撲殺魔はやっぱり撲殺魔っ
「あははははは! いきますわよ、天誅!」
ブウン! バガッ!
「げふぅ!」
「うふふ、天罰!」
ブウン! メキャ!
「あははははははは、滅殺、抹殺、撲殺!」
グチャ! グシャ! バシャア!
プシュウウ……ドチャア
「あっはははははは! 見てみなさいな、お二人とも! 噴水ですわ! 潰れた頭からプシュープシューと噴き出して、身体をダラダラと濡らして! まさに血の階段噴水ですわああ!」
「血のカスケード……止めてぇや、リファりん」
「流石にその例えは……うっぷ」
そうですかぁ?
「ああ、そうですわ。もっと沢山の悪人を並べて、一気に頭を粉砕して。血の滝なんて作るのも良いですわね♪」
「うええ……」
「シスター、流石にそれはぶっ飛び過ぎだぜ……」
冗談ですわよ。
わたくし達はベアトリーチェの馬車に揺られ、順調に南下していました。
「速いなあ。熊の助、何か良い事あったんかいな?」
みゅうううん!!
ベアトリーチェ、怒っています。
「まあ、何より」
「く、熊だああ!」
「逃げろ! 死んだ振りは意味無いぞ!」
「背中を見せるな、目を見据えるんだ!」
「死にたくない死にたくないナマンダブナマンダブ」
「ベアトリーチェがズンズン迫ってくれば、大概の奴は逃げるわな」
ファンシーでも熊は熊ですものね。
「なあ、リファりん」
「はい?」
「もしかして、急いでるんとちゃう?」
え、わたくしが?
「別に急いでいるつもりはありませんが……どうしてですの?」
「いやなあ、熊太郎めっちゃ一生懸命やんか」
みゅみゅうううん!!
ベアトリーチェ、更に怒ってますわ。
「それが何か?」
「リファりんと熊之進、リンクしとるやろ?」
みゅみゅみゅうううん!!
ベアトリーチェ、激怒ですわ。
「リンク……しているかもしれませんね」
「やから、何か理由があるん思うてなぁ」
理由…………あ。
「なあ、熊ポッポもそう思うやろ?」
ブチィ
グガアアアアア!!
「な、何や!? 野生の熊に戻ったで!」
怒りが頂点に達し、ファンシー化が解けたのですわ。
グゴアア!
ガギィン!
「た、盾がひしゃげる! 腕がもげる! リファりん、ベアトリーチェ止めてえな!」
あら、ベアトリーチェの本気の一撃を受け止めるだなんて、流石はエリザですわ。
グガガガガ……!
ギリギリメキメキ……
「お、押し切られるって! ホンマに助けてぇな!」
「大丈夫ですわ。ちゃんと生き返らせてあげますから」
「そういう問題ちゃうわああああああ!」
グガアアアアア!!
ベキィ!
「盾が折れたあああ!」
グゴオオオオオオ!
「も、もう言わんて! 謝るさかい、許してえなあ!」
うふふ、もう良いですわね。
「ベアトリーチェ、それくらいで勘弁してあげなさいな」
ポンッ
みゅうううん!
「くはっ」
急に元に戻ったベアトリーチェに振り払われ、エリザはもんどり打って倒れ込みます。
「うふふ、良い子ですわね」
みゅんみゅんみゅうううん!
「エリザー、生きてるかー」
「な、何なん、あの熊は」
「あれは熊じゃねえ、ファンシーベアだ」
「だから何なん、ファンシーベアって!?」
「知らん。ファンシー化現象は世界の七不思議の一つだ」
「ファンシー化現象みたいなんが、まだ六つもあるんかいな!」
『あの熊ちゃんも可愛いわね~』
『パルブンテシア様、あの謎現象は一体?』
『ああ、私の趣味よ』
『……は?』
『やっぱり何でも可愛い方が良いじゃない。だから私の独自基準以上の可愛らしさに達したら、ファンシー化現象が発動するようにしてるの』
『そ、そんな勝手な現象を……』
『あら、私がこの世界の神様なんだから、別にいいじゃない』
『まあ……そうなんでしょうが…………良いとはとても言い切れませんよ、これは……』
『え、何でよ』
『何でもファンシー化してしまう可能性があるのでは?』
『何でもって』
『突然猛獣がファンシー化してしまい、可愛さに釣られて人が近寄ったりしたら……』
『無い無い。私の意思が基準なんだから、猛獣を可愛いだなんて思わないよ』
『……あの熊、立派な猛獣では?』
『大丈夫よ、聖女ちゃんが管理してるんだから』
『……聖女様相手じゃなければ、ファンシー化しないでしょ、あれ……』
「……あぁ、見えてきましたわ」
懐かしい街道、穏やかな海面に反射する街灯、そして遥か彼方に見える聖地サルバドル……。
「そんなに離れていた訳では無いのに、妙に懐かしく感じてしまいますわね……」
「やっぱり旧リフター領は特別なんだな」
そうですわね。毎回忘れてしまうのは不思議なのですが、あの館の中で起きている事はわたくしに必要なのでしょうね。
「そんなん言われたら、ウチも早う帰りとうなってきたわ……」
「大丈夫ですわ、また近いうちにチャンスがありますわよ」
「え、何か方法あるん!?」
「ええ、実は……」
『パルブンテシア様、良かったのですかな?』
『んー、何が?』
『如何に聖女様と言えども、異世界の行き来を認めてしまって』
『ああ、問題無いわ。一応十年に一回の制限付きだし、聖女ちゃん自身の負担も大きい仕様にしておいたから』
『聖女様のデメリット、ですか?』
『ええ。一度使うと三日三晩は発情期に突入しちゃうから』
『…………は?』
『リブラちゃんだけじゃなく、モリーちゃんまで押し倒しちゃうかもね』
『…………モリー様はともかく、リブラ様にはデメリットにはなりませんね。どちらかと言うと、喜んでカモーンなさいますよ』
『何よカモーンって』
何故か使えるようになった異世界転移魔術……デメリットさえ何とかなれば……はあ。




