敷居が高いんですもの」
「そんな事無いわよ。逆に私には、貴女が得意な書類の処理や資料漁りなんて、到底無理だもの……で、そっちはどうだったの?」
バサッ
そう言われたラブリは私の前に一束の書類を投げ出した。
「上手く隠蔽してますわ。注意して見ていなければ、私でも気付かない程に」
「つまり?」
「はい、ちゃんと裏付けは取れましたわ。お姉様が仰ってた通りですわよ」
……あはは、本当にそうだっんだ。
「リファリスの奴、一体いつから気付いていたのやら……」
リファリス……という語句を聞いた途端に、ラブリは不機嫌になった。
「また聖女様の話ですの? 私、その話は聞きたくないわ」
「何よー、何で私の想い人に対して、そんなに邪険なのよー」
それを聞いたラブリは、珍しく声を荒げた。
「当たり前です! 聖女様に現を抜かすようになってから、お姉様はすっかり変わってしまわれて」
毎回言われる事だから、今更気にする必要も無い。私は余裕を保って反論する。
「だから毎回言ってるでしょ。リファリスを一族に引き入れるのは、絶対に有益だって」
「私も毎回言われてるから分かってるけど、いくら優秀な人材だからって、聖女様を当主の座にだなんて……」
「私と貴女、二人が持っているものを一人が持っているのよ。つまり、私達二人と同じ才能を持った一人が居るの」
「だからって」
「お父様の許可は取ってるわ。それだけ優秀な人材なら、一族に迎え入れるのは吝かでは無いって」
「っ……ど、どんな理由を付けたって、結局は聖女様が好きだから、一緒に暮らしたいから、そういう流れに持って行ってるんでしょ!?」
「そうよ。悪い?」
即答した私に、ラブリは言葉を失った。
「……っ……はぁぁ……本当にお姉様は変わってしまったのね……」
「そういう貴女は変わらないわね」
「当たり前です。私にとって、家族と言えるのはお姉様だけですから」
昔っから重度のシスコンだったラブリは、私以外に心を開こうとしない。
「それはそうとお姉様、今夜は泊まっていかれるのでしょう?」
「え……あ、あぁ、そうね」
しまった……どこか宿屋に泊まるように手配しとけば良かった。
「でしたらお姉様。私と一緒にお風」
「嫌よ。私、一人で入るから」
即座に否定されたラブリは、そのまま首をカクリと落とし。
「……呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる」
首だけの状態で辺りを浮遊し始めた。
「…………」
「呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやるお姉様も聖女様も末代まで呪ってやる」
「何でリファリスを巻き込むのよ!?」
「呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる」
ああ、もう! こうなってしまうとラブリは止まらなくなる。
「分かった、分かったわよ! 今回だけよ。今回だけだからね!」
根負けしてそう言うと、漂っていた首は回れ右して身体に戻り、ニッコリと微笑んだ。
「でしたら今すぐ入りましょう。善は急げですわ、さあさあ入りましょう」
「え、ちょ、ちょっと!?」
「お、お姉様? お身体が引き締まりましたわね……?」
身体そのものが違うなんて、どうやって説明したらいいのよ……シスコンヤンデレのラブリの事だから、真実を知ったらリファリスに突しかねないわ……。
妹ラブリも、当然デュラハーンです。