華麗なる撲殺魔っ 五
こうして館に押し寄せてきた民主化連合を、一人残らず撲殺したのですが……。
「お、奥方様! 軍がこちらに向かっているそうです!」
軍が!?
「今更ですわね……」
「畏れながら奥方様、このままでは不味いのでは?」
「不味い? 何がですの?」
「ご主人様だけでは無く、民主化連合の構成員も殺されている現状では、一番位の高い奥方様に全ての責任が及ぶやもしれません」
……それは確かに不味いですわね。
「……わたくしだけでは無く、貴女達にまで罪に問われる可能性もありますわね……」
「そ、そんな!?」
「奥方様にせっかく助けて頂いた命、無駄になってしまうなんて」
「うう、死にたくないい……」
そう……ですわね、でしたら……。
「貴女達、少し手伝ってくれるかしら?」
「はい?」
「な、何をでございますか?」
「旦那様の死体をね、ここまで運んで下さる?」
こうなった以上、わたくしが権力を握るしかありませんわね。
パカラッパカラッ
「伯爵様はご無事か!」
「あ、外にいらっしゃるのは……奥方様です!」
「侍女達も無事なようですが……伯爵様のお姿は……」
「……とにかく行ってみよう」
我が伯爵領の軍がようやく駆け付けました。
「奥方様、遅れて申し訳ありません」
「構いません。もう、全て終わってますので」
「……全て終わっているとは?」
「……旦那様の仇討ちは終わっています」
「伯爵様の……仇討ち? ま、まさか!?」
白い布を掛けられた旦那様の死体を指し示します。
「そ、それは!?」
「……旦那様の……っ……」
少し俯くだけで、後は察して頂ける筈。
「お、遅かったか……! 奥方様、本当に申し訳ありませんでした!」
「ならば我らで、仇討ちを致しましょう!」
「そうだ! 伯爵様の仇、民主化連合の奴らを根絶やしに……」
「仇討ちでしたら……既に終わっています」
「はい?」
「い、今、何と?」
「仇討ちは終わっています、と申し上げました」
「あ、仇討ちが終わっているとは?」
「い、一体誰が?」
ここで手筈通りに、メイドの一人が進み出られます。
「あ、あの、畏れながら申し上げます。奥方様が……仇討ちなさいました」
「は?」
「何を言っている?」
「ですから、奥方様お一人で民主化連合を皆殺しになさいました」
それを聞いた軍の皆様は呆気にとられた表情をし、笑い出そうとして……わたくしが目の前に居る事を思い出した様子で。
「あ、あの、奥方様。今の侍女の言は真でございますか?」
否定されるだろうと考えているのでしょう。少しニヤニヤしながら、わたくしに聞いてきました。
「いえ……その侍女が言っている事に、偽りはありませんわ」
「…………はい?」
「わたくしがハイエルフ秘伝の魔術を行使し……民主化連合の構成員を全員、樹木に変えました」
「……ぅぁ……」
わたくしに付いて来た兵士達は、全員言葉を失った様子です。
「な、何という事だ……」
「人の形をした草木が、こんなに……」
無論、魔術で人を樹木に変える事はできません。回復魔術を応用して筋肉を操作し、立ったままの状態を維持した死体に、これまた魔術で急成長させた草や蔦を這わせ、それらしく仕立てただけです。
「ちゃんと仇討ちは済ませましたわ」
「う、うぇぇぇ……」
「お、恐ろしい……」
「これが……ハイエルフの魔術……」
「旦那様は亡くなられました。そして、残されたのはわたくしだけ。つまり、後継者となり得るのは……」
「……奥方様……だけです」
「では領主代行として命じます。民主化連合の残党狩りを早急に行い、治安の回復を急ぎなさい」
「は、はい! 直ちに!」
それにしても……血の色、匂い……こんなに素敵だったのですね……。
それから一週間、伯爵領内には血の嵐が訪れました。
「ちくしょおお! 何でハイエルフなんかにいいい!」
「仰りたい事はそれだけですの? では、さようなら」
ゴブシュ!
「きゃああああああ!」
残党狩りと言う名の、虐殺の嵐が吹き荒れ続け。
「伯爵夫人、民主化連合の残党と思われる者達が山に」
「でしたら山ごと焼いてしまいなさい」
「は、はい?」
「聞こえませんでしたか? 山ごと焼いてしまいなさい、と言っているのです」
「は、はい! 早急にっ」
緑豊かだった大地は、赤く赤く染まっていきました。
「お許し下さい、伯爵夫人様! 私達はそんなつもりは」
「あらあ、わたくしに逆らったのでしょう? でしたら、立派な反逆者ですわ」
「違います! 本当に私達は」
ドシュ!
「あぐううううう!」
「あらあ、もう何も言えませんか? 潔白を主張したいのでしたら、このくらいは我慢しませんと、説得力に欠けますわよおお?」
グシュ!
「うぐうううう!」
ドス! ブシュウ!
「ううううううううう!」
「あっははは! 意外と頑張りますわね!」
それは、いつものように領民をいたぶっていた時でした。
「うふふ、赤い血でベットリ……良いですわ、良いですわああ」
グシュグシュグシュ!
「か、かはっ」
無実を訴えてきた女性も、いつものように赤く染まっていきます。ああ、綺麗な色……。
「あ、あの、奥方様」
すると、メイドの一人がわたくしの前に進み出て。
「何かしら?」
「あ、あの、奥方様には感謝しています。お陰で私達は生き延びる事ができました」
はい? 今更何を言っているのでしょうか。
「ですが、奥方様……私達、限界です」
ガスン!
がは!




