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嘘吐きと撲殺魔っ

 ……口車の術のぅ……。

 あれで忍法じゃと言い張られても、のぅ……。

 そもそも忍法とは、魔術に近いと思われがちじゃが、実際は種も仕掛けもある、論理的な術なのじゃ。相手を騙す話術を忍法として良いものなのか……。

 まあ、考えようによっては、巧みな言葉選びで相手の心象を自在に操るのじゃから、論理的に組み立てられた術……即ち忍法と呼べるのかもしれんのう。

 地味であるのは否定できんが、の。



 そんな事があってからも、司書さんがいつもの時間帯に訪れる事を止めませんでした。と言うより、完全に日課の一部と化していたのです。


「あの司書さん、何が目的なのかな」


 頭を外して魔力を補充しているリブラが、わたくしの方を向きます。


「さあ……相談にいらっしゃると言うよりも、雑談で話が弾んでいる印象が強いですわね」


 その頭の前にカップを置きながら、わたくしは繋がったままの頭を捻ります。あ、いえ、わたくしはリブラみたいに頭は外れませんわよ?


「ありがとう。リファリス、今日のは?」

「レモンティーですわ」


 砂糖は入れておりません。


「…………」


「どうかしまして?」


「あ、うん、いつもの」


「お砂糖ですの? 有りませんわよ」


 その言葉を聞いた途端、絶望という文字が顔に書かれたような表情を浮かべます。


「貴女、入れすぎですのよ。もう我が家の砂糖は底をつきましたわ」


 元貴族のリブラは、当たり前のように紅茶に砂糖をガバガバ入れていましたが、庶民には高級品ですのよ。


「そ、そんなぁ……甘くない紅茶なんて、紅茶じゃないぃぃ……」

「あら、飲みたくないのなら飲まなくても構いませんわ」


 その言葉に、リブラが必死に頭を横に振ります……って、外した頭を横に振るって器用ですわね。


「だ、大丈夫、ちゃんと頂きます」


「でも、砂糖の入ってない紅茶は紅茶じゃないって」


 リブラの身体はすぐにカップを手にし、自分の頭に飲ませます。


「あ、これはこれで、うん、美味し…………に、苦ぁ……」


 そんなに渋味が苦手でしたら、無理して飲まなくても。


「もうすぐ代わりに飲んで下さる方が見えますわよ」


 そろそろ司書さんがお見えになる時間ですわね。


「ぅぐ!? リ、リファリス嬉しそう!」


「それはそうでしょう。あれだけ趣味の話題で盛り上がれる方は、そうそう居なくってよ?」


 リブラも読書家ですが、わたくしとは好みが違います。ですから何でも読破してしまう本の虫のような司書さんとの会話は、外れも無くていつも弾んでしまいますわ。


「く……! わ、私も、確かに司書さんとは話が弾むんだけど……!」


 リブラは恋愛小説が大好きで、その話題になりますと喜んで食い付いてきます。当然のようにその辺りにも精通している司書さんは、リブラが喜ぶ話題をこれでもかっというくらい弾き出されるのです。


「は、話すのは楽しみなんだけど、リファリスとの貴重な時間を奪われる敗北感……!」


 コンコン


 あ、いらっしゃいましたわ。


「リブラ、頭を戻して下さいまし」

「はいはい」


 魔力を充分に補充したリブラは、頭を繋ぎ直します。


「はい、少々お待ち下さい」


 ガチャ ギィィ


 いつものように、司書さんが立っていらっしゃいました。


「ひ、ひぃぃ」


 何故か両手を挙げたまま。


「ど、どうしましたの?」


「リファリス、こいつ、怪しい」


 震える司書さんの背後から、リジーがひょこっと顔を覗かせました。



「……申し訳ござらぬっ」

「あ、いえ、こちらも申し訳ござらぬっ」


 司書さんの事情を知ったリジー、ひたすら平謝り。それに対して、何故か司書さんも平謝り。


「司書さんが謝る必要がありますの?」


「拙者、忍者だった頃の癖で、普段から忍んで歩いてしまうのでござる」


 ああ、そういう事でしたの。


「あまりにも下手くそな忍び足だったから、コソドロかと思って捕まえた」


 ……落ち忍の司書さん、忍び足も苦手だったのですわね。あ、部屋の隅で落ち込んでますわ。


「リジー、元忍者と言っても、特忍だったそうですわよ」


「とくにん? 何それ?」


 ああ、異世界人のリジーが知らないのも無理ありませんわね。


「一芸に秀でている忍者らしいですわよ」


「一芸に? どんな?」


 ああ、これはわたくし達と同じリアクションをする流れですわね。


「拙者が得意な術は、忍法・口車の術でござる」


「口車? つまり嘘吐き?」


 確かに、嘘吐きですわね。


「ひ、平たく言えばそうでござる」


「嘘吐きで忍者になれるなら、拙者も忍者でござる」


「うぐっ」


 ぐうの音も出ない、といった感じですわね。


「く……ならば、忍法・口車の術」


 あら?


「じ、実は拙者、お主が必ず興味を持つであろう一品を持っているでござる」


 あらら?


「え、呪われアイテム?」


「そうでござる」


「クンクン、クンクン……嘘。呪いの匂い、何も感じない」


「呪いを感じさせない程に巧妙に仕組まれた呪い、と言えば分かるでござるか?」


「呪いを感じさせない? ま、まさか、呪われた刀匠・マサムネの系譜の?」


「そこまでは分からぬが、何やら怨念を感じる文字が彫られていたでござるな」


「ををっ!? 本当にマサムネっぽい!」


「そうでござるか。なら、呪われた刀なと拙者には不要でござってな」


「うんうん!」


「進呈しよう……」

「うっしゃあああ!」

「……と言うのは真っ赤な嘘でござる。つまり、忍法・口車の術が決まったでござるな」

「……へ?」


 あららら。リジーもやられましたわね。


「の、呪われアイテムは?」


「無いでござる」


「だ、騙したの?」


「だから、忍法・口車の術でござる」


「ぐ、ぐおおおおおおっ!」


 この勝負、司書さんの勝ちですわね。あまりにもしょうもない勝ちですが。

高評価・ブクマを頂ければ、創作意欲が沸き返りますのでよろしくお願いします。

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