終章 元聖女様は、いついつまでも撲殺魔っ
『じゃあ、サーチに関しては私が導くから』
まさかサラの同一体が、この大陸を救う為に来てくれるとはのう。
『そう言えばパルプンテシア、確かあんたが可愛がってた秘蔵っ子がいたわよね?』
『聖女ちゃんの事?』
『そうそう。その娘って相当強いんでしょ?』
『ええ、まあ。このライオットを数回撲殺したくらい』
数回では済みまんな。しかも遠隔で撲殺されましたのじゃ。
『ふうん……ライオン太郎を撲殺できるんなら、あの魔王にも対抗できるんじゃない?』
「サラ、ワシはライオン太郎では無いわい!」
『あっははは、ごめんごめん』
パルプンテシア様まで、クスクス笑っているではないか……!
『それはともかく、その秘蔵っ子に討伐させないの?』
『ああ、聖女ちゃんはね……人を殺せないから』
『……は?』
「ワシもそうじゃったが、殺した者は皆生き返らせてしまうんじゃよ」
『…………………………はい?』
火の精霊サラ・マンダともあろう者が、呆気にとられた顔をしてる。
『い、生き返らせるって……まさか復活魔術を使えるの!?』
『ええ、まあ』
『そんな、命に関わる魔術は神のみにしか……』
サラの独り言が聞こえたようで、パルプンテシア様は明後日の方向に顔を向けてしまわれる。
『……パルプンテシア……あんた……』
『あ、あははは、あははははは……教えちゃった☆』
『輪廻転生のバランスが崩れるからって、人間達に教えるの禁止したのはあんたでしょうか!?』
『つ、つい、出来心で~』
『出来心って……! 道理で天上大陸からは死者がなかなか出ない筈よね!』
冥府の番犬が腹を空かせておるのじゃろうな。
『わ、悪かったわよ~……だけど聖女ちゃんに強請られちゃうと、どうしても……ねぇ』
『あんたはぁ~……聖女ちゃん聖女ちゃんって、お気に入りに滅法甘いのは相変わらずねっ』
『にゃはは』
「……あら?」
「せいじょさまー?」
「どうしたのー?」
「……何でもありませんわ。何方かの笑い声が聞こえた気がしただけです」
孤児院の子供達に囲まれたまま、少し呆けてしまったようです。
「せいじょさまー、おはなしのつづきー」
もう聖女ではありませんのに、未だに聖女呼ばわりされて困っています。
「はいはい、続きですわね」
ですが、最近はそう呼ばれない事に違和感を感じてしまいます。シスターを辞してから随分経ちますから、堕落してしまったのかもしれません。
「そうですわね。聖騎士様やロード様の旅の続きでしたわね」
「ちがうー! せいじょさまのたびなのー!」
「えー、せいきしさまもいっしょだったんだよー?」
「ろーどさまも! ろーどさまも!」
不思議な事にわたくしだけではなく、聖騎士リブラやロードモリーも伝説的な存在として語り継がれているのです。子供達はそれぞれに好きな対象が居て、何々派だと言い争うのが喧嘩原因の定番なのだとか。
「はい、皆さん。そろそろお休みの時間ですわよ」
「おひるねー? やだー」
「まだせいじょさまとあそびたいー」
「やだー」
「やだー」
駄々をこねても、わたくしの前では無駄ですわよ。
「……言う事聞かない悪い子は……」
「えっ」「ひっ」
「……『眠れ』」
バタバタバタッ
「くー」
「すかー」
「すぴー」
はい、全員夢の中ですわ。
「お、お疲れ様です、聖女様」
「あら先生」
担任の保育士さんがいらっしゃってました。
「あの、魔術で無理矢理寝かせるのは、あまり良くないので止めて下さいね?」
あら、見られてましたのね。失礼しました。
自宅へ戻る為に孤児院を出ます。
「シスター!」
あの声は……モリー。
「どうかしまして?」
「はあ、はあ、やっと見つけた……シスター、ちょっと頼まれてくれないか?」
「モリー、わたくしはもうシスターではありません。名前で呼んで下さいな」
「ああ、そうだったな。悪い悪い」
全く……シスターになってからも、モリーの喋り方は男の時のままです。
「で、どうしましたの?」
「あ、ああ。質の悪い冒険者が、教会内で騒ぎを起こしちゃってさ」
「そういうのはリブラに」
「リブラは出張中だろ」
……そうでした。亡くなられたライオット様のお墓参りの為に、公爵領まで出掛けているのでした。
「でしたら警備隊」
「警備隊は勿論来てるさ! だけど冒険者が強すぎて、歯が立たないんだよ」
……最近の警備隊の皆様は、すっかり弱くなってしまわれて……。
「仕方ありませんわね……分かりました、わたくしが何とかしますわ」
「よっしゃ、流石は聖女様だ!」
聖女様でもありませんわよ。
「それよりモリー、その冒険者…………撲殺しても構いませんわよね?」
「ええ、お好きなようにしてくれ」
「うふ、うふふふ、あははははは、あっはははははははははは! また撲殺できますわ! 真っ赤な真っ赤な血の花火が、綺麗に飛び散りますわ! あっはははははははははははは!」
元聖女様は、いついつまでも撲殺魔っ。
これにて完結です。長らくのご愛読、本当にありがとうございました。




