体力不足な元獣王っ
みゅんみゅんみゅんみゅん♪
デンデンデンデン
「うおっ!? く、熊!?」
「熊が引く馬車なんて、初めて見たぜ」
「つーか、ありゃファンシーベアか?」
「ああ、聖女様か」
「……有名なんやな、ベアトリん」
みゅんみゅんみゅーん!
「ん、何や?」
ああ、これは……。
「エリザ、その呼び方は嫌みたいですわよ」
「あ、そうなん……って、リファりん熊と会話できるん!?」
「はい、飼い主ですから」
「そー言う問題なん!? ちゅーか、それって『自称飼い犬の言葉分かる飼い主』レベルやないの!?」
失礼ですわねっ。
「それよりシスター、やっぱ馬車だけあって、熊だとスピードに欠けるぜ」
馬車を熊が引いている事は関係ありませんが、スピードに欠けるのは間違いではありませんね。
「ベアトリーチェ、加速お願いします」
みゅん?
あら、加速が分かりませんでしたか?
「一生懸命走って下さい」
みゅん!?
これ以上!? と言ってますわね。ベアトリーチェなりに速く進んでいたつもりなのでしょう。
「はい。色々ありまして、盛大に予定が遅れておりまして」
大半はリブラが原因です。
みゅみゅ…………みゅみゅーん!!
デンデンデンデンデデデデデデデン!
「うおっ!?」
うん、分かった……と言って全速力で走り出しました。
みゅみゅみゅみゅみゅみゅーん!!
デデデデデデデンデンデンデン……デンデン……デン
みゅ、みゅ、みゅーん……
もう息切れしてますの!?
「シスター、最初の頃よりスピード落ちてんぞ」
ベアトリーチェ、体力無さすぎますわよ!
「仕方ありませんわね……『癒せ』」
パアアア……
みゅ……みゅん……みゅんみゅんみゅんみゅんみゅーーん!
デン……デンデン……デンデンデデデデデデデデン!!
「お、お、おおお!?」
モリーが驚くくらいのスピードアップです。
「これで大丈夫ですわ。ベアトリーチェがへばってきたら、また回復すればいいですから」
「「…………」」
「……何ですか?」
「リファりん……鬼やなあ」
「シスター……そりゃ熊が可哀想だぜ」
何故ですの?
「わたくし、ちゃんとベアトリーチェが辛くないように配慮してますのよ?」
「それは配慮じゃないで」
「鞭打つ行為だぜ?」
何ですって?
「消耗した体力を回復させてあげる事が、鞭打つ行為だと仰るんですの?」
「体力的には回復してもやな」
「精神的にはゴリゴリと削られるわな」
そ、そんな事はありませんわよね、ベアトリーチェ?
……みゅーん……
辛いの、ですって!?
「虐待ではありませんわ、虐待ではありませんわ、虐待ではありませんわ……」
「リファりん、お祈り中に悪いんやが……」
「虐待ではありませんわ……はい、何でしょう?」
「五月蝿いで」
っ!?
「エリザ、ストレート過ぎだぜ」
「そうなん? やけどブツブツブツブツ隣で何か呟かれてたら、正直気味悪いで」
っ!!!?
「だから……あーあ、知らねーぞ」
「何がやねん」
「後ろ向いてみな」
「だから、何がやね……ひっ!?」
五月蝿い……気味悪い……五月蝿い……気味悪い?
「あ、あれえ? リファりんの周りだけ、空気がぼやけて見えるんは、気のせいやろか?」
「気のせいな訳無いだろ。怒りのオーラなのか、魔力の高まりなのかは分かんねえが」
ゴゴゴゴゴゴ……
「あ、あかんわ、完全に目が据わっとる」
「どうどうー!」
みゅん?
キキキーッ
「ベアトリーチェ、一旦離れようか」
みゅーん?
「あ、あ、あかんわ、盾三枚居るやん」
ガチャガチャッ
「五月蝿くも、気持ち悪くもありませんわ!」
「あ、あー、そやな。気味悪ぅない気味悪ぅない」
「さっき言っていたのと正反対ではありませんか。どっちなんですの!?」
「だから……ああもう、面倒くさいなぁ」
「今度は面倒くさい!?」
「ああしもた! つい本音が」
「本音なんですの!?」
「ああああもうあかんんん」
「いくら仲間であったとしても……」
「シスター、もう声かけても無駄だな。もう少し下がろう」
みゅみゅーん
バリ……バリバリ……
「リファりん、魔力込めすぎやで」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!
「あかん、もう腹括ろ。三盾流、防御の舞」
「……天誅天罰覿面」
ブゥン ガガァン!
「んぐう!? きょ、強烈やなぁ」
「滅殺抹殺必殺覿面」
ブゥン ミシメキィ!
「んぎゃは! か、身体に響くううっ」
「……撲殺覿面。はああああああ!」
「あ、あかん! 三盾流絶対防御の舞!」
ブゥゥン!
グワギィィィィン!
「くあああああっ!」
「はああああああ!」
ギャリリリリリリリリリ!
「くあああああっ!」
「はああああああっ……も、もう保たへん……絶対防御の舞・極み!」
ズギャアアアアアアアアン!
「な、何だ。馬車が爆発した?」
「ああ、聖女様の馬車だろ。熊が引いてるくらいの変わり種だからな、爆発くらいするだろ」
「そ、そうか……?」
みゅんみゅんみゅんみゅん♪
デンデンデンデンデンデンデンデン
「エリザ……空が青いですわ……」
「永遠に広がってるんやろな、空は……」
「やっかましい! だから馬車の中で戦うなって言ったんだ!」
攻撃の衝撃波によって、幌が跡形も無く吹き飛んでしまい……。
「雨降ってきても知らねえからな!」
お怒りのモリーが仰る通り、一時間もしないうちに雨が降り出してしまい……。
ザアアアア……
「……リファりん、白なんやな……」
「そう言うエリザは、明るい色が好みなのですね……」
「やっかましいわ!」
全員ずぶ濡れになるのは、あっという間でした。
白っぽい服でしたから、全員。




