保護者の撲殺魔っ
メリーシルバーという名の女の子は、しばらくの間わたくしが預かる事になりました。
「貴女、孤児院出身ですの……」
「……うん」
捨て子だったらしく、物心ついた頃には孤児院に居たそうです。
「でも国立初等科に入れるだなんて、相当努力なさったのですわね」
「…………」
国立初等科教育所は建国当初に設立された名門校です。聖心教の教えが色濃く反映された校則により、貴族から平民まで、優秀であれば分け隔て無く遇するように定められています。そんな学校ですので、国内外から『神童』と褒め称えられるような子供達が集まり、日々切磋琢磨しているのです。
「……昔から、勉強好きだった。だから、孤児院では勉強だけは誰にも負けなかった」
「……それで、初等科に進めたんですの?」
「……院長先生が……推薦してくれて……」
孤児院の院長先生の推薦が通るのでしたら……北部孤児院でしょうか。あそこはわたくしがたまに行く孤児院より、規模が大きい筈ですから。
「院長先生の推薦を、貴族様が後押しして下さって……」
貴族……やはり北部孤児院ですわね。旧貴族が運営に参加している、と聞いた事があります。
「それで、どうしていじめの対象になったんですの?」
「っ…………わかんないよ……急に……急に始まったからっ」
……あら?
「申し訳ありません。わたくし、貴女の出自が原因でのいじめかと……」
「……ううん。貴族様でも、仲が良い子も居たから……」
貴族達による、平民への風当たり。初等科で起こるいじめとしては、これが一番あり得ると考えていたのですが……。
「……想像より、主の教えは尊ばれていたのですわね」
「うん。たまに大司教様もお見えになられたりしてたし」
大司教猊下も……。
「…………でしたら、何も心当たりが有りませんのに、貴女へのいじめが始まったんですのね?」
「…………」
小さく頷きました。
「……分かりましたわ。よく今まで耐えてきましたね」
「…………」
メリーシルバーを正面から抱き締め、優しく語りかけます。
「この教会に居る限り、貴女には何人も手を出す事はできませんわ」
「…………」
「ですから……今は安心してお過ごしなさい」
「……でも、学校が……勉強が……」
「学校にはわたくしからお話しておきます。勉強に関しては……わたくしが見て差し上げますわ」
「……聖女様が?」
「ですから……今は心安らかに、休養なさい」
すすり泣き続けたメリーシルバーは、やがて安心した様子で寝息を立て始めました。
コンコンッ
……いらっしゃいましたわね。
ギィィ……
「はい、何かご用でしょうか?」
扉を開くと、険しい表情をした妙齢の女性と、二人の兵士らしき男性が立っていました。
「聖女様でいらっしゃいますわね?」
……ここで否定すると、また面倒な事になりますわね……。
「はい。若輩者なれど、大司教猊下より過分な呼称を頂戴しております」
「聖女様で間違い無いのね。ならば、貴女の元に居る女性をお返し頂きたいのです」
「わたくしの元に……? 見習いのリブラですの?」
「違います。この教会に我が校の生徒が居る事は分かっています」
……あらあら、お耳に入るのが随分と早いようで。
「申し訳ございませんが、その話ならば聞く事はできません。お引き取り下さい」
そう言って扉を閉めようとすると、男性がそれを妨害しました。
「……何のおつもりですの?」
「我が校の生徒は我々が管理します。シスターの出る幕はありません」
「ですから、何のおつもりですの?」
「手荒い真似はしたくない。素直にメリーシルバーを渡せ」
……ハッキリと、仰いましたわね。
「わたくしに、聖女の名乗りを許されたわたくしに、暴力を振るうおつもりで?」
「止めなさい。みだりに力を誇示しないように」
女性の叱責により、男性は一歩下がります。
「失礼しました。我々は聖女様に手を出すつもりはございません。ですが、我が校の生徒がこの教会に潜伏している以上、見過ごす訳には参りませんので」
潜伏……。
「貴女、潜伏という表現は失礼だと思いませんの?」
わたくしの怒気を感じたらしい女性は、余裕な表情を浮かべて笑いました。
「あら、これは失礼致しました。私とした事が、聖女様を犯罪人のような扱いを」
犯罪人、という言葉が出たところで。
バァン!
教会の扉が荒々しく開け放たれました。
「ご婦人、その言葉は余りに無礼ではないか?」
「場合によっては、我々も黙ってはおりませんぞ」
礼拝堂からワラワラと現れる騎士様を見て、女性は顔色を変えます。
「な、何なの!? 何で教会に騎士が……!?」
「我々が我々の団長を守るのが、そんなに不思議か?」
「我々の団長って……貴方達は何者ですか!?」
「我ら、聖心教を守護すべく結成された自由騎士団なり」
「フ、フリーダン!? 何故フリーダンが!?」
「だから、我々の団長を守護する為、と言っている」
「だ、団長って……」
「ま、まさか……」
「ごめんあそばせ。わたくし、仮ではありますが、自由騎士団団長を仰せつかっておりますの」
普段は副団長様が代理を務めて下さってますが、一応わたくしが団長なのです。
「そ、そんな……」
「聖女様が……」
「さて、我々と敵対してまで聖女様に手を出すつもりなら、誠心誠意お相手するが?」
「聖女様に敵対するつもりなら、我らと敵対するも同等と知れ」
「くっ……か、帰りますよ!」
「は、はい!」
……やれやれ。騎士様をお呼びしておいて、正解でしたわ。
騎士団長設定生きてます。