旅行先と撲殺魔っ
ななな何じゃと!? もしかしたら、シスターが旅行に行くかもしれないじゃとお!?
……むむむ……本当じゃな。まさかシスターにこのタイミングで『神託』が起こるとは……これも運命の導きじゃな。
何? 『神託』について解説しなくていいのか、じゃと? 分かった分かった……。
ええっと、その『神託』とはな…………まあ、神のお告げじゃよ。
「二人を止めるって、そこまで大変な事が起こるの?」
「はい。お二人はハーマイン海洋国の首都・フォノウに行く筈なのですが……旅行の初日、政変が起きます」
あらあ、政変かあ。なら首都は戒厳令が出てもおかしくないくらい、大混乱に陥るでしょうね。
「運が悪いと、お二人は巻き込まれる可能性があるのです。その場合は、命の危険が及びます」
「婚前旅行で命の危険は可哀想。流石に止めるべき」
う。さ、流石に政変では、フォノウには行かせるべきじゃないわね。仕方無い、今回は諦めようかな。
「手は幾らでもある。リファリスが望むなら、腕の一二本ぶち折ってでも」
「いえ、わたくしに降りてきた『神託』では、どんな手段を用いようとお二人は旅行に行ってしまいます。なので、危険の少ない地域へ行かせるのが最善なのです」
一番安全な地域へ、か。ならばまだ手はあるかもしれない。
「ハーマイン海洋国が危険なら……グァルム水国は?」
グァルムなら、フォノウと似た点も多いから、変更先としては最適だわ。
「リファリス、私もリジーの意見に賛成。行き先の変更が一番安全なのなら、司書さん達にきちんと事情を話して、変更してもらうのが一番だと思う」
そう言われたリファリスは、表情を明るくする…………事は無かった。
「あれ、どうしたの、リファリス」
「実は……『神託』の内容は……それだけでは無く……」
えっ。
「フォノウに危険を感じてグァルムに変更した場合、更なる危険に晒されるのです」
「……グァルムでは何が起きるの?」
「着いて二十四時間以内に大地震が」
それはフォノウより駄目なヤツじゃない。建物の崩落に津波、危険はフォノウ以上だわ。
「なら、もっと違う場所に…………トゥワイパンとか?」
トゥワイパンもフォノウやグァルムと同じく、綺麗な海が有名な観光地。代替案としても申し分無いわ。
「それが……『神託』によりますと……」
まさか。
「トゥワイパンでは火山の噴火が……」
「待って待って! トゥワイパンに火山なんて無いはずよ!」
「……海底火山ですわ」
海底火山かよ!
「な、なら、他の観光地に…………あ、ドナコ!」
ドナコ! あそこも景勝地として有名だわ。
「……実は……そちらも……」
「待って、ドナコ周辺は比較的落ち着いてたはずだけど」
「火山も無いし、地震があまり起きない地域だと思われ」
リファリスは深い深いため息を吐き。
「国主が亡くなられて国全体が喪に服す事になります」
「う……た、確かにそんな時に、観光に行っても……」
な、何てタイミングで……!
「な、なら、海に拘らず、他の観光地へ…………あ、スイスイとか?」
「バルブス山脈とか、絶景ポイント満載と思われ」
リファリス、再び深い深いため息。
「……流行り病が流行し、観光客の入国に規制がかかります」
うぐっ。な、なら。
「うう……トプジッエは!? 古代遺跡にロマンの嵐っ」
「過去最大級の砂嵐で、外を歩く事もできません」
「西洋が駄目ならオリエンタルに。チャニーズ共和国」
「トプジッエの砂嵐の延長で、過去最大級の黄砂現象が起きます」
「な、なら、少しだけ海を越えてジャパム。黄金の国・ジャパム!」
「季節外れの暴風雨が上陸します。しかも列島横断するルートですわ」
うわ駄目だああああっ!!
「……つまり、二人は旅行に行かない方がいい、と思われ?」
「はい。お二人揃って、人生最大の大凶期が旅行期間に重なります」
うっわ、それってどうしようも無いじゃない。
「つまり、旅行には行かず、この国でのんびりした方が良い?」
「……それが一番安全なのですが……」
……だったら、国内旅行に視点を切り替えるべきね。
「なら国内旅行にすべき。国内にだって、観光地は沢山ありにけり」
おお、珍しくリジーと意見が合ったわ。
「有名な温泉だとか、自然豊かな保養地だとか、色々あるわね。何だったら実家が持ってる別荘なんかを貸すわよ」
「流石に金持ち。うん、別荘賛成」
確か、あそことあそこなら、滅多に使わないから安全な筈。よし、こっそり実家に打診して……。
「……それが……」
「え……ま、まさか、国内旅行も危険なの?」
「はい。国内ですと、命を狙われる事になります」
命を!?
「い、一体誰が!?」
「……そこまでは『神託』でも判明しませんでしたわ」
「……なら、旅行に行かないって手も使えないじゃない」
もはやどうしろってのよ。
「それがですね、一箇所だけ安全な場所が有るのです」
え!?
「ど、どこ? どこなの?」
「そ、それがですね、ええっと……」
リファリスが困った表情をしてる。
「…………まさかとは思うけど…………サルバドル?」
サルバドル……サルバドルって。
「聖地サルバドル?」
リファリスは深い深い深いため息を吐き。
「はい……セントリファリスの隣町、聖地サルバドルのみが安全を保証できる旅行先なのです」
「それ、旅行じゃなくて巡礼だよね?」
「……そうですわね……」
……でも『神託』は外れる事は無いし……。
「問題は……あの二人を、どうやって説得するか、ですわ……」
二人が旅行祈願に来る時間は、もうすぐ。
隣町に巡礼が婚前旅行になりそうな可哀想な二人に、どうか評価とブクマをよろしくお願いします。