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終章 ただいま

 ひゅー、ひゅー、ひゅー


「旦那様、しっかりなさって」

「あぶー、あばー」


「…………」


「聖女様……あ、いえ、リファリス様、どのような……」


「……奥様、どうか最後の別れを」


「……分かりました」


 ひゅー、ひゅー、かひゅー


「旦那様、長い間お疲れ様でした。さぞご苦労の多い人生でしたでしょう」


 ひゅー、かひゅー、ひゅー


「ですが私は旦那様にお会いでき、しかも御子を授かる事ができました。本当に感謝しかありません」


 ひゅー、かひゅー、ひゅ、ひゅ


「その私が感じていた感謝が、旦那様に少しでも良い影響を及ぼしていたのでしたら……これに勝る幸せはございません」


 ひゅー、ひゅ、ひゅ、ひゅ、ひゅ


「旦那様、安心して主の元へお帰り下さい。御子は必ず、私が立派に育ててみせますから」


 ひゅ、ひゅ……ひゅうう、ひゅううぅぅ……


「また来世で、私を妻にして下さいね」


 ぅぅ……っ…………


「……旦那様っ……」


「………………主の元に旅立たれました」


「……ぅ……ううぅ……」

「あばぁー?」



 ……どこかへ吸い寄せられた気がするのぅ……。

 苦しさから急に解放されたかと思うたら、急に明るいところへ放り出されたのじゃが……?


『お帰りなさい、ライオット』


 む……?


『長きに渡る出張(・・)、ご苦労様でした』


 ……あ、貴女は……いや、貴女様は……!


『まだ思い出せませんか? 私です、パルプン』

「お久し振りですじゃああああ!」

『テシあぶぅあ!?』


 柔らかい、柔らかいのう!


『ちょ、急に抱き着いて……ど、どこに触ってるのですか!』


 ツルツルじゃのう、ピチピチじゃのう!


『こ、こら、ライオット、怒りますよ!?』


 フカフカじゃフカフカじゃ……えいっ。

 

 キュッ

『はああああああん! あ、貴方という人はあああああ!!』

 ズドオオオオオン!

「あばばばばばばばばばばばば…………ぐげっ」



「いやはや、記憶があやふやでしたのでのう。パルプンテシア様にしたご無礼の数々、平にご容赦を」

『……褒美を考えていましたが……今ので無しです』

「いやはや、手厳しい」


 それにしても、良い感触じゃったのう。


『……もう一度「天の雷」を食らいたいですか?』


 それはご勘弁を。これ以上は死にようがありませんのじゃ。


『はああ、死んでも治らないというのは本当なのですね』

「ですから、生き返った際の記憶の混乱ですのじゃ」

『嘘仰い! 明らかに私の弱点を突いてきたではありませんか!』


 それは偶然ですじゃ。


『それより計画は上手くいきましたか?』


「それはもう。最後の連れにはちゃんと子供を遺して」

『家族計画の話をしているのではありません! 北大陸への道は開けたか、と聞いているのです!』


 ああ、そちらじゃったか。


「無論、開けておりますぞ」

『……南大陸の住人には……』

「勿論、渡れぬようにしておりまする。魔王とキツネ娘が魔国連合に手を回した筈ですじゃ」

『そうですか……全て計画通りに』

「はい、計画通りに進んでおります」


 パルプンテシア様が創造された大地、北大陸と南大陸……通称「天上大陸」は、他の大陸とは違う繁栄をしてきたのじゃ。御自ら張られた強力な結界によって守られており、魔物……モンスターが侵入する事も無く、平穏な日々が続いておった。

 じゃが、北大陸に魔王を名乗る者が現れてから、状況は一変したのじゃ。

 強力な配下を引き連れた魔王により、北大陸はあっという間に制圧され……人間達の生活区域は南大陸のみとなってしまった。それでも侵攻の手を緩めぬ魔王軍はついに南大陸にまでなだれ込み、現在の魔国連合国境付近まで勢力を広めてきたのじゃ。


「しかし、本当に紙一重でしたのぅ」

『私には北大陸の魔王を止める力はありませんでしたから』


 パルプンテシア様は他の神への救援を依頼されました。それに応えて下さったのが……。


『精霊王様々でしたわ』


 全ての精霊を統べる王だったのじゃ。


『はろはろー』


 む、噂をすれば、精霊王様の使いの方が。


『あら、サラじゃありませんか』

『お久しぶり~……ていうか、セクハラジジィじゃん!』


 誰がセクハラジジィじゃ!


『いやいや、どう考えてもセクハラジジィでしょ。ずっと私の胸ばっか見てんじゃん』


 あ、当たり前じゃ! そのような破廉恥な格好をしておれば、誰でも目がいくわい!


『だぁれがハレンチよ!? 単なるビキニアーマー愛好家よ!』

「ビキニアーマー自体が充分破廉恥じゃろが!」

『立派な装備品よ! 店売りしてんだから間違いないわ!』

「ほぼ一点物じゃろうがあああ!」


『二人とも、わざわざ喧嘩する為にここまで来たの?』


「違うの」

『違うわよ!』


『だったら肝心な話を進めましょう。魔王に対する事ができる戦士、本当に見つかったの?』


『見つかったよ……ていうか、私だけど』


『はい?』


『つまり、生きてる私』


 い、生きてるサラじゃと!?


「まさか、あの露出狂で有名なあばきょ!?」

『露出狂言うな!』


『ライオットは黙っていて下さい。話が進みません』


 も、申し訳無い。


『で、生前の貴女は強いんですか?』


『強いわよ。七冠の魔狼(ディアボロス)を倒したのも、あの娘がいたパーティだし』


 あ、あの魔狼をか!?


『……名は……何と仰るの?』


『サーチよ』

もう一話だけ続きます。

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