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大司教猊下と撲殺魔っ

 婚前旅行が聖地巡礼、しかも隣町…………まあいいんじゃが。せっかく若い者が行く旅行なのじゃから…………まあいいんじゃが。どちらかと言えば、長年連れ添った夫婦が晩年に訪れそうな…………まあいいんじゃが。



「あー……ええっと……」


「あの、シスター?」


 い、言い辛いですわ……。


「……? シスター、具合でも悪いんですか?」


「え? あ、いえいえいえ、元気ですわよ。今日も元気に一日一撲殺ですわ」


「……シスター、せめて一日一善にして下さい」


 一日一善はわたくしには当たり前ですわよ。


「そ、その、シスター、ジョウさんも拙者も、まだ用事がありまして……」


 あ、そ、そうなんですの!?


「で、でしたら早々に旅行祈願を始めましょう! ええ、そうしましょう!」

「「……?」」


 仕方有りませんわ、旅行祈願が終わってから、話をしましょう。



「……今、若き二人が見知らぬ地を巡ろうとしています。これから二人が周りを照らす慈悲の光、それが失われないように、どうか主の御加護を……」


 祈りの言葉が礼拝堂に反響し、お二人を柔らかな空気が包みます。


「この町にとっても、彼らの友人にとっても、そしてわたくしにとっても大切な大切な友人であるお二人を、どうかお守り下さい…………()き御心が常に貴方と共にありますように」


 聖心教お決まりの文句で、長い旅行祈願を締めくくります。


「「聖き御心が常に共にありますように」」


 お二人も唱和されてから立ち上がります。


「シスター、今日は丁寧なご祈願をありがとうございました」

「ありがとうございました」


「いえ。これで主の息が貴方方にも届きますわ」


 さて……いよいよですわね。


「この後、ご用事がお有りでしたわね」


「はい、まだ幾つか購入しなければならないですし」

「拙者も出国許可証を公布してもらわないといけないので」


 ……あまりお引き留めできませんわね。


「そうですか……宜しければお茶でも、と思っていたのですが……」


 わたくしの言葉に、お二人は視線を交わせ。


「……少しくらいでしたら……」

「ええ、まだ時間に余裕はありますし」


 え?


「シスター、ありがたく頂戴します」

「拙者もご相伴に預かります」


 こ、これは主が与えて下さった、最後のチャンスですわね……!



 確かにラストチャンスじゃのう。まだ用事があるようじゃから、長々と足止めする訳にもいかぬ。

 シスターの腕の見せどころじゃな。さてさて、どう転ぶか分からぬな。ほっほっほっ。



 カチャン

「どうぞ、召し上がって下さいな」

「「ありがとうございます」」


 ……紅茶に眠り薬でも混ぜれば良かったですわ……そのまましばらく監禁しておけば……。


「っ!? い、いけませんわ! そんな人の道に外れた事を!」


「え?」

「シ、シスター?」


「あ…………な、何でもありませんわ!」


 な、何という事でしょう。お二人を止める為とはいえ、邪な行いを考えてしまうなんて……!


「……あの、シスター、どうかなされたのですか?」


「え? な、何がですの?」


「私達を礼拝堂にお招き下さった時から、いつもと様子が違うように感じていました」


 うっ!


「何か仰りたい事があって、だけどなかなか言えずにいる……そう見受けられました」


 ううっ!


「シスター、私はそれ程ではありませんが、フレデリカは友人と言って差し支え無い程度に懇意にさせてもらっています。そんな間柄でも言えない事ですか?」


 これは……主のお導き、と捉えるべきでしょうね。


「……分かりましたわ。隊長様には敵いませんわね」


 この時、わたくしは全てをお話しする事を決めたのです。



「……そうですか、私達の行く末にまつわる『神託』が……」


「貴方方の旅行先では、何かしら命に関わる事案が発生するようでして……」


「つまり……今回の旅行は中止した方が良いと?」


 フレデリカさんの問いに、わたくしは首を横に振りました。


「行かないなら行かないで、セントリファリス市内で爆破事件が起きます」


「そ、それに私達は巻き込まれる?」


「はい。必ず巻き込まれます」


 目を見合わせるお二人は、困惑しながらもわたくしに問いました。


「ならば、どうすれば良いのですか? 私達が災厄から逃れる手は無いのですか?」


「……あります、一つだけ」


「っ!! ど、どうすればいいのですか!?」


 さあ、ここからが正念場ですわ。


「……『神託』によって示された、貴方方が助かる道。それは……」

「「……それは……」」


 ……少しだけ間を空けてから、わたくしは口を開き……「アタシんちに来てくれればいいのよ、にゃは♪」……はい?


「……え?」

「は、はい?」


 い、今の声は……まさか!?


「久々に遊びに来てみれば、面白い事してるねえ、リファっち」

「な、何故貴女がここに!?」


 本来ならばこの時期に居て良い筈の無い方が、わたくしの背後で笑っていました。


「だってさー、リファっちったら全然遊びに来てくんないじゃん」


「遊びに行くって……貴女とわたくしの立場を考えれば、そんな簡単に行き来できる筈が無いでしょう!」


「だからさー、アタシの方から押し掛けちゃったのさ……にゃは♪」


 突然現れた天真爛漫な美少女に、戸惑うお二人。まあ、当然の反応なのですが……。


「リ、リファリス、誰かが侵入してきて…………っ!!!?」


 気配を察したらしいリブラが礼拝堂に駆け込んできて……侵入者と目が合い、固まります。


「おりょ? リブっち、やほー」


「な、ま、だ、だ、大司教様!?」


 慌てて跪くリブラを見ながら、わたくしはため息を吐くしかありませんでした。


「あ、あの……?」

「だ、大司教様……?」


「……はい、この御方は、間違い無く大司教猊下に在らせられます」

また強烈なキャラクターが……。

大司教猊下に色々期待される方は、評価とブクマを頂ければ期待に応えてくれます。

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