祝福される撲殺魔っ
「リブラ様、リファリス様、ばんざーい!」
「セントパルプンテシアに栄光あれー!」
「聖パルプンテシア礼拝堂に光あれー!」
無事に披露宴を終えたわたくし達は、最後の試練……いえ、イベントに望みます。
「お待ち~、と思われ」
「リジー!」
あの時に元の世界に帰った筈のリジーが、結婚式に駆け付けてくれて。
「不肖ながら私が、お二人の幸ある未来の為、御者を務めさせて頂きマッスル」
あーもう、こういう意味の分からない返答こそがリジーですわ!
「不肖なんてとんでもないです。リジーにしかお願いできません」
「そうよ。どうかよろしくお願いします、リジー」
「……今なら言える。言ってみせる」
「「は?」」
「リファリス……私も貴女が好きでした」
え、えええ!?
「リジー、それ今言っちゃうわけ!?」
「今じゃなければ言えないと思われ……だけど過去形なり」
え?
「だけど私はリファリスよりも、元の世界に戻る事を選んだ。その時点で、私はリブラに及ばない」
「……リジー……」
「だけど、このくらいはさせてほしい。これが、私にとってのけじめでもあるのだから……」
そう言ってリジーはわたくしを引き寄せ。
「……っ!」
わたくしの唇……ではなく頬に、軽く唇を当ててきたのです。
「えっ」「あっ」「きゃっ」
ですが周りからは、わたくしの唇を奪ったように見える訳でして……。
きゃあああああああああああっ!!
うおおおおおおおおおお!!
先程までとは違う歓声が……!
「リジー!」
「あははは、ではどうぞ」
リジーにエスコートされて、馬車に乗り込みます。
「リジー、あんたはああ!」
「ふふぇふぇ、しふぇやっふぁり」
多分「してやったり」と言っているのでしょう。リブラに頬を引っ張られながらも、わたくしと同じようにエスコートします。
「では、出発しんこー」
みゅうううん!
そして、馬車を引くのは当然、ベアトリーチェです。
みゅんみゅんみゅんみゅん♪
デンデンデンデン
ガラガラガラガラッ
「見て見て、可愛いいいん!」
「あれくまさん!? すごい、くまさんがばしゃひいてる!」
……みゅん♪
「「きゃあああああああああ!!」」
愛想を振り撒くベアトリーチェに、集まって下さった皆様はもうメロメロです。
「そう言えばベアトリーチェって、あんまり町の中に入る事は無かったわね」
できれば教会にある熊小屋で寝泊まりさせたかったのですが、流石に人目に触れるのは憚られましたので、普段は近くの森で過ごしてもらっていたのです。ですが式を契機に、わたくし達の新居に作った熊小屋に住んでもらう予定で、今回はその御披露目も兼ねています。
「どうやら問題は無さそうね」
「ええ、お陰様で」
みゅんみゅんみゅんみゅん♪
デンデンデンデン
ガラガラガラガラ
皆様に祝福されながら馬車……いえ熊車は進み。
「ほら、リファリス。私達の新居はあれ」
…………。
「リブラ、わたくし教会の近くがいい、と言いましたわよね」
「うん、聞いた」
「確かに教会の近くですわ」
「間違い無いでしょ」
ですが、ここは。
「教会の真ん前ではありませんか!」
「あはははは、リファリスには内緒で計画したから」
最近ご近所で改築工事が行われている、と聞いてはいましたが……まさか教会前の空き家でしたの!?
「見つからないように、大工さん達にも最新の注意を払ってもらってたんだから」
そんなくだらない事で、大工さんに余計な苦労をかけないで下さいまし!
「ほらほら、それより入って入って♪」
はあ……全くもう。
ガチャ ギィィ……
「「「お帰りなさいませ、奥さ」」」
バタン!
「リファリス?」
「……中のメイドさん方も、リブラが仕掛けましたの?」
「は?」
首を傾げたリブラが、再びドアを開きます。
ガチャ ギィィ……
「「「お帰りなさいませ、侯爵夫人さ」」」
バタン!
「な、何あれ!?」
「リブラの悪戯でしょう!?」
「わ、私も知らないわよ!」
「……ブッ……わ、笑えるわぁ……クスクスクス」
……この声は!
「「エリザ!!」」
「あはははははは! 二人の困った顔、めっちゃ傑作やったでえ!」
二階のバルコニーからわたくし達を見下ろして爆笑しているのは、いつの間にか先回りしたエリザ。
「どや、ウチのメイド達は。この為にわざわざ世界の境界を越えてきたんやで!」
そんなくだらない事の為に、メイドさん達に苦労を強いらないで下さいまし!
「まあまあ、せっかく連れてきたんやさかい、今日一日は相手させてぇや」
……はあああ。
ガチャ ギィィ……
「「「お帰りなさいませ、侯爵夫人様、奥様」」」
「ご、ご苦労様」
「流石に実家でもこれは無いなぁ……」
ズラッと並んで頭を下げるメイドさん達を左右に見ながら、わたくしとリブラは所在無さげに中に入りました。
「奥様、紅茶が入りました」
「は、はい、ありがとうございます」
「奥様、私共に敬語は必要ございません。アゴで使うくらいの気持ちで接して下さい」
「……エリザ……面白がってますわね……」
わざわざメイド姿に着替えて現れたエリザ。完璧に仕事をこなしながらも、目は完全に笑っています。
「まさかここに就職するつもりですの?」
「まさか。ウチだって向こうの世界じゃ伯爵夫人やで」
メイド姿が絵になる伯爵夫人なんて、そうそういらっしゃいませんわよ?
「あー、そうやった。今夜は当然ながら、同じ部屋でいいんやな?」
ぶふぅ!
「あはははははは! ホンマおもろいわぁ!」
……だんだん撲殺したくなってきましたわ。
もうちょいと言いつつ、長くなってるっ。




