厄払いと撲殺魔っ
「さ、さーて、身の清めも済んだ事だしっ」
まだ顔が赤いルディが先導して、聖悟教会を出発。いよいよ聖地サルバドルの中心へ向かいます。
「サルバドル山頂へ入る事ができようとは……」
隊長様は夢見心地に呟かれます。
「あ、あの、ジョウさん」
「ん、何か?」
「これは……凄い事……何ですよね?」
フレデリカさんの問いに、隊長様が目を丸くします。
「え、フレデリカは知らなかったのかい?」
「な、何が?」
「サルバドル山頂へは、大司教猊下からお許しを頂かなければ入れないんだよ」
「お許しを?」
「そう。しかもその許可はまず頂けない」
「そう、レアな体験をさせてもらえて…………え?」
フレデリカさん、レアな体験なんてレベルじゃありませんわよ。
「隊長っちの言う通りだね。アタシ以外でこの山頂に足を踏み入れたのは…………五百年振りじゃないかな、にゃは♪」
五百年振り、という言葉に、隊長様とフレデリカさんが固まります。
「ご、五百、五百年振りぃぃ!?」
「レ、レ、レ、レアなんてレベルじゃ!?」
「そうですわ。隊長様はともかく、信者でも無いフレデリカさんが入山を認められるなんて、前代未聞ですわよ」
「ぜ、前代未聞……」
それを聞いていたルディは、若干真面目な表情でお二人を諭します。
「逆に言えば、そこまでしなければならぬ程に、危険な状態であったのです」
「「…………」」
「これだけの厄が現れる事自体が稀なのに、それが重なり合って共鳴し、更なる厄を呼び込む結果になってしまいました。国をも飲み込みかねないような厄災にまで成長していますし、これは山頂にて祓うしかないと判断しました」
「「…………」」
ご本人には自覚は無いでしょうが、お二人を中心に悪い気がムンムンと集まっているのですわ。
「あ、あの、大司教猊下……」
「はい?」
「せ、拙者達、一緒に居るのは不味い……のでしょうか?」
不安げに尋ねられるフレデリカさん。まあ、これだけ大仰な事態になれば、誰でも不安にありますわね。
「それは大丈夫です。今回の厄災を乗り切れれば、後は上り調子ですよ」
「「……え?」」
「お二人は二年後に稀に見ぬ吉兆が出ています。それも、今回の厄災と対を為す程の」
「対を為すって……」
「国を巻き込む程の……ですか?」
「はい。お二人はその時に夫婦の契りを結ばれるべきでしょうね」
あらあら。
「夫婦の……」
「契り……」
「お二人さえ宜しければ、私が結婚式を采配致しますが?」
「「大司教猊下自ら!?」」
「それは大変な名誉ですわよ」
「「名誉どころか、恐れ多いです!」」
「わたくしも一口噛ませて頂きますわよ?」
「「せ、聖女様まで!?」」
うふふ、今から楽しみですわね。
この二人、実際に二年後に挙式するのじゃが、本当に大司教とシスターが式に出席し、国を挙げての大騒ぎになるのじゃ。ま、その話は追々じゃな。
「ではジョウとフレデリカよ、この装束を着て、私について来なさい」
先頭をルディ、その後を隊長様、フレデリカさんと続き、最後尾にわたくしが続きます。
「シスター・リファリス、聖女の杖はお持ちですね?」
「勿論ですわ、大司教猊下」
杖を持ってくるように言われましたが、何故でしょうか。
「……ここが聖地サルバドルの中心。主が悟りを開かれた、サルバドル山頂でございます」
普段とは違う荘厳な雰囲気を纏ったルディは、大司教猊下と呼ばれるに相応しいですわね。
「……主よ、この迷える仔羊に救いを与えたまえ」
ルディが言葉を発しますと、山頂が微かに光り始めました。
「シスター・リファリスよ、御光の座に聖女の杖を」
御光の座……つまり光っている場所に、ですわね。
カッ ズズッ
杖を突き立てると、御光が杖を包み込んでいきます。
パアアア……
「今、聖女の杖に主の御力が付与されました」
ルディ自ら杖を引き抜き、わたくしに手渡します。
「ではシスター・リファリスよ、この杖にて厄を祓いなさい」
厄を……祓うと言われましても……。
(…………ルディ、何をすればいいんですの?)
(要は杖で叩けばいいんだよ、いつもみたいにね♪)
いつもみたいにって……まさか。
(撲殺しろと仰るんですの?)
(大丈夫だって、ちゃんと生き返らせるから♪)
そ、そういう問題なのでしょうか……。
「早くしなさい、シスター・リファリス。せっかくの御力が効果を失う前に」
「わ、分かりましたわ……で、では隊長様、こちらにお座りになって下さいませ」
「は、はあ……」
「フレデリカさんは、お隣に」
「は、はい」
こ、これだけお膳立てされては、やらない訳には参りませんわね……。
「……これだけ気が進まない撲殺は初めてですわ」
「「……え?」」
そう言ってから、杖を振り上げます。
「では、始めますわよ……まずは隊長様」
「え、えええ?」
「はぁぁ……天誅」
ボガァ!
……今回は悪人の成敗では無いからのぅ……具体的な描写は割合しておくのじゃ。特に司書さんのは……可哀想じゃしの。
お、終わりましたわ……。
「ご覧なさい、今から奇跡が起こるのです」
ルディの言葉通り、お二人の傷口が光り始めます。
ボワァ……ブワワワワッ
どす黒い何かが、傷口から湧き出てきます。
「これが厄災の源です」
「禍々しい……ですわね」
しばらく宙をさ迷ってから、厄災の源は徐々に霧散していきました。
「……祓わなくて……宜しかったんですの?」
「私共に何とかなるものではありません。自然に拡散されるのを待つしか無いでしょう」
わたくしどころか……ルディですらも手が出せないのですわね……。
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