現実に戻る撲殺魔っ
『あっはっは、今回も堪能させてもらったわ』
ム、ムカつきますわね……!
「殺す! ぶっ殺す!」
「盾の錆にしてやるで!」
アッサリとキレた二人は、パルプンテシア様に飛びかかっていきます。
「お止めなさいな! 敵うはずが」
ズギャン!
「「あぎゃあああああああ!!」」
「……ですから、待てと言いましたのに……」
「う、ううぅ」
「身体が痺れて……」
『うふふふふ、今度は二人同時に堪能させてもらおうかしら』
「「えっ」」
ああ、似たような経過に物凄く心当たりがありますわ……。
『良いではないか、良いではないか』
「いやああああ」
「ああああれえええ」
まだまだ青かったわたくしが、上には上が居ると身を以て学んだのを思い出します。あの時は三日三晩休憩無しで抱き潰されましたが、今回はどうなるのでしょうか……。
『うん、堪能堪能♪』
「「…………」」
一週間。よく耐えたものです。
「ではそろそろ参りましょうか」
「…………立てない」
「…………動けへん」
はあぁあぁあ……。
「……『癒せ』」
パアアア……
「う……く……」
「な、何とか、立って歩くくらいは……」
「なら館から出られますわね……パルプンテシア様、では失礼致します」
『え~、もう言っちゃうのぉ?』
「当たり前ですわっ。これ以上居たら、また何をされるかっ」
『しないよ。もう聖女ちゃんは必要無いから』
はい?
『あっれぇ、気が付いてないのかな?』
「何をですの?」
『髪の毛、見てみなさい』
髪の毛ですか……あ、あら。
「毛先が白くなって……こ、これはつまり」
『贖罪が終わったんだね。おめでとう』
贖罪が終わった……のですか。
『聖女ちゃんの髪の赤は、拭い切れない罪の象徴だったの』
そうだったんですの!?
『それを聖女ちゃんは、永きに渡る善行の積み重ねによって浄化していき、今日完全に成し遂げたのよ』
過去の罪が……ようやく許されたのですね。
「わたくしは赤毛だとばかり思っていましたが……これが罪の証しだったなんて」
『最初に説明したと思うんだけど……まあいいか』
「では、これで主人は」
『ええ。貴女が肩代わりしてた旦那さんの罪も清算されたから、捕らわれていた魂も解放。無事に輪廻の輪に戻っていったわ』
……ようやく……ようやく……。
『もしかしたら、生まれ変わった旦那さんと会う事もあるかもね』
「いえ……もういいですわ。あの人はもう過去です」
『いいの? 恋い焦がれた旦那さんと再会できなくて』
「過去は過去、今は今です。あの人がどこがで生きているのでしたら、それで充分ですわ」
『そっか……まあ、聖女ちゃんがそれでいいって言うなら、私もこれ以上は何も言わないし、何もしないよ』
ええ、それで充分です。
「では今度こそ失礼致します。ここでの記憶が失われる以上、またお伺いすると思いますので、それまでご健勝で」
『あー……一応神様だから、健康的な心配は何も無いんだけどね』
「そうなんですの?」
『そうなんですの』
……自然に笑いが起き、お互いに笑顔になってから。
「では、またいつか」
『うん、待ってるからね』
まるで親友のように抱き締め合い。
『絶対に……また来てね』
「はい、必……ず!」
キュッキュッ
『はあああああああああああん!!』
「あらあら、パルブンテシア様もここが弱点でしたのね」
『せ、聖女ちゃん、許すまじぃぃ!』
「あはははは、ではエリザ、モリー」
呆けていた二人は、わたくしの言葉で我に返り。
「そ、そやな。行こか」
「つーか、二度と御免だよ!」
わたくしの後に続き。
ガチャ ギイイイ……
日の光の元へ、飛び出していったのです……。
「……ふう」
「あ、あれ?」
「ウチら、中で何してたんやった?」
……やはり二人の記憶にも作用するのですね……。
「これで終わりですが……如何でしたか?」
「如何だった聞かれても、なあ……」
「ただ扉開けて、出てきただけやしなあ……」
中で何が起きているのかは分かりませんが、毎回激しく体力を消耗しているのです。これは本当によく分かりません。
「それより、だっる」
「全身筋肉痛やな」
あら、お二人も?
「旧リフター領の先に、湯治場があります。寄っていきますか?」
「行く行く、行っちゃう」
「行くに決まってるさ!」
……はて……お二人の今の台詞を、他のシチュエーションで耳にしたような……?
旧伯爵領を離れ、隣の湯治場へ。何故か疲れ切った身体を癒やしましょう。
「ふはあ、最高やなあ」
「身体の中に浸透するぅ……」
こればかりは、回復魔術でも再現できませんわ。
「……落ち着いたところで……やっぱ腑に落ちんわぁ」
「何がですの?」
「これや」
そうエリザが指し示すのは……アザ?
「ウチの首筋、いっぱいできてんねん」
「それだったら俺にもあるぜ」
言われてみれば確かに。
「それ、実はわたくしにもありますの」
「「あ、本当だ」」
「それも毎回。おまけに回復魔術でも治らないのですわ」
自然に治癒するのを待つしかないのです。
「うーん、謎やなあ」
「これ、下手したらキスマークと間違われるよな」
あ、それ、経験あります。
『は~あ、行っちゃった……』
『パルブンテシア様、そろそろお仕事を再開して頂かないと』
『……分かってるわよ』
『まだ地が出てますよ』
『あー、うん。おっほん……では再開致します。書類をお持ちなさい』
『はい、直ちに』
……また……会う日を楽しみにしてるよ、聖女ちゃん。
ついに現実に戻りました。




