誤った撲殺魔っ
うぅぅぅむ……シスターめ、最初こそは控えめに殴っておったが、最終的には嬉々として杖を振り下ろしておったの。怖いのぅ、自分の友達なのにのぅ、怖いのぅ。
「『穢れ無き魂よ、肉体に戻りなさい』…………ふう、これで終わりですわ……どうしたんですの?」
ルディは真っ青になって、口元を拭っています。
「『穢れよ、消え去れ』……な、何でも無い、うっぷ」
あ、貴女……!
「大司教ともあろう御方が、聖地の中心で【食事中には禁物】したんですの!?」
「き、綺麗にしたもん! ちゃんと後始末したもん!」
そういう問題ではありませんわよ!?
「あ、あの厄災のせいだもん!」
「厄災の?」
「ア、アタシは邪悪なものに拒否反応が出やすいの、リファっちだって知ってるでしょ!?」
確かに、昔から敏感でしたわね。
「しかも、あれだけ濃縮された悪意だよ!? アタシが反応しない筈が無いでしょ!?」
「分かりましたわよ」
「ああ、リファっちなら分かってくれると」
「しかし、聖地の中心で【リバ~スゥ】した事実までは、拭えませんわよ」
「うわ~ん、リファっちが意地悪だぁ~!!」
罰当たりな大司教じゃの。もしもワシが主じゃったら、即刻天罰じゃな。
この世界の主は気が長いのう。
「あ、それより、お二人はどうですの?」
そう言われたルディが、わたくしの後ろを指差します。
「……? あら、お二人共……」
「ジョ、ジョウ……さん?」
「フ、フレデリカ……?」
真っ黒な髪の毛が、お二人揃って見事な黄金に変わっていたのです。
「元々髪色は金髪だったんだよ。だけど厄災の影響で、徐々に黒くなっていたんだね……にゃは♪」
「た、確かに昔は……」
「子供の頃は、金髪でした……」
「そ、そうでしたの……」
……何だか……昔を思い出しますわね……。
「そう言えば、リファっちも昔は漆黒だったよね、髪色」
「え、そうだったんですか?」
「え、ええ、まあ。わたくしも貴女方と似たようなものでして……それより、お祓いは完了ですわ。下りますわよ」
そう言って隊長様とフレデリカさんの背中を押し、ルディの前を通り過ぎてから。
ブウンッ! バガッ!
「ひゃぐっ!?」
「『癒せ』……二度と余計な事を言わないで下さいまし」
「え? 何か言いましたか?」
「何でもありませんわ……さあ行きましょう」
……ルディはしばらくうずくまっていましたが、やがて涙目で叫びました。
「つ、突っ込みで撲殺しないでぇ!」
「……? 何か大司教猊下が叫んでいたような……」
「気にする必要はございません。ちゃっちゃと下りますわよ」
飛び散った色々なものを洗い流す為、再び沐浴です。
「はあ……まさか聖地で臨死体験をする事になろうとは……」
「一瞬でしたから、あまり自覚は無いでしょ」
「…………黄色いお花畑が見えました」
「万世界共通!?」
……あれ?
「リジー、今までどこに行ってたんですの?」
「サルバドル山には入れないから、教会の入口で警備ってたと思われ」
ああ、そうでしたわね。
「にゃは、それよりもさ、何で一緒に入ってるの?」
ルディに同意します。いつの間に入っていたんですの?
「一緒に入ってる、違う。私が入ってたら、リファリス達が入ってきたと思われ」
………………え?
「待って下さい。わたくし達が入った時には、誰も居なかったですわよ?」
「ビックリして≪化かし騙し≫で隠れてた」
それは分かる筈がありませんわ。
「え、トリック? 変わった魔術だね」
「魔術では無く、スキル。私は魔術からっきし」
「へえ、スキルかあ……って事は、リジっちは流れ人なんだね」
あら、ルディはすぐに分かったんですのね。
「何故分かる?」
「にゃは~、この世界にはスキルという概念が無いからね~」
「……え?」
わたくしをジッと見て首を傾げます。
「確かに、貴女が仰るスキルはありませんわね」
「え、リファリスの『茨』は?」
「魔術ですわ。ちゃんと魔力消費してましてよ?」
「そ、そうなんだ……」
「貴女の……トリックでしたか? あのようなものが魔力無しでできるのだとしたら、ある意味恐ろしいですわね」
「あ、でもMP消費しない代わりに使用制限がある」
「使用制限?」
「一日一回しか使えない」
「ああ、成る程。魔力を消費しない代わりに、何かしらの制限があるのですわね」
「元々居た世界の魔術士が言ってた。魔術もスキルの一部に過ぎないって。MP消費を伴うスキルを魔術と呼んでるだけだって」
ふうん……魔力消費を代償と考えれば、スキルの制限と何ら変わりは無い……という事ですか。
「そういう事もあり得るのですわね、他の世界では」
「面白いねー。魔術がスキルの一部なら、この世界にスキルが無いのは何でだろ、にゃは♪」
「……ちょっと難しい話になったから、言おうか迷ってたんだけど」
「はい? 何ですの、リジー?」
「さっきから厄災厄災言ってるけど、災厄の間違いでは?」
「「…………え?」」
思わず顔を見合わせてしまいます……そ、そうなんですの?
「……あ、あー……流れ人のリジっちには分かんないかもしれないけど、この世界じゃ厄災って言うんだよ、うん」
「あ、そうなの?」
え、そうなんですの?
思わずフレデリカさんを見てしまいますが……あら、あの表情は……。
「……リジー、貴女のご指摘感謝しますわ。わたくし、誤って覚えていたようです」
「え、リ、リファっち!?」
「つまり、災厄で合っている?」
わたくしとフレデリカさんが同時に頷きます。
「う、うわーん、皆が裏切ったああっ!」
大司教なら下手な誤魔化しは止めなさい。