やっぱりこうなる撲殺魔っ
『では皆様、盛大な拍手でお迎え下さい。新郎新婦のご入場で』
「違う違う。女性同士だよ」
『え……失礼致しました。皆様、改めて拍手のご準備を。新婦新婦のご入場でございます!』
「……新婦新婦で間違っては無いけど……いいのかなぁ?」
ジャジャジャジャーン♪
結婚式の定番曲がフルオーケストラで流れる中、手を繋いでわたくしとリブラが入場しますと、入場曲に負けないくらいの拍手と歓声が巻き起こります。
「聖女様、ばんざーい!」
「聖騎士様、ばんざーい!」
「おい、リファリス様はもう聖女様じゃないぞ」
「あ、そうだったな……元聖女様ばんざーい!」
「それを言うならリブラ様も聖騎士様辞めてるぞ」
「あ、そっか。ならリブラ伯爵夫人様ばんざーい!」
うふふ、セントリファリスの人々は見ていて飽きませんわ。
「どうしたの、急に笑い出して」
「何でもありませんわ……それよりリブラ、どうしますの」
「え、何を?」
「誓いの言葉です。先程の間違いではありませんが、新郎新婦ではありませんから、どちらかが新郎側の役をしなければなりません」
「あー、そういう事か……新婦新婦の場合、誓いの言葉って考えられてないの?」
「少なくともわたくしは知りませんわ」
「うーん……だったら私が新郎側でやろうか?」
「お願いします」
「うぉっほん」
「「あ」」
密談しているうちに、牧師様の前に着いていました。
「えー、ではこれより、新たなる歴史を刻むお二人の誓いの式を始めます」
新たなる歴史……ですか。そう言われてみれば、同性の結婚式って聞いた事がありませんでしたわね。
「では両新婦、前へ」
両新婦。まあ、新婦新婦よりはマシでしょうか。
「えー、ではあいうえお順で誓いの言葉を」
「牧師様、どちらも『リ』ですわ」
「え……あ、そうでしたな。ならばもう一つ下の文字で」
「わたくしは『フ』で」
「私は『ブ』なんだけど」
「えっ」
グダグダですわね。
「牧師様、私が先でいいよ」
「そ、そうですか、では……新婦リブラよ、悩める時も寄り添い、嬉しき時も分かち合い、生涯を隣に並ぶ者と歩み続ける事を誓いますか?」
牧師様の問いに笑みを浮かべ。
「はい、誓います」
そうハッキリと答えました。
「新婦リファリスよ、悩める時も寄り添い、嬉しき時も分かち合い、生涯を隣に並ぶ者と歩み続ける事を誓いますか?」
「はい、誓いますわ」
少し悩んだ素振りを見せようか、という悪戯心も疼きましたが、今回は空気を読んで素早く返答します。
「では、誓いの書に署名を」
福音書最終章第二十七部が、誓いの為に署名する空白欄となっています。そこにお互いの名を書き入れれば。
「最後に問います。お二人共に異論はありませんね?」
二人見つめ合って笑い合い。
「「はい」」
同時に返答します。
「宜しい。ここに新たな夫婦……いえ、パートナーが誕生した事を、主の名の下に認めます」
わああああっ!
式場にいらっしゃる方々から再び歓声が上がります。
「ふう、これで儀式めいたのは終わりよね?」
「ええ、一応。ですが牧師様によっては」
「ではお二人、誓いの接吻を」
「…………は?」
ああ、やっぱり……。
……わあああああああ!!
先程の歓声を超える歓声が式場に響きます。
「な、何よ、誓いの接吻って!?」
「本来は無い項目なのですが、牧師様によっては追加される事があるのです」
わたくしが牧師役の時は、基本的に入れてました。
「せせせ接吻って、頬?」
「いえ」
「おでこ?」
「違います。唇と唇ですわ」
「やっぱりぃぃぃぃ」
リブラが真っ赤になって頭を抱えます。
「あら、そこまで恥ずかしがるなんて、リブラらしくありませんわね」
「は、恥ずかしいに決まってるじゃない! リファリスは恥ずかしくないの!?」
わたくしですか?
「特には。される方はそれなりにいらっしゃいましたし、儀式の一環ですし」
「リファリス割り切っちゃうの!?」
割り切る程の事でもありませんわ。
「……ふう……分かった。リファリスがそう言うなら、私も覚悟を決める」
「この式に参列していらっしゃる皆様が証人となります。さあ、誓いの接吻を!」
「わああああっ!」
「きゃあああああ!!」
「囃し立てないでよね……じゃ、じゃあ、いくわよ?」
「はい、どうぞ」
「……って、ちょっと待って。もしかしたら私からするの!?」
「当然ですわ。今回の新郎役はリブラでしょう」
「し、新郎側のリードなのぉ!?」
「早くしないと、更に囃し立てられますわよ」
「あー、恥ずかしがってる」
「んなもん勢いだよ、勢い!」
「ほーら、キッス、キッス、キッス」
「「「キッス、キッス、キッス」」」
ほら、やっぱり。
「うああああ……」
「ほら、リブラ。頑張って下さいまし」
「何を他人事みたいに……って、目を閉じてスタンバイ済み!?」
早くして下さい。披露宴も控えてますのよ?
「く……し、仕方無いわね! 敵陣に斬り込むより緊張するけど……」
例えが物騒ですわね。
「いざ!」
ちゅうううううううううううっ!
え、ハード?
軽く触れるくらいの、ソフトなキスでいいんですのよ?
ちゅうううっ!
ま、まだ続きますの!?
って、ちょっ!? 舌を入れなくても!
「うっわ、凄ーい」
「流石は元聖女様と元聖騎士様」
「度胸が並外れてるぜ」
「うーっ、うーっ、ぶはあ!」
「どう、リファリス。これで充分でしょぶぎゃふぉい!?」
やり過ぎですわ!
やっぱりこうなる。




