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華麗なる撲殺魔っ 一

 胸の谷間(空間魔術)から錆びた鍵を取り出し、同じように錆びた鍵穴に差し込みます。


 ガチャ カチッ

 ギギギィィ


 蝶番も錆びているらしく、開くのにかなりの抵抗を感じましたが、無理矢理押し切ります。


「……いえ、抵抗があるのはわたくしの心なのかもしれませんね……」

「何か言うた、リファりん?」


 いえ、何でもありませんわ。


「……気味悪いくらい、汚れてねえな」


 モリーは足元や壁を念入りに調べています。


「シスター、ここを開いたのは何年振りだ?」


「……三百年は越えてますわね」


「三百年!? 建物自体崩れててもおかしくないのに、埃が全く積もってないってのは、一体どういう事なんだ?」


「……そう言われてみればそやな。昨日まで人が住んでました言うてもおかしゅうないで」


「ああ、それも『現状維持』の魔術が」

「「いや、万能過ぎるって」」


 そうでしょうか?


「エリザ、この魔術が世に普及したら」

「メイドは半分以上が失職するで……」


「あら、半分ですの?」


「食事のお世話も重要な仕事やからな」


 ああ、成る程……まあ、どうでもいいのですが。


「とにかく一晩泊まるくらいでしたら問題無いですから、ここで休みましょう」


「リファりん、現状維持っちゅー無茶苦茶な魔術がかかってるんなら、ベッドも無事とちゃう?」


「……使用人用のベッドは残っていますが……前の日まで使われいた(・・・・・・・・・・)状態で封印しました(・・・・・・・・・)ので」

「そ、それって三百年前の使用人の汗が染み込んだまま!?」

「いくら『現状維持』がかかっていたとしても、完全ではありませんので……」

「……ここで寝泊まりしよか」


 そうして下さい。その部屋からは何やら生物の波動を感じていますので、茸が群生していると思われます。


「リファりん、このホール内だけでええから、浄化しといてもらえへん?」


 ……そうですわね。未知の病が発生しても嫌ですし。



 一時間程かけて清掃し、一応テントも張りました。


「んじゃ、シスター。詳しく説明してくれねえか?」


 はい?


「明日から何をするつもりなのか、ちゃんと話してくれ」

「そやな。リファりんがここまで足を向けとうなかったっちゅー理由、聞かせてもらうで」


「……ここまで連れて来ておいて言うのもアレですが、これはわたくしだけでは無く、大司教猊下や枢機卿猊下にも纏わる話になります。つまり、聞いたら最後、一生口にできない秘密を抱える事になります。そのお覚悟は……ありますの?」


「今更やな」

「それくらい覚悟してなきゃ、今回は付いて来てねえよ」


 ……分かりました。


「全てをお話しします」



 それは千年を超える、長い長い年月を遡って「ちょい待ち!」


「……何ですか、いきなり」

「いや、今やけど、千年を超える言うてなかったか?」

「言いましたが、それが何か?」

「え、えええ? リファりんって何歳なんや?」

「…………それ、今回知らなくてはならない事ですの?」

「いや、別に知らんでもええけど」

「でしたら黙って聞いていて下さい」

「あ、はい」


 自分でも自覚できるくらいに苛立っています。無限に等しい寿命を持つハイエルフだって、年齢の事は話題にされたくありませんっ。



 とにかく千年以上前の事です。当時は今ほど聖心教が信仰されておらず、神々に祈りを捧げない方々が大半を占めていた時代でした。

 南大陸はリズワーン帝国という巨大な国の支配下にあり、リフター伯爵領もその一部でした。


「リズワーン帝国って、神話に出てくるようなヤツだよな」

「あら、ご存知でしたの?」

「墓荒らしみたいな真似もしてたからな。そういう情報は自然と備わったさ…………って、シスター、もうやらねえからな!」


 墓荒らしまでなさってたのですか……次回の修行で贖罪の場を設けましょう。


「南大陸全体がリズワーン帝国の支配地やったんか?」

「例外はありますが、ほぼそうでしたわね」

「例外?」

「自治領とか」

「ああ、成る程」


 少し話が逸れましたわね。とにかくリズワーン帝国が支配していた地域の一部に、このリフター伯爵領があったのです。


「え、リフター伯爵領ってそんなに古いのか?」

「一応古参の伯爵家でしたから、屈指の名門でしたわよ」

「へえ~……」


 そのリフター伯爵領は主に人間が支配する地域でしたが、端に小さな森がありました。そこが例外的に違う種族が支配していたのです。


「森言うくらいやから……エルフか?」

「そうです。その中でもエルフの支配階級に当たるハイエルフの本拠地だったのです」

「……ここにハイエルフの森があったのか……」


「……なあ、モリりん。ハイエルフの森が、そんな珍しいんか?」

「は? 珍しいに決まってるだろが」

「何でや?」

「何でって、エルフ自体が珍しい種族だろ? その中でも更に珍しいのがハイエルフだぞ? 珍しいに決まってるだろが」

「へえ~……ウチらの仲間にハイエルフ居ったせいか、そこまで珍しく感じんわ」


 はい?


「エリザの仲間って……違う世界にですの?」


「ん? ああ、そやで。何とハイエルフの女王や」


 女王ですって!?


「な、名前は何と仰いますの?」

「何って……サーシャ・マーシャやけど」


 ……………………はい?


「も、もう一度お願いします」


「やから、サーシャ・マーシャやて」


 な、な、何ですってえええ!?

遅くなってすいません。

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