物真似忍法と撲殺魔っ
これ、本当に忍法なのじゃろうか? 単なる口車にしか思えんのじゃが……?
まあ、本人が忍法じゃと言っておるのじゃから、忍法で構わんのじゃが……。
「納得がいかないっ」
司書さんが帰った後、リジーの悔しがりようが……。
「う~、納得がいかないっ!」
「そんな事言ったって、負けたのは事実でしょ」
「ぐっ……そ、そうなんだけど!」
リジーの言いたい事は分かりますわ。あれで勝ち負けを判定されたって、納得はいかないでしょうね。
「でしたらリジー、あそこで負けを認めなければよかったんじゃありませんの?」
それを言われたリジーは、少し怪訝な表情をしました。
「それ、分かってはいたんだけど、何故か負けを認めてしまったと思われ」
え?
「あ、そうだったわ。私も負けを認めるつもりはサラサラ無かったんだけど、気付いた時には負けてたんだよね」
ええ?
「今から考えたら、何で負け認めちゃったんだろうか……?」
「ううむ……今度は違う理由で釈然としない……」
……まあ、わたくしが口を出す事でもありませんわね。
この時わたくしがもっと介入していれば、これから起きる悲劇を回避できた筈だったのです。それが悔やんでも悔やみきれません。
その次の日、何故か司書さんはいらっしゃいませんでした。
「いつもなら来ている時間ですのに」
「あの人だって仕事してるんだからさ、忙しい時だってあるでしょ」
外された頭が、わたくしに答えます。
「そうなのですが……」
頭の無い身体が、濡れた髪の毛をタオルで丁寧に拭いています。
「……リブラ、何故頭を外して髪を拭いているのです?」
「え? やり易いからだけど」
た、確かにやり易そうではありますが……。
「リブラ、一応誰が訪ねてくるか分かりませんから」
「あら、私程の剣士が、賊の侵入に気付かないなんて、あり得ると思う?」
そういう訳ではありませんけど……。
「だから、大丈夫だって。リファリスも一度やったら、便利さが分かるわよー」
一度やってみたらと言われても、絶対に不可能ですわ。
カタッ
……あら。
「私程の剣士が賊の侵入に気付かずに頭を蹴り飛ばされるの図っ!!」
ぼかあっ!
「あひゃああああぁぁぁぁ……」
天井から現れたリジーによって、リブラの頭は窓の外に蹴り出されました。
バタバタバタッ
身体が急いでそれを追いかけていきます。
「……リジー」
わたくしがジロリと睨むと、リジーは鳴らない口笛を吹き始めました。
「いけませんわよ、そういう事をしては」
「はーい、ごめんなさーい」
全く反省してませんわね。
「……軽く天誅」
ボガッ!
「ひゃぐ!?」
聖女の杖で軽く喝を入れてから、夕飯の準備を開始します。
「リファリス、痛いっ」
「当たり前ですわ、痛いようにやったんですから」
「不条理な暴力に断固抗議するっ」
「先程リブラに、その不条理な暴力を行ったのは、どこの何方でしょうね?」
……また鳴らない口笛を吹いて誤魔化してますわね。
ダダダダ……バアアアン!
「誰だあああ、私の頭を蹴ったのはあああ!?」
あら、リブラが怒り心頭で戻ってきましたわ……当然ですが。
「誰だろうねえ、酷い事するねえ」
「リジー、あんた以外居ないでしょうがあああ!!」
リブラから視線を外したリジーとわたくしの目が合います。するとリジー、ニヤリと笑いました。
「≪物真似≫……忍法・口車の術」
物真似?
「リブラの頭を蹴ったのはリファリスと思われ」
「は?」
「はい?」
い、いきなり何を言い出すんですの?
「頭を外して髪を拭くな、という忠告を聞かなかったから、リファリスが天誅した」
それを聞いたリブラは、わたくしをジッと見て。
「……そうなの、リファリス?」
あのですねえ、そんな筈がありませんでしょ。
「その通りですわ」
…………………………え?
「ええ?」
リジーもビックリしています。い、一番驚いているのは、わたくし自身なのですが。
「何度注意しても聞いて頂けませんから、実力行使したまでです」
か、勝手に口が、わたくしの意思に反して喋り続けますわ。これは一種の状態異常……ならば。
「い……い、『癒しなさい』」
パアアア……
魔術が発動し、わたくしにかかっていたであろう状態異常を解除しました。
「な、何ですの、今のは。考えてもいない事を、勝手にベラベラと喋りましたわ」
それを聞いたリジーも驚いていました。
「リファリス、なら司書さんの口車の術っての、本物なんだ」
え?
「さっきのは私達の種族スキルの最終形で、一度見た技やスキルを再現できる」
「種族スキルというものはよく分かりませんが、他のスキルを再現できるというのは恐ろしいですわね」
「それは置いといて。再現できたって事は、実際にそのような効果があるって事なり」
……あ、そういう事ですか。
「つまり、司書さんが使っていた忍法・口車の術は、嘘であろうが相手に本当の事のように発言させられる、という術なのですわね」
「成る程、だったら私が意思に反して負けを認めちゃった理由が分かった」
「つ、つまり今のリファリスの発言は、リジーに術によって言わせられたもの……という事?」
「そうなりますわね。実際にわたくしは貴女の頭を蹴飛ばしてはいませんわ」
「……つまり……私の頭を蹴飛ばした真犯人は……」
術が解けた以上、わたくしは真実が告げられます。
「無論、リジーですわ」
「……リジー?」
あ、また鳴らない口笛を吹いてます。
「あれはリジーが誤魔化している証ですわ」
「なら、リジー犯人で確定ね」
ジャキンッ
リブラが愛用の大剣を取り出しました。
「成敗してくれるわっ!」
ザグンッ!
「うひゃああああっ」
この日以降、司書さんが教会に姿を見せる事はありませんでした。
司書さんの行方が気になるなら、高評価・ブクマを頂ければ、次回分かるかもしれません。




