表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

50/428

旅行祈願な撲殺魔っ

「あら、新婚旅行ですの?」


「ちちち違います! 新婚旅行じゃありません!」


「では、婚前旅行ですの?」


「違いま…………いえ、それで合っているの……でしょうか?」


 わたくしに聞かれましても。



 食料品の買い出しの為に商店街を訪れていた時、偶然司書さんと出会いました。

 いえ、もうフレデリカさんとお呼びしましょう。


「ですが、そのような大きな鞄を買われたとなると、旅行以外はありませんわよね?」


「は、はい、そうですね」


「ならば、新婚旅行で無いのでしたら、婚前旅行で合っているのではありませんの?」


「そ、そうなるんでしょうか。拙者にはよく分かりません」


 真っ赤になった顔を鞄で隠しながら答えてらっしゃるようでは、認めたようなものでしてよ。


「分かりました、ならば旅行に行く、という事で宜しいですわね?」


「は、はい、そうです! 拙者、単なる旅行に行くのです!」


「そうですか…………ちなみに、お一人?」


「いえ、ジョウさんと一緒です」


 あら、まあ。


「わたくし、『今は』お一人、と聞いたのですが」


 それを聞いた瞬間に真っ青になり、続いて真っ赤になり。様々に顔色を変えながら、フレデリカさんは逃げるように走って行ってしまいました。


「あらあら。お茶に誘おうと思っていたのですが」


 少し意地悪だったでしょうか……後で懺悔しておきます。



「やはり婚前旅行でしたの」


 その後、教会に訪ねていらっしゃった隊長様……こちらもお名前でお呼びしましょう……ジョウ様が教えて下さいました。


「はい。先日の事件の早期解決が評価されまして、まとまった休暇を頂いたものでして」


「それでフレデリカさんと?」


「はい。誘ったら二つ返事で」


 ……フレデリカさんは幸せ者ですね。


「それで、ご用件は?」


「あ、失礼しました。明日旅行の安全祈願をお願いしようかと」


「明日ですわね、承りました。時間は?」


「お互いに仕事もありますので、夕方以降にお願いしたいのです」


「構いませんわよ」


 何かと忙しい方が多く、事前にお話頂ければ、夕方以降でもお受けしています。


「ありがとうございます。急な頼みでしたので、空いているか不安だったのですが」


「今は旅行のシーズンからは外れておりますから、比較的空きはありましてよ」


 幸せになってほしいと思っていた方々の、最初のご旅行ですもの。心を込めて、祈願させて頂きますわ。



 翌日、いつもの日課をこなしながらも、気分は夕方の旅行祈願に心が振れます。


「…………♪」


「……リファリス、嬉しそうね」


 わたくしの隣で礼拝堂の椅子を磨いていたリブラが、不意に声を掛けてきました。


「え、わたくし、嬉しそうにしてましたかしら?」


「終始ニヤニヤしてるから、バレバレだって」


 あら嫌だ。


「何か良い事でも有ったの?」


「ええっとですね、良い事が有ったのでは無く、これから起きるのです」


「これから?」


 そう言えば、リブラには言ってませんでしたわね。


「今日の夕方、旅行祈願が一件入っていますので、リブラも参加して下さいね」


「分かったわ……つまり、その旅行祈願がリファリスのお楽しみなの?」


「うふふ、そうですわ。ジョウ様とフレデリカさんの旅行祈願でしてよ」


「え、あの二人、もうそんな仲に……」


 そう言ってからのリブラは、やや上の空気味になりながら、椅子磨きを続けていました。



 いきなりじゃが、旅行祈願とはあまり聞き慣れぬじゃろ。解説して進ぜようぞ。

 この世界では旅行は頻繁に行われておる。やはり富裕層が一番多いのじゃが、庶民の中にもお金を貯めて行く者は結構居るのじゃよ。

 じゃがやはり危険な要素も多くての、旅行者の一部は旅行中に命を落としておるのじゃ。不憫じゃのう。

 そこで聖心教では、旅行前に祈祷をする事を勧めておるのじゃ。神の加護によって安全な旅行を楽しもう……と言う訳じゃな。

 効果の程は分からぬが、旅行前には教会で旅行祈願をするのが、習わしとなって根付いておるのじゃよ。

 ちなみに、シスターは無償で行っているそうじゃ。いやはや、シスターはやはり聖女じゃのう。



「……あの二人、いつの間にか進展してたのよ」


 リファリスが清めの湯浴みに行っている間、私はリジーと何気ない会話をしていた。


「……うらまやしい」


「それを言うなら羨ましい、でしょ。どういう言い間違えよ」


 そうは言いつつも、私自身も羨ましさは感じる。


「……どうやったって、リファリスが旅行に行く訳無いもんね……」

「激しく同意。リファリスは絶っ対に行かない」


 そう言って二人してため息を吐いた。


「……かと言って……」

「……かと言って……」


 目の前のライバルと旅行に行くなんて……。


「……無いわ」

「……無いと思われ」


 あら、気が合うわね。多分、同じ事を考えていたわよ。


 ……パタパタパタパタ!


「ん? 足音?」

「これはリファリスの」


 確かにリファリスのそれね。しかも、裸足?


 パタパタパタパタバァァン!

「大変ですわ!」

「「リ、リファリス!?」」


 何とリファリスは、バスタオルを巻いただけの姿で飛び込んできた。眼福だけど。


「な、何があったの!?」

「たった今、『神託』が起きました!」


 し、神託?


「あの二人を旅行に行かせるのは危険ですわ!」


「あの二人って……たいちょーと司書さん?」


「そうですわ! どんな手を使ってでも、阻止しますわよ!」


 半裸でまくしたてるリファリスを見ながら私は、ふと考えた。

 これ、リファリスと一緒に旅行に行けるチャンスじゃない、と……。

次回、リファリスを旅行に引きずり出せるか!?

リブラを応援したい方は、評価とブクマでお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=529740026&size=200 ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ