いじめと撲殺魔っ
ふぉっふぉっふぉっ、シスターも苦労しておるようじゃの。元々我が強い二人じゃから、余計に手を焼いておるようじゃな。
じゃが、このままでは埒が明かんのう……何か良き切っ掛けがあれば…………む?
「あはは、バッカじゃないの」
「ほら、立ちなさいよ!」
「くふぅ!?」
……全く……どうしようも無い……。どれ、ここは馬鹿者共に雷を落として……。
むむ?
「ふんふふーん♪」
おお、ちょうど首だけ令嬢が来たではないか。ならばこの因果をこうねじ曲げて……。
「ん? あ、向こうに用事あったっけ?」
よし、これで……。
「あれ~? 何の用事だったかな…………ん?」
あれは……初等科の子達よね。
「あははは」
「やっちゃえやっちゃえ」
ごん!
「痛いいっ」
ちっ……胸糞悪い真似を……。
「止めなさい」
「え……あ、ヤバい、シスターだ」
「う……い、行こ行こ」
私が声をかけただけで、女の子達は逃げていった。
「大丈夫?」
「うぐ、ひっく……」
これは……あちこち怪我してるみたいだね。リファリスに治してもらった方がいいか。
「ほら、行こっか」
「ぐすっ……」
殴られていた子を抱き上げ、教会へと急いで戻った。
「……何でシスターが来るかな。この道、滅多に大人が来ないのに」
「ねえねえ、もしかしてバレちゃったりしないよね?」
「それ、ヤバくない?」
「……っ……まあいいわ。明日、あいつに口止めしておけばいいから」
「『癒せ』」
パアアア……
「……はい、すっかり治りましてよ」
「あ、ありがとう……」
「はい、どう致しまして」
わたくしがニコリと微笑むと、泣いていた子が頬を赤く染めて黙り込んでしまいました。
「……相っ変わらずの初見タラシ……」
「何か言いまして、リブラ?」
「いえ、何でもございません」
……?
「それよりリファリス、今回の事は初等科に連絡しておく?」
「……話を聞く限りでは、とても『子供通しのじゃれ合い』……ではありませんわね」
「ああ。いじめ、だよ、間違い無く」
いじめ、という単語に女の子はビクリと肩を震わせます。
「……貴女、いつもこんな目に?」
肩を震わせる女の子は、報復を恐れているようで、何も語ろうとしません。
「……難しいね、これは」
リブラにも経験が有るようですね。
「子供の世界の事ですから、気軽に足を踏み込めませんわね」
子供達には子供達のルールがあります。それを蔑ろにしてしまうのは、後々にまで悪い影響を及ぼしてしまいかねません。
「……では……わたくしと一対一でお話ししましょう」
「え……?」
「リブラ、少し席を外して下さる?」
リブラは右手を上げ、そのまま礼拝堂から出て行きました。
「……これで居るのはわたくしだけですわ。さあ、全ての苦しみを吐き出しなさい」
「……?」
「ここは懺悔の場です。主は貴女の口から語られる全てを、お許し下さいますわ」
「懺悔……? わたし、何か悪い事した……?」
わたくしは優しく首を横に振りました。
「悪い事で無くとも、苦しい胸の内を明かす事も懺悔なのです」
「……苦しい……胸の内……」
そう零した女の子は、ポツリポツリとわたくしに打ち明けたのです。
目に余る非道を。
「……すう……」
語り疲れて眠ってしまった女の子に毛布を掛け、わたくしは聖女の杖を握り締めます。
「……リブラ、居ますわね」
「うん」
バツが悪そうにリブラがカーテンの陰から出てきました。
「ちょっと、気になっちゃってさ」
「この子、よくここまで耐えてきたものです」
「あ、いや、その事じゃなくて……この子に絡んでた連中」
わたくしは無意識にスゥ……と目を細めました。
「知ってますのね」
「ああ、うん……多分なんだけど、私の派閥に居た伯爵の娘じゃないかな」
リブラの派閥……つまり旧貴族。
「身元が分かっているのでしたら、話は早いですわ」
そのまま礼拝堂を飛び出そうとするわたくしを、リブラが慌てた様子で止めます。
「リファリス、何をする気!?」
「無論、非道を正すのですわ」
「さっき子供達のルール云々言ってたの、リファリス自身じゃないの!」
「はい、子供には手を出しません。ですが親には監督責任を問えますわね」
「それで撲殺!? 流石に可哀想だよ!」
そうですか?
「でしたら……」
「はいはーい!」
わたくしが言う前に、突然リジーが口を挟んできました。
「なら私が一肌脱ぎませう」
脱ぎませう?
「元諜報部隊に居た伝を使い、そのいじめっ子共の悪行を暴いてくれる」
「……暴いてどうするんですの?」
「世に知らしめる。悪行は世間の目に弱い」
それは……一理ありますわね。貴族にとって醜聞ほど怖いものはありませんから。
「あら、でもそれだけじゃ、この女の子を救う事はできないわよ?」
「む?」
「相手は旧貴族。自分の醜聞を誤魔化す為だったら、何でもやるわ」
「……だから?」
「相手の弱点をなり得るものに、狙いをつけない筈が無い」
「……つまり?」
「分かりなさいよっ。この女の子を人質に、口封じをしてくる可能性があるのよ」
それも充分にあり得ますわね。
「でしたら二人の意見を採用して、それぞれにアプローチして頂こうかしら」
「それぞれに」
「アプローチ?」
「はい。リブラは貴族に顔が利きますでしょ? 醜聞探しを担当して下さいな」
「わ、私が?」
「リジーはこの女の子の護衛ですわ。わたくしを護衛してるくらいですから、お手の物ですわね?」
「うい」
「但し、周りの目もありますから、影ながらこっそりと護衛なさい」
「ういい!?」
「お互いに連携をとりながら、任務を果たして下さいね?」
「「な、何でこいつと……」」
「…………」
「わ、分かった! 分かりました!」
「やります! やりますから、その顔は止めて!」