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大司教と撲殺魔っ

「おはようございます、シスター。元町長とロロの身柄を引き取りに参りました」


 次の日の朝、表で奉仕を行っていたわたくしの元へ、隊長様が訪ねてこられました。護送用の馬車を引き連れて、ですのでかなり物々しい訪問です。


「あら、おはようございます。朝から大変ですわね」


「早くしないと選挙の公示に間に合いませんから」


 元、とはいえ、町長様が確認の印を押さない限り、市長選挙の手続きに入れないのです。


「お二人共快く(・・)全てをお話して下さいましたわよ」


 そう言って調書をお譲りします。わたくしが尋問し、リブラが書き起こしたものです。


「では全ての罪を?」


「はい、認められましたわ。汚職の大半は、ロロさんの我が儘が起因だったようです」


 受け取った調書を見ながら、隊長様は深く深くため息を吐かれました。


「まさか……ロロがここまで愚かな真似をしていたとは……」


 目を押さえながら、首を横に振られます。


「残念ながら、事実ですわ。リブラ達の裏付け調査でも、両者ともに同じ結果になりましたから」


 在職中の町長を告発するのは、実はかなり難しいのです。法によって立場が保証されている為、逆に法によって守られてもいるのです。つまり、余程確固たる証拠を掴まない限りは、告発できはい程度に。


「二人の視点から事件後を追い、それぞれの調査で掴んだ証拠も添付してあります」


 流石はリブラ、完璧ですわ。


「……大変だったでしょうに」


「リブラはこの町に残留していましたから、奉仕の合間に調べていたそうです。そこまで難しくなかったようですわ」


「但し、リジーは……」


「はい。大司教猊下の警備の傍ら、という訳には参りませんでしたので……」


 調書に記された丸文字や絵文字が、如実にそれを物語っていました。


「大司教猊下がもう一人に(・・・・・)調査させたようですわ」



 奉仕が終わって中に戻ると。


「……っ」


 カチコチになって佇むリブラと。


「お邪魔しておるぞ、シスター・リファリスよ」


 初老の男性が、祭壇の前で祈られておられました。


「やはりお見えでしたか、大司教猊下」


 背中を見せられたままの大司教猊下に向かって、最上位の礼を捧げます。


「シスターよ、楽にしなさい。私は私の後始末をしに来ただけなのだから」


 そう言って祈りを終わらせると、威厳に溢れた表情をお見せになられました。



 いよいよ種明かしじゃな。シスターと行動を共にしておったルディ。今現在、シスターの前に居る初老の男。さてさて、一体どちらが本物なんじゃろか。



「珍しいですわね、ルドルフが直々にお出で下さるのは」


「私とてルディにばかり任せてはおけぬ。幸いにも重要な儀式は本日は無いのでな、息抜きも兼ねてお邪魔させてもらった」


 この初老の男性も、大司教猊下で間違いありません。いえ、表向きはこの御方こそが、世に知られる大司教猊下で在らせられます。


「ルディは今どうしてますの?」


「新しくできた友達と遊び回っているようだ」


 新しい友達……フレデリカさんですわね。


ルディ(あれ)が嬉しそうに駆け回るのを見るのは、シスターと居る時以外はあまり無い。礼を言うぞ」


「あら、わたくしが礼を言われる筋合いは無くてよ?」


「あの司書を私では無くルディに引き合わせたのは、それも理由だったのであろう?」


「あら、バレバレだったのですわね」


「伊達に長く付き合っておらぬでな、シスターとは」


 この御方……ルドルフ・フォン・ブルクハルトとルーディア・フォン・ブルクハルトは同一人物です。但し、全く同一という訳ではありません。

 固有魔術と呼ばれる、ある血統でしか受け継がれない特殊な魔術があります。ルドルフのブルクハルト家もその一つで、彼が受け継いだ固有魔術は『同一存在』(ドッペルゲンガー)という魔術です。

 その名の通り、自らの分身を作り出せる魔術で、ルドルフは『同一存在』によってルディを作り出したのです。

 ルディに対してルドルフが与えたものは、己の欲望でした。それによってルドルフは欲とは無縁の存在となり、大司教として間違いの無い立場を確立しています。

 その一方で、ルディは己の欲望を叶える為に好きに国内を飛び回ります。わたくしの元へ遊びに来るのも、その一環ですわね。


「ですが、魔術とはいえ貴方とルディの存在は同一。つまり、命は一つですわ」

「うむ。あれが死ねば私が死に、私が死ねばあれも死ぬ」

「……それが分かっていて、ルディを外に出しているんですの?」


 それを聞いたルドルフは、苦笑いを浮かべました。


「どちらにしても、シスターはあれを守り通すであろう?」


「当然ですわ。ルドルフ(あなた)はともかく、ルディは大切な友達ですもの」


「……私はともかく、か」


「あら、貴方がわたくしにした事、一度も忘れた事はありませんわよ?」


「分かっている。だからこそ、私の生涯の大半を贖罪に委ねているのだから」


 贖罪……という言葉を軽々しく使わないでほしいですわね。


「それに……あれは強い」


「ですわね。貴方の力の大半を、あの娘に与えたのでしょう?」


「そうだ。だから私は弱い。一般人と比べても、下から数えた方が早いくらいに」


「ですから好き放題させているのでしょう?」


「うむ。あれは本当に好き放題しているようだな……もう一つの使命を忘れる程度に」


「もう一つの使命……すなわち」


「うむ。私の代わりに聖心教を見張る……重要な役割をな」


 ……本当に……貴方は罪な事ばかり、ルディに押し付けて……。


「貴方、多分地獄に堕ちますわよ」


 それを聞いたるは、フッと笑い。


「無論、覚悟の上だ」

明日は閑話です。

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