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元聖女様はやっぱり撲殺魔っ

「……許してえなぁ……」


 天井から逆さまに吊されたエリザが涙目で訴えますが、知った事ではありません。


「……リファリス、エリザはエリザなりに気を回してくれたんだから……」


 えーえー、ベッドメイキングくらいでしたら感謝だけで終わりましたわ。


「わざわざ鞭やらロウソクやら準備してなければ、ね!」


「ちょっとした冗談のジャブや、ジャブ」


 ジャブでも質が悪いと不愉快ですわ。


「……ああ、良い事を考えつきましたわ。まずはエリザの身体で、練習させてもらいましょう」

「えええっ!? あ、あかん、そういう事をして許されるんはリファリス様だけや」

「わたくし、リファリスです。つまり、許されるのですね」

「違うリファリス様や! 異世界のリファリス様やあああ!」


 うふふ、冗談ですわよ。


「わたくしの場合は、一撃で済みますから」

「一撃って……な、何で棍棒取り出すん?」

「棍棒ではありません、聖女の杖です」

「え、待ってえや。どう見ても棍棒やろ」

「いえ、聖女の杖です」

「いやいやいやいや、百歩譲って杖ではあらへ」

 ブゥン! バガァァン!

「あぶらばひぃ!」

 ガシャアアン!

 ヒュウウウゥゥゥ……ン


 ……よく飛びましたわ。


「……エリザ……死んだんじゃない?」

「大丈夫ですわ。肋を数本砕いただけですから……後はまあ、着地する場所次第ですわね」

「そ、そこまでしなくても……」


 大丈夫ですわ。不幸にもお亡くなりになっても、ちゃんと生き返らせてあげます。



「「「エリザお姉様ー、大丈夫ー?」」」

「大丈夫やから、早く助けてぇな!」

「「「こっちの世界のリファリス様、一日放置してって仰ってるから」」」

「あ、悪魔や!」



 日が落ち、辺りも暗くなり。


 ギィッ バタン


 夕飯と湯浴みを終えたわたくしが部屋に入ります。


「リファリス、いらっしゃい」


 すると天蓋付きのベッドの上で、準備万端なリブラが手招きを……。


 ブン! ゴギャア!

「あぎゃは!」


「毎度言う事ですが、もう少し雰囲気というものを大切にしなさい」

「い、いきなり灰皿投げないでよ……それより誰も煙草を吸わないのに、何故灰皿が?」

「あら、バールとバットに次いで、撲殺凶器ランキング第三位ですわよ」

「何よそのランキング」


 石、という選択肢もありますが、室内でしたら灰皿でしょう。


「本当に撲殺に拘るわね、リファリスは」

「それがわたくしのアイデンティティですもの」

「嫌なアイデンティティよね……聖女様は辞めても撲殺魔は辞めないんだ……」


 あら、一生涯辞めるつもりはなくってよ。


「……あの……リファリス?」


 はい?


「私達、新婚なのよね?」

「そうですわね」

「新婚……なのよね?」

「ですから、そうですわね」

「新婚なんだからさあ……」


 ポンポン


 ベッドの隣を軽く叩きます。


「……何でしょうか」

「もう、またまたぁ。新婚でベッドって言ったら、これしか無いでしょ」


 無論、リブラが何を望んでいるか、分からない筈がありません。ですがここはすっとぼけてみましょう。


「ベッドメイキングを再び?」

「何でよ。もうエリザが頑張ってくれたじゃないっ」

「……エリザがそこまで頑張って整えてくれたベッドを、わたくしはシワシワにはできませんわ……」


「……へえ、そう」


 ニヤリと笑ったリブラが、ベッドから降りてきて。


「だったら、ベッドを使わなければいいのね」


 え。


「べ、ベッドを使わずにナニを?」

「ナニをって、その気になればソファでも床でもできる事よ」


 め、目が据わってますわ……!


「わ、分かりました。でしたらベッドで」

「いーえー、私の滾る血潮は、ベッドなんて生易しい環境を好まないのよ」


 わ、わたくし、ドラゴンの尾を踏んでしまったみたいです。


「で、でしたら、どこでナニをするつもりで?」

「そうねえ……」


 追い詰められて、バルコニー近くに……。


 ガチャ


「せっかくバルコニーまで来たんだから……たまには開放的にシてみようか♪」


 開放的にって、まさか!?


「ほらほら、リファリス、こっちこっち」

「え、待って下さい、いや、いやあ!」

 ギィッ パタン


 ……わたくし……こんな初めては御免被りますわ……。



 ボガボガボガボガボガボガッ

「ごべんばばい! ごべんばばい!」


 二時間後、バルコニーで生まれたままの姿で、袋叩きになるという初体験を味わうリブラ。


「『癒せ』」

 パアアア……


「うぐ、げほげほげほ!」

「どうですか、とおおっても開放的でしょう」

「開放的だけどマジ死ぬって!」

「殺すつもりなのですから、何の問題もありませんわ」

「新婚早々撲殺するつもり!?」

「新婚早々バルコニーで押し倒してきた方に言われたくありませんわ!」


 ビュウウゥゥッ


 か、風が冷たい……。


「ハ、ハクシッ!」

「クシュン!」


 わ、忘れてました。わたくしも素っ裸でしたわ。


「と、とにかく中へっ」

「た、確かに。撲殺されるより先に凍死するっ」


 脱ぎ散らかしてあった衣服を拾い、急いで中へ……。


「ほらな、やっぱ撲殺するやんか……あ」

「それがリファリスがリファリスたる証……あ」

「や、やっぱ覗き見は駄目だって……あ」


「…………あ、貴女達……いつからそこに?」


「「「……二時間くらい前……」」」


 さ、最初からではありませんか!


「……全員五回は死んで頂きます」

「「「えっ」」」

「そこに直りなさい!」

「「「い、いやあああああ!」」」



 元聖女様は、やっぱり撲殺魔っ。

明日エピローグです。

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