仲裁ばかりの撲殺魔っ
それからというもの……。
「…………」
「…………」
ボカッ!
「へぶっ!?」
バゴッ!
「いひゃ!?」
「あはははは! いひゃって何よ、いひゃって!」
「ぶくくく……へぶっ。へぶっ」
「……何よ、何か文句でもあんの?」
「へぶっ。へぶううっ」
「むかっ……うらぁ!」
バキャ!
「ぐはっ……や、やったな!」
ボゴッ!
「げふぅ……こ、殺す!」
「私こそ、ぶっ殺す!」
バガゴゲンゲシゲシゲシ!
「や、止めなさいいい!」
……すれ違う際の小競り合いが、警備隊が出動する程の大乱闘へと発展しましたし……。
「…………」
「…………」
「あら、お肉一つ残ったんですのね。どちらか…………あ、いえ、わたくしが食べますわ」
「待ってリファリス、肉は食べないようにしてるんでしょ?」
「私かリブラのどちらかで、処理すると思われ」
あああ、わたくしとした事が、どう考えても争いの種にしかならないような事態を、自ら招いてしまいましたわ……!
「……じゃあリブラ、どうぞ」
「っ!?」
リ、リジーが譲りましたわ!
「……い、いや、リジーこそどうぞ」
「っ!!!?」
リ、リブラまで!?
「いや、どうぞ」
「いやいや、どうぞどうぞ」
あ、これは、奪い合いで争うのでは無く、譲り合いが加速して……。
「私がどうぞと言っている。素直に譲られるべき」
「元とは言え貴族の端くれ、平民から施しを受ける程に落ちぶれていない。リジーが譲られるべき」
「元だったら平民と同じ。譲られた事が無いのなら、今回は譲られるべき」
「ノブレス・オブリージュ。地位有る者の施しは、義務でもあるのよ。地位無き者は施しを受けなさい」
「元貴族が偉そうにしない。元なんだから、ノブレスうんたらは発生しない」
「元とはいえ、高貴な血は薄まりはしない。もう一度言うわ、ノブレス・オブリージュよ」
「あーはいはい。昔の地位にすがりついて、何と浅ましい事か」
「は? ノブレス・オブリージュを言えないから、話題を転換しようとしないで」
「それくらい言えるっ。ノブレス・ノブリージュ」
「あははは、何よそれ! ノブレス・オブリージュよ!」
「むかっ……ぶっ殺す」
「やってみなさいよ」
キィン! キンキンキンキンキィン!
「ナイフとフォークで斬り合いをしないで下さる!?」
食事の譲り合いが、警備隊が出動する程の騒動に発展しましたし……。
「いい加減にして下さい。わたくし、本気で怒りますわよ?」
「リ、リファリスを怒らせるくらいなら、仲直りした方がマシ」
「そ、それはリジーに同意するわ」
耐えかねてわたくしが仲裁をしましたら、案外二人とも素直に受け入れて下さいました。
「では仲直りの証に、お互いに謝りなさい」
「っ……仕方無い」
「っ……本意では無いけど」
「「ごめんなさい」」
ゴンッ!
「「っ!?」」
同時に頭を下げた為、お互いの頭が見事にゴッツンコしました。
「痛……ご、ごめんなさい」
「いつつ……こちらこそごめんなさい」
「はい、お互いに謝りましたわね。これで今回の件は手打ちですわ」
「ほ、本当にごめん。私、石頭だから」
「いやいや、こっちこそ。私も石頭だから」
「いやいや、私なんて鉄頭だから」
「いやいやいや、私なんて神珍鉄頭だから」
……ん?
「いやいやいやいや、私なんてオリハルコン頭だから」
「いやいやいやいやいや、私なんてアダマンタイト頭だから」
んん?
「……私の方が硬いって」
「いや、私の方が硬い」
ま、まさか。
「なら、どっちの方が硬いか」
「うむ、試すまでの事」
ゴンッゴンッゴンッゴンッゴンッゴンッゴンッゴンッ!
「や、止めなさい! 止めなさいいい!」
……まさか偶然ぶつかった頭の硬さが原因で、頭突きの応酬が始まるなんて……。
「……本当にいい加減にして下さいね……」
聖女の杖を握り締め、今回は本気で仲裁に入ります。
「「申し訳ございませんでした」」
「もうお互いに謝る必要はありません。本日を以て、二人の接近を禁じます」
「え、リブラに?」
「え、リジーに?」
「そうですわ。近付かなければ、争いは起きませんから」
「……まあ……私もリジーと争いたい訳じゃないし」
「それは私も同じと思われ」
「でしたら、しばらくお互い近付かないように心掛けて下さい」
「わ、分かったわ」
「分かったと思われ」
「ならば、離れて下さい…………はい、今から始めますわよ!」
「うい」
「……ちょっと、何で急に近寄ってくるのよ」
「私はリファリスの護衛を命じられてる。だからリファリスの側に居て当然。お前は何でここに居る?」
「私は見習いシスターだから、リファリスの側で指示を受けなきゃならない。だから側に居る」
「「…………リファリス、無理」」
「…………」
確かに、二人の立場からして、無理がありましたわね。
「ならば……リジーは教会の出入口で警備なさい。わたくしは今日一日外に出ませんから、そこに居れば充分にわたくしを守れますわ」
「えーっ!?」
「リブラ、今日一日裏庭の草むしりをしなさい」
「えーっ!?」
「何か、文句が有りまして?」
「「……いえ」」
やれやれ、これで一日は静かになりますわね。
「……ちょっと、そこ通らないと裏庭に行けないんだけど。退いてよ」
「ここは警備中。通せない」
「…………」
「…………」
ボカボカボカボカボカボカボカ!
っ……一瞬だけでしたわね。
「止めなさいっ! いい加減になさいな!」