華麗なる撲殺魔っ 三
今でも夢に見ます。街道まで赤く染まった、血塗られた一夜の事を。
「ふぁ、ふぁい、しょれで?」
「……エリザ、貴女、とおっても丈夫ですのね……」
「伊達に盾役してましぇん」
モリーは何度も召されましたが、エリザは結局一度も昇天なさいませんでした……但しボロボロ、いえボコボコですが。
「シスターこあい……ガクガクブルブルッ」
モリーは……すっかり腰が引けてしまっています。
「し、仕方無いなぁ。リファりん、モリーはウチが慰めてくるわ」
慰める?
「まあいいですわ。よろしくお願いしますね」
「うっしゃ、ほな行こか」
「慰めてもらう必要は……おい、どこ触ってんだよ! おい、こら!?」
二人が戯れる様子を眺めながら、あの日の出来事を思い浮かべていました。
「ぐ、ぐふっ」
「あっはははははは! 今日もわたくしの勝ちですわね、あなた!」
崩れ落ちた旦那様を見下ろしたまま、高らかに響くわたくしの笑い声。
「お、奥様」
「何かしら?」
事が済んだ頃を見計らって、わたくし専属のメイドが震えながら声を掛けてきます。
「あ、あの、また面会の申し込みが……」
「……誰ですの?」
「あ、はい、民主化連合の方々です」
また民主化連合ですの? 要は自分達の上に君臨するわたくしが忌々しいだけのくせに……民主化だなんて仰々しい看板を掲げるなんて。
「……どうせ追い返してもまた来ますものね………分かりました。客間に通しておいて下さる?」
「畏まりました」
このドレスは主人との遊戯専用ですから、血の匂いがプンプンしますもの。あまり会いたくないお客とはいえ、このまま出て行く訳には参りません。
「一度着替えようかしら……相手が相手だし、多少待たせてもいいでしょう」
血塗れのメイスをその場に投げ捨て、自室に戻る事にします。
「あなた……また後から生き返らせて差し上げますわ。うふふふ」
愛してますわ、旦那様。何度でも殺してしまいたくなるくらいに……うふふふふふ。
ガチャ ギィバタン!
「お待ち下さい、お客様!」
「今日こそ、独裁者リフター伯爵に鉄槌を!」
「我等が革命を成就させよ!」
「例え我等が悉く土にまみれようとも、民主化の波を止める事はできない!」
……? 玄関付近が妙に騒がしいですわね。
「お、奥様、お逃げ下さい! 民主化連合が暴徒化して、この屋敷に押し寄せて……!」
「な、何ですって!?」
「居たぞ、捕らえろ!」
「奥様、早く逃げ」
ガッ!
「うぐっ」
そこからあっという間に人の波に囲まれてしまい、何が何だか分からないうちに捕縛されてしまったのです。
「伯爵はどこだ!」
「伯爵を探せ!」
この屋敷に仕えていた侍女達の大半が、同じ場所に集められています。皆が皆、わたくしと同じように服を剥がれ、半裸でうずくまるばかりです。
「どうするんだ、こいつら?」
「さあな……後のお楽しみだ」
下卑た笑いを浮かべる見張りの様子に、侍女達も怯えるばかり。
「た、大変だああ!」
「何だ、どうかしたか?」
「伯爵が、伯爵が死んでるぞおお!」
「な、何だって!?」
「ええ、伯爵様が!?」
「誰が一体……」
「ど、どうして死んでるんだよ!?」
「分からん。だが相当な恨みがあったようで、頭蓋がグチャグチャになるくらい滅多打ちにされていたぞ」
「「「ああ……」」」
メイド達の視線がわたくしに集中します。そうですわ、わたくしが犯人ですわよ!
「どうすんだよ!?」
「確か代表は、伯爵討ち取った奴が一番手柄だって言ってたろ?」
「……だけど、もう殺されてるんじゃ……」
……これは……不味い状況かもしれません。
「奥様、私達はどうなるのでしょうか?」
「このままでは、慰みものにされて……」
「嫌ああ! 私には、まだしなくてはならない事が」
「まだ死にたくないい!」
……確かにこのままでは、わたくし達に先はありません。しかも、手込めにされた上で殺されるという、絶望的な状態……。
「……仕方ありません……貴女達、生き延びる為です。一芝居打ちますわよ」
「「「……え?」」」
「あ、あの!」
まずメイドの一人が声をあげます。
「何だ!」
「あの、伯爵様に手を下されたのは……他ならぬ奥方様です!」
「はあ? 急に何を」
「奥方様や私達は、常日頃から伯爵様に暴力を振るわれてきました。今日は私が手込めにされそうになり、それを見かねた奥方様が鉄槌を下されたのです!」
「嘘つくな! どこに証拠があるってんだよ!」
「証拠でしたら、わたくしの部屋に血塗れのドレスがありますわ」
「ああん?」
「それと、旦那様の死体の近くに、女性でも扱えるくらいのメイスがあった筈です。それが凶器ですわ」
「っ……お、おい、本当か!?」
「は、はいっ。確かに凶器は軽めのメイスでしたが」
「豪奢な女性部屋に、血塗れのドレスもありました」
「お、奥方様は私達を助ける為に、御自ら手を下されたのです!」
「ほ、本当なのか?」
「だが、確かにメイド達には青痣が多かったな」
わたくしが回復魔術を応用して、メイド達の身体にたくさん作っておきました。
「そういやあ、奥方のエルフにも、かなりの傷があったな」
それはそうに決まってます。先程までわたくしと旦那様は、命の駆け引きをしていたのですから。
「……どうするよ……」
「……そうだなあ……」
困惑した男達が相談していると。
「どうしたのですか。伯爵は仕留めたのですか?」
「あ、代表」
「実は……」
壮年の男性が颯爽と現れ、話をまとめ始めます。そうですか、あれが民主化連合の代表ですか……。
「……チャンスですわ」
どうにか投稿。




