ツンデレで照れ隠しな撲殺魔っ
「え? 図書館にも?」
次の日の朝、奉仕中に衛兵さんから聞かされたのは、司書さんが行方不明だという事でした。
「はい。図書館での聞き込みで、最近は教会に通っていたという話が出ましたので」
「は、はい、ここ二週間程、毎日のようにいらっしゃってましたわ」
「何かご用事で?」
「いえ、何か悩みが有ったようなのですが……」
「……どのような悩みで?」
「いえ、最初はその様子だったのですが、わたくしと本の話で盛り上がりまして、それから毎日」
「来るようになった?」
「はい」
ふむ……と相槌を打ってから、衛兵さんはメモする手を止められました。
「そういえばシスター」
「はい」
「司書さんとは、見習いの方とも交流がありましたか?」
リブラと、ですの?
「はい。わたくしと同じく本が好きなようでして、たまに図書館に行っていましたわね」
「……その、大変失礼なのですが……」
「……リブラと司書さんとの間で、何かトラブルが無かったか、と言いたいのですわね?」
そう言われた衛兵さんは恐縮して黙り込まれました。
「無かったかと言われれば、嘘になりますわね」
「……やはり」
「先週司書さんに戦いを挑み、敗れていますから」
「…………は?」
「リブラの出自はご存知ですか?」
「は、はい、半年くらい前に亡くなられたリブラ侯爵夫人の関係者、でしたか?」
「妹ですわね。お姉様の葬儀の際にシスターになりたいと相談されまして、わたくしがお預かりしております」
対外的にはそういう事にしてあります。
「成る程、どのような経緯で?」
「何せリブラ侯爵家の出身ですので、剣の腕には自信があったようでして」
「リブラ侯爵家の出でしたら、相当な使い手でしょうね」
「それで只者では無い気配を発する司書さんに興味を持ち、結果的に手合わせをする事になったようでして」
「それで、負けたと?」
「はい。随分と悔しがっておりましたわ」
それから教会の蔵書も漁り、忍法に対抗する手段を探っておりますもの。
「確かに、司書さんは元忍者であったという記録はありましたね……つまり正々堂々と戦った上での敗北であり、遺恨を残すような結果では無かったと?」
「そういう事ですわ」
「ふむ……でしたらリブラ嬢にもお話を窺っても構いませんか?」
「勿論ですわ。何も隠すような事はございませんから、何なりと問い質して下さいませ」
わたくしがニコリと微笑むと、衛兵さんは真っ赤になって頷かれました。
「リファリス、急に私に振らないでくれない?」
昼食の際、リブラにチクリと恨み節を吐かれました。
「あら、貴女への嫌疑を晴らしてあげようとしただけですわ」
同じようにリジーも事情を聞かれたようですが、あちらは諜報部隊長様がいらっしゃいますから、何とでもなるでしょう。
「会話は聞こえてたから話を合わせられたけど、そうじゃなかったら難しかったよ」
リブラは上手く「亡くなった侯爵夫人の妹」という立場を演じ切り、最後には衛兵さんが謝られるような状態に持っていったくらいです。
「あの衛兵さん、純朴って言うか愚直って言うか……あんまり衛兵には向いてないわね」
「お人柄は最高でしてよ? 毎朝わたくしを心配して、様子を見に来て下さいますから」
「……それって単にリファリスに気があるだけじゃ……」
「え? 何か仰いまして?」
「いーえ、何でもありません。つーか、ここで私が言っちゃったら、あの衛兵さんが気の毒すぎるし」
……?
「それより、何で私に嫌疑が?」
「失踪する間近に真剣勝負した者が居れば、まずはそこを疑いますわよ」
「そうかなぁ? 私ならまず痴情の縺れを疑うけど」
ち、痴情の……!?
「……リファリス、前から思ってたんだけど、艶事って苦手なの?」
「な、何を急にっ」
「痴情の縺れなんてワードで顔を赤くしてるんだから、誰だってそう思うわよ」
「あ、赤くなんかありませんわっ」
「そんな事言いながら、耳まで赤くなってるよ」
「あ、赤くなんかっ」
「あ、ほらほらほら、全身真っ赤になっちゃって。か~わいい」
か、可愛い!?
「うふふふ、何か苛めたくなっちゃった」
……っ!
ガッ
「え゛。ちょ、ちょっと、杖を持ち出して、何をっ」
ブゥン ゴガッ!
「痛っ!? ちょ、照れ隠しするにも、ちょっと過激じゃ」
ゴゲゴゲゴゲ!
「ま、待って! 死ぬ! 死ぬって!」
ゴゲゴゲゴゲゴゲ!
「あ、頭は止めて! マジで死ぬから、頭は勘弁してえ!」
ゴギャ!
「うっぎゃああああああああああ!」
「やほー、リファリ……あ、あれ? リブラどしたの?」
「知りませんっ」
血の海の真ん中で痙攣するリブラを見ながら、リジーは戸惑うしかなかったようです。
「……何かあった?」
「な、何もありませんわ」
「……何故に耳まで赤い?」
「し、知りませんわ!」
「…………はは~ん」
「な、何ですの?」
「リファリス、ツンデレ?」
!!!!!?
「照れ隠しで撲殺されてちゃ、命がいくつあっても足りな」
ボガッ!
「ぐはっ!?」
「ぜ、絶対にツンデレではありませんわ!」
ゴゲゴガッ! ボカボカボカ!
「と、取り消す! 取り消します!」
「照れ隠しなんかじゃありませんわああああ!」
ボゴボゴボゴボゴボゴボゴッ!
「うっぎゃああああああああっ!」
……どう考えても照れ隠しじゃの。ツンデレかどうかは微妙じゃが。
高評価・ブクマを頂ければ、シスターの照れ隠しの巻き添えになれます。




