いろいろ変更な撲殺魔っ
色々なハプニングはあったものの、式は滞りなく終了しました。
「リブラ、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫。砕かれたアゴ、ようやく噛み合ったわ」
突っ込みで放ったアッパーカットが綺麗に決まり、アゴを粉砕してしまう騒ぎがあったのです……まあ過ぎ去りし過去ですが。
「お姉様に何をしてくれるの! ねえ、ちょっと!!」
「ラブリ様を黙らせろ! 下手したら式が進行不可能になるぞ!」
暴走しかけたラブリを周りの方々が抑えて下さったので、事なきを得ました。
「私は慣れてるからいいけど、ラブリっていう小姑の存在を忘れないでね。刃物握って枕元に立つかもしれないから」
それはご勘弁願いたいので、重々気を付けますわ。
「しかしリブラ、あれはありませんわよ?」
「へ、何が?」
「誓いの接吻です。あれは唇と唇が触れる程度で充分ですのよ」
それを聞いたリブラは、急に視線を逸らし。
「あ、あはは、そうだったんだ、知らなかったなぁ~」
逸らされた視線は、明らかに泳いでいます。
「……やはり知っていた上での、故意だったのですね」
「え、あ、いや、その、出来心っていうかおぐっふぉ!?」
傍目には抱き合ってみえたでしょうが、実際は破壊力満点の寸勁が鳩尾に入ったリブラが、わたくしに寄りかかってきたのでした。
「うぷ、な、何も食べられる気がしない……」
「あら、わたくしが食べさせてあげますわよ。脂が乗り切った牛肉をたらふく」
「止めて。100%リバースするから」
あら残念。
「それにしてもリファリス、寸勁なんて高度な打撃技、どこで習ったのよ」
「本で読んで、後は独学ですわ」
「独学!? 騎士団に伝わる勁術の極意を、独学で!?」
勁術?
「私が片手で大剣を振り回してるでしょ? あれも勁の応用なのよ」
ああ、成る程。
「自重の力点を巧みにずらしているのですね」
「原理まで分かっちゃうって事は、本当に理解してるのね……リファリス、実力で自由騎士団団長になれるわよ」
「なりませんわ。先月にようやく解放されましたのに、また復帰するなんてあり得ません」
副団長様を団長に就かせるまでに、一年以上かかってしまいました。頑なに首を縦に振らない態度には辟易させられたものです。
「副団長言ってたじゃない。聖女様以外に団長を務められる者は居ないって」
逆にこの言動が決め手となり、わたくしは団長職を辞す事ができたのです。その時にはわたくしは既に聖女ではなくなっていましたから。
「あの時の悔しげな表情、今でも鮮明に覚えてますわ……ふふ」
「途中から完全に単なるいがみ合いになってたわよね」
いがみ合いだなんて失礼な。健全な引き継ぎの一環ですわ。
立場ある方々の御祝いの言葉を頂戴しながら、少しため息を吐きたくなってきました。
「リファリス、お疲れ?」
「少しだけ……リブラはどうですの?」
「まあ……これだけ挨拶が続けば、流石にね」
まだまだ目白押しです。元とは言え、聖女と聖騎士の挙式ですから、当然と言えば当然なのですが。
「おまけに私はリブラ侯爵夫人……注目が集まって当然よね」
「わたくしは……無職になるのですが」
「無職って。一応聖女の名は返還しても、シスターは辞めないんでしょ?」
「いえ、シスターも辞すつもりですわ」
「え」
「わたくし、一介の信者になるつもりですの」
「あ、あー、そういう事。聖心教を辞めるんじゃないのね?」
「当たり前です。何故信仰を捨てなくてはならないのですかっ」
「いやさ、モリーがシスターになるって言ってたから、教会を出るんでしょ?」
「当たり前です」
「そうなると、町の名前も教会の名前も、変更されるのかしら」
…………あ。
「聖リファリス礼拝堂に、セントリファリス。どちらにもリファリスなんて入ってるんだから、そのままは不味いんじゃないの?」
どう……なんでしょうか。
「だいたいさぁ、もう聖女でもシスターでもないリファリスの名が冠せられているなんて、モリーにはやりにくいんじゃないかな?」
……言われてみれば、確かにそうですわね。
「でしたら聖モリー礼拝堂とセントモリーに改名を」
「待って待って待って。それは逆にモリーの負担にしかならないって」
そうですか?
「だからさ、もっと敬われるべき方の御名を入れちゃえばいいじゃん」
「敬われるべき方のって……まさか、ルディですの?」
「うーーん…………新大司教猊下ねぇ」
リブラは不本意らしく、苦笑いを浮かべます。
「やっぱりさ、こういう場合はさ、誰も会う事が叶わない超大物の名を冠しちゃった方がいいのよ」
誰も会う事が叶わない、超大物?
『主様! 主様ぁぁ!』
『何よ、うっさいわね。仕事が一段落したから休憩してるのに』
『た、大変です! 聖女、聖女様がっ』
『結婚するんでしょ。知ってるわよ』
『いえ、それだけではなくっ』
『聖女辞めてシスター辞めて俗世に戻ったんでしょ。それも知ってるって』
『それだけではなく、町の名前と教会の名前がっ』
『ああ、辞めたから変更したっての?』
『は、はい。その名前が……主様の名を冠しているのです!』
『……………………は?』
『聖パルプンテシア礼拝堂にセントパルプンテシア! もう発表されてしまい、訂正のしようがありません!』
『な、な、何で私の名前が勝手に使われてるのよおおおおおおお!?』
セントパルプンテシア。一度行ってみたい。




