対応に困る撲殺魔っ
「「大司教猊下!?」」
お二人は腰を抜かさんばかりに驚いていました。まあ、無理もありませんが……。
「……大司教とも在ろう方が、何という破廉恥な格好をしていらっしゃるんですの……」
「あーれー? リファっちが古典派のお爺様達と同じ事を言ってるぅぅ……にゃは♪」
いえいえ、古典派でも改革派でも貴女の姿格好を見たら、誰でも同じ事を言いますわよ。
「た、確かに大司教猊下にしては、色々と露出が激しいような……」
フレデリカさん、ボソッと仰ってらっしゃいるつもりなのでしょうが、丸聞こえでしてよ?
「え、もしかしてアタシの事? ていーうかー、最新の流行なんだよ、これ」
「さ、最新の流行って……」
「大司教様が仰るのでしたら、間違い無いのでしょう」
「ま、待って下さい、大司教猊下が最新の流行を追っていらっしゃるんですか!?」
「追っていらっしゃると言うより、流行を発信していらっしゃるのですわ」
ルディ・フォン・ブルクハルト大司教。聖心教の勢力を南方大陸全体にまで拡大させた功労者であり、古典派を主導するカリスマ性と新しい考えを吸収できる柔軟性を併せ持った、生ける伝説。
戦争狂と渾名されるシン帝国皇帝や大陸を経済面で牛耳る商国代表ですら、大司教には頭が上がらない……と噂されている。
というような御仁の筈なのに、シスターや首だけ令嬢が跪いた相手は……お腹や足を大胆に露出させた、最近都でよく目にする「ギャル」と呼ばれる若い娘じゃからのう……。
「リファっち、リブっち、もう立っていいから。今のアタシは大司教じゃなくて、単なるルディだから」
「し、しかし、大司教猊下に於かれましては」
「リブっち。アタシ、そんなに気長じゃないって事は……知ってる筈だよね?」
「は、はいいっ……わわっ」
リブラが急いで立ち上がった反動で、首が落ち掛けます。
「あはははは、リブっち、そんなに慌てなくていいから」
「は、はい、申し訳ございませんん」
「はぁぁ……ならばルディと呼びますわよ?」
「うんうん、流石はリファっち、順応性満点だ、にゃは♪」
「順応したのでは無く、諦めたのですわ……それでルディ、何の用ですの?」
そう聞かれたルディは、唇を尖らせてわたくしを睨んできました。
「だってさー、リファっちったら、アタシの誘いを再三無視してんじゃん」
「あのですね、休息日ならいざ知らず、普通に奉仕で忙しい日に誘われたって、行ける筈がありませんわよ」
「隣町じゃん。言ってくれれば馬車だって出すしさー、にゃは♪」
「にゃは、じゃありません。大司教が自ら教会の馬車を私的に使ってどうするのですかっ」
「にゃはは、相変わらずリファっちは頭が堅いなぁ」
大司教様が柔軟すぎるのが問題なのですっ。
「ああ、それよりそれより。そこのお二人さん……にゃは♪」
「は、はい?」
「せ、拙者達ですか?」
「そうそう、諜報部隊長のジョウ君に、図書館司書のフレデリカちゃん」
「く、君……」
「ちゃ、ちゃん……」
「二人さあ……どこまでいっちゃってるの?」
「「ど、どこまで、とは?」」
「そりゃあ……ねえ? 指先の接触だとか、手の平同士の接触だとか、唇同士の接触だとか」
お二人が「接触」という言葉に反応して、身体がピクリと動いています。見ている側からすれば大変面白……い、いけませんわ!
「ルディ、プライベートは聞き出してはいけませんわよ」
「えー、別にいいじゃん。若い二人が育む愛の現在地を知りたくなーい?」
「それがいけないのです」
わたくしとルディの会話を聞いて、フレデリカさんが反応しました。
「わ、若い二人って……大司教猊下は見た目通りの歳では無い?」
フレデリカさん、ストレートですわね。
「こらこら、フレデリカちゃん。レディに年齢の話題はご法度だぞ?」
「フレデリカさん、わたくしとルディは同年代です……これで分かって頂けますね?」
わたくしはハイエルフである以上、とっくに三桁は越えています。この事は別に隠しておりませんので、これでフレデリカさんにもご理解頂けますわね。
「え……シ、シスターと同年代って…………四桁ですか?」
……っ。
「リファっち! 杖を振りかぶっちゃダメ!」
「シスター、どうかフレデリカの暴言をお許し下さい」
…………こ、今回はルディと隊長様に免じて、許して差し上げますわ。
「え、えええ!? もしかして五桁ふがふが」
「フレデリカ、君は黙ってて!」
隊長様がフレデリカさんの口を塞ぎます。
「……司書さん、命知らずだねぇ」
「全くだよぉ。リファっちに対して四桁五桁だなんて、アタシでも言えないよぉ」
「……貴女方も他人事ではありませんでしょ?」
「……私の場合は一度死んでるんだから、年齢はそこで止まってるし」
確かにデュラハーンはアンデッドですがっ。
「アタシは年齢なんて突き抜けてるからねぇ……にゃは♪」
「確かに突き抜けていらっしゃいますわね……年齢以外にも色々と」
「リファっち。それ以上は、メッ」
「……あら。わたくしも余計な事を言いそうになりましたわ。失礼致しました」
「……余計な事ってふがふが」
「フレデリカ、お願いだから黙っていてくれ!」
再び口が滑りそうになるフレデリカさんを、口を塞ぐ事によってフォローする隊長様。やっぱり良いコンビですわ。
何やら秘密を抱えておるようじゃな、この大司教。とんでもない爆弾にならねばよいが……。
と言うより、こんな大司教を冠しておる聖心教、大丈夫なんじゃろか。
大司教猊下の正体は追々。
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