友の為の撲殺魔っ
これであの二人も災厄から逃れられたのじゃから、良かったのう、良かったのう。ワシもずっと見ておったからの、他人事には思えぬ。
それにしても、今回は血生臭い事件は無いと思っていたが、結局撲殺したのう。しかも友人関係にある相手を……隊長はともかく、司書のそれを見るのは些か目を覆いたくなる惨事じゃった。
いい加減あの二人には、幸せになってほしいのう……。
「にゃは~、それではお二人には、アタシからプレゼントなのだ、にゃは~♪」
「「プ、プレゼント?」」
ルディ、ちゃんと言わないと、戸惑うばかりですわよ。
「結婚となりますと、まだまだお互いに無理がありますでしょう? ですから、婚約式は如何かと思いまして」
婚約式、と聞いたお二人は驚かれた表情を浮かべます。特に頬を赤く染められたフレデリカさんが、わたくしを見て嬉しそうに微笑まれます。
「隊長様、どうされますか?」
「どうされますか、と言われましても……災厄を祓って頂いたばかりではなく、婚約式まで……本当に宜しいのでしょうか?」
「遠慮なさる必要はございません。もう既に準備は整っておりますわ」
「じゅ、準備が?」
「はい。場所は聖悟教会。大司教が差配して下さいます」
大司教の名前に、再び驚愕するお二人。
「良かったですわね。聖心教始まりの地で、しかも大司教に見届けて頂けるなんて、前代未聞ですわよ?」
と言うより、前代未聞だらけでもう笑えてきますわ。
「「…………」」
当のご本人達は、もはや驚きすぎて言葉も無いようですが。
婚約式の最終的な段取りが終わった時点で、わたくしはお暇する事に致しました。
「ではルディ、わたくしは先にセントリファリスに戻りますわね」
「うん。気を付けてね、にゃは♪」
それを聞いていたフレデリカさんが、わたくしに深々と頭を下げられます。
「シスター、今回のお力添え、本当にありがとうございました」
それに釣られる形で、隊長様も頭を下げられます。
「主にお仕えする者として、当然の行いですわ」
「それはアタシも同じかな、にゃは♪」
「まあ、それ以上に、お二人は友人ですから」
「っ! …………はい、ありがとうございます」
わたくしの友人発言に、微笑んで応えて下さりました。
「う。なら、なら、アタシとも友達になろ。ね、ね?」
大司教からの友達発言には、流石に顔を引き吊らせました。
「め、滅相もありません!」
「さ、流石にそれは恐れ多すぎて……」
「えーーっ!? 何でリファっちとは良くて、アタシとは駄目なのかな!?」
ルディ、それが普通の反応ですわよ。
「隊長様、フレデリカさん、どうかルディの希望を叶えてあげて頂けませんか?」
「え?」
「ルディは大司教という立場上、あまり自由がありません。そのような環境ですから、友人も皆無なのです」
「友人皆無とか言わないで! 傷付くから!」
「……と言うより、大司教猊下から『友達になりましょう』と言われましても、大半はお二人のような反応をされますしね」
「「……でしょうね……」」
「ア、アタシだって友達居るもん! リファっちでしょ、リファっちでしょ、リファっち……」
わたくしだけじゃありませんか。
「……あ、リジっちも! リジっちも友達!」
「…………友達?」
リジーの冷たい視線が、ルディの幼気な心を貫きます。
「と……友達……だよね?」
「……呪われアイテムをくれたら、考えてもいい」
呪われアイテム、と聞いてわたくしを見つめるルディ。
「呪具の事ですわ。リジーはコレクターなんですの」
「コ、コレクター!? 呪具の!?」
「何か問題でも?」
「べ、別に無いけど……まあいいや、欲しければ持っていきなよ。まだ浄化前のが倉庫にゴロゴロあるから」
「ゴロゴロ!? つまり沢山!?」
「ま、まあね、大陸中から集まってくるから」
「ルディっち、貴女は私の親友」
「あ、ありがと……何かあんまり嬉しさが無いなあ……」
呪具とは言え、もので釣ったようなものですしね。
「……あの、大司教猊下……」
「え? あ、はい、フレデリカっち?」
「あの…………拙者で良ければ、友達になりますけど……」
「え、フレデリカっち?」
「あの、流石にフレデリカっちは長いので……」
「ならフレっち、良いの?」
「あ、はい、流石にすぐに対等な関係は難しいですから、少しずつで宜しければ……」
「うんうん、それで全然構わないよ!」
あらあら、少し歩み寄りましたわね。
「なら、まずはアタシをルディっちって呼んで!」
「えええっ!?」
いきなりハードル高いですわね!
「ルディ、大司教相手にいきなり『~っち』は難しいですわよ」
「え、そう?」
「せめて『大司教猊下』を『大司教様』くらいのレベルから始めては如何ですか?」
「大司教様……か。うん、分かったよ」
それを聞かれたフレデリカさんは、ホッとされたようです。
「なら大司教っちで!」
だからハードルを上げないで下さいまし!
リジーを護衛に残し、わたくしはセントリファリスへ歩みを早めます。
「リファリス」
その隣に、教会に居る筈のリブラが並びます。
「どうでしたか?」
「ジョウを付け回してる奴、目星はついたよ」
「何方ですの?」
「ジョウの幼なじみであり、元カノ……になるかならないかって間柄だね」
「曖昧ですわね」
「簡単に言っちゃえば、一方的に他の男に乗り換えて、そっちが駄目になったら再びジョウと寄りを戻そうとした、って感じ」
それは……明らかにその幼なじみが悪いですわね。
「……ふふふ……あははははは! 撲殺しなくちゃ。撲殺しなくっちゃねえ……あははははは!」