聖女様は花嫁でっ
カーンコーン カーンコーン
教会の鐘が、今まで聞いた事が無いくらいに激しく鳴り響きます。
「あれは、リジーですわね」
「昨日着いたばかりやから、嬉しくて仕方無いんやろな」
メイド姿のエリザが、わたくしに付きっ切りでお世話してくれます。
「で、その後リファリス様とはどうですの?」
「……聞かんといてや」
ドレスを整えてる際に屈んだエリザの胸元には、赤い斑点が沢山ついているのが見えます。
「ああ、つまりお楽しみだったと」
「言うなや! そ、その通りやけど……」
真っ赤になってうろたえるエリザを愛でていると、ドアをノックする音が響いてきます。
「ど、どうぞ」
顔を手の平でパタパタしながらエリザが応えます……あ、今胸元を直しましたわ。
「失礼致しますわ」
開かれた先にはリブラと、珍しく着飾ったモリーが居ました。
「おはようございます、聖女様っ」
いえ、違いました。リブラでは無く、妹であるラブリさんです。
「リブラ……ちゃうな。つー事は、この子がラブリちゃんかいな?」
「そうですわ……って、よくお分かりになりましたわね」
「ウチの部下に双子がおんねん」
ああ、成る程。
「聖女様っ」
「聖女様って、義理とは言え姉妹になるんやろ? それにリファりんはもう聖女では」
「ああ、それはですね」
「私、聖女様をお義姉さんだなんて呼ぶつもりは一生ありません!」
堂々とした宣言に、モリーも苦笑いします。
「さっきからこんな感じなんだ。ここまで連れてくるのも大変だったんだぜ」
それは……お疲れ様です。
「……はっは~ん……ラブリちゃんやったか、あんさん」
「な、何ですかっ」
「シスコンちゃうん?」
ぼんっ!
その言葉を聞いた途端に、ラブリさんの頭が噴火したようなエフェクトが見えた……気がしました。
「ななななな何言ってんの!」
「滅茶苦茶動揺してんなあ」
「まあ、バレバレだわな」
エリザとモリーの的確な突っ込みで、ラブリさんの顔はますます赤くなります。
「ふふ……わたくしとしましては、貴女みたいな可愛い妹は大歓迎ですわ。よろしくお願いしますね、愛しき義妹さん」
「キイイイ!」
バタァン!
ラブリさんは違う意味で顔を真っ赤にし、キッと睨み付けてから逃げて……いえ、出て行かれました。
「……リファりん、煽ってどうするねん」
「意地悪な小姑さんなんて厄介なだけですもの、今のうちに力関係をハッキリしておかなければ」
「……リファりんはやっぱリファりんやなあ。肉体的だけやのうて、精神的にもボッコボコにするんやから」
「あら、ボッコボコになんかしませんわ。するんでしたら一撃で粉砕しますし」
「どっちにしても手加減無しやん!」
当たり前ですわ。わたくし、もう聖女ではありませんから。
「自分の幸せを堂々と追求する事ができるんですもの」
セントリファリスに帰ってから三年。わたくしの周りは少しずつ変化していきました。
「おおきに、リファりん。また来るで」
わたくしの異世界転移魔術により、エリザが元の世界に帰り。
「やったぜ! 合格だ、合格したぜ!」
モリーが正式にシスターとなり、わたくしの跡を継ぐ事になったり。
「ではな、孫娘よ。また会おう」
「ちょっ!? 本当に全部押し付けて……ねええ!?」
大司教猊下……お爺様が電撃的引退、半身のルーディアに全てを押し付け……託し、忽然と姿を消したり。
「……大司教猊下が引退なされたのですから、わたくしも聖女で居る必要はありませんわね」
「「「え゛っ」」」
わたくしに色々と重責を押し付けようと、大司教就任を打診してきたルディ達の前で聖女とシスター引退を宣言し。
「ですからリブラ、わたくしの伴侶になって頂けませんか?」
「はいい!?」
「嫌ですの?」
「ととととんでもない! 私で良ければ、是非!」
その流れでリブラにプロポーズし、承諾してもらい。
カーンコーン カーンコーン
……本日、結婚式当日を迎えています。
ガチャ
「リファリス、準備済んだ?」
あら、リブラ。
「貴女こそどうですの?」
「いつでもいけるわ」
そういうリブラも豪奢なウエディングドレスに身を包んでいます。
「似合ってますわよ、リブラ」
「ありがとう……それよりリファリス、何で真っ赤なの?」
はい?
「ドレスよ、ドレス。せっかく綺麗な銀髪なんだから、純白のウエディングドレスとの組み合わせが一番じゃない」
ええ、わたくしもそう思ってましたわ。
「ですがエリザに言わせますと『真っ白に統一してどないすんねん』ですって」
「それで赤なの…………確かに似合ってるけど」
「それはありがとうございます」
ニッコリ微笑んでからリブラに手を伸ばし。
「今回はリブラがエスコートして下さるのかしら?」
イタズラ気味に言ってみます。するとリブラはノリノリで騎士の礼をし。
「はっ。私めで宜しければ、喜んで」
そう言って手を取ってくれました。
「ふふ、格好良いですわよ、わたくしの旦那様」
「旦那様って……私は女ですぅ」
「いえ、旦那様ですわよ」
リブラは再びリブラ伯爵夫人に復帰し、わたくしはそのパートナーとなるのですから。
「でもいいの? 今まで聖女として頑張ってきたのに、その地位を捨ててまで」
「何度も言わせないで下さいまし。わたくしはやはり、聖女という柄ではありませんわ。それに……」
リブラの耳に唇を寄せ。
「わたくし、貴女の伴侶という立ち位置の方が、もっと魅力的なんですもの」
……この上なく顔を赤く染めたリブラと共に、わたくしは大扉の前に立ちました。
いよいよ挙式です。
あと数話あります。




