感傷的な撲殺魔っ、気が利く盾メイドっ
「…………」
明日が旅立ちですが、なかなか寝付けません。やはりわたくし、感傷的になってしまっているようです。
「リファリス?」
あら、リブラ?
「どうしたの、そんなとこで」
「あ、はい……少し夜風に吹かれたくて」
「夜風に……ねえ」
わたくしの部屋の上は、教会の鐘へと登る階段の入口です。そこにはやや小さい作業路があり、外へと出る事ができるのです。
「うっわ、高……落ちたら一溜まりも無いじゃない」
「すぐに回復できますわ」
「いや、即死だって」
「でしたら復活するだけですわ」
「ちょ、自分が死んでも自分を生き返らせれるっての!?」
「……多分」
「多分って……確定じゃないのに危ない事しないでよ!」
「冗談ですわ。落ちる前に魔術で着地するだけです」
「じょ、冗談でも質が悪すぎるわよ!」
うふふ、申し訳ありません。ちょっとからかってみたかっただけです。
「こちらに来ますか、リブラ?」
「え、あ、うん」
ツトトトッ
バランスを保ったまま、危なげ無くわたくしの隣に座ります。流石は武芸全般が得意なだけはありますね。
「…………」
「…………」
ヒュウウ…………サアアァァ…………
並んで座ったまま……夜風がわたくし達を包み込みます。
「……リファリスさあ」
「はい?」
「やっぱり……リフター伯爵領の事、いまだに引き摺ってるの?」
……っ……。
「……ストレートですわね……」
「そりゃ知りたいわよ。リファリスにとって重要な事件なんだから、私にとっても大切な事よ」
重要な、ですか……確かに重要ですわね。
「あの事件を解決したのはリファリスで、それが切っ掛けで聖女と呼ばれるようになったんでしょ?」
「……そこまで知ってるんですのね」
「そりゃあ、ね。私の本領、リフター伯爵領の隣だし」
ああ、そう言えばリブラ侯爵領は隣でしたわね……山脈を隔ててですが。
「交流なんて皆無でしたでしょう?」
「猟師だけが知ってる山道ってのがあるのよ。それで細々とだけど交易があったみたい」
それは……わたくしも知りませんでした。
「ですが、そんな細々とした交流から、あの事件が伝わりましたの?」
「山脈を越えた先、リフター伯爵の秘書官の実家近くだったのよ」
秘書官……事件の中心人物の一人です。
「まさか、そのような経緯で、リブラの耳に入っていたとは」
「事件自体は有名だけど、内情はあまり伝わってないでしょ。それってつまり」
「はい。わたくしから大司教猊下に、事件を解決した褒美としまして、真相を秘密にして頂けるようお願い致しました」
「……それで私が聞いてた事実と違ってたんだ……」
「リブラは他の方には?」
「言ってないわ。多分何かしらの事情があるんだろうと思って」
流石は名門貴族の元当主ですわね。気配りがちゃんとできています。
「……その気配りが、何故に夜になると抜け落ちてしまうのでしょうか……」
「え、何か言った?」
「何でもありませんわ」
「……? まあ、何でもないのならいいんだけど……」
ガチャ ギィィ
「誰や思うたら、お二人さんかいな」
わたくしの部屋の窓が開き、エリザが顔を出します。
「何しとるん、そんな場所で」
「少し話していただけ」
「で・え・と♪」
「リブラ!?」
「何や、こんな夜中にかいな。仲ええこっちゃなあ」
思いっ切り誤解されてますわよ!?
「そりゃそうよ、私とリファリスは相思相愛ですもの」
「めっちゃ一方通行そうやけどな」
その通りですわ。
「それよりエリザ、何か御用ですの?」
「明日の準備ができたさかい、確認してもらおう思うたんやけど……邪魔やったなあ」
そんな事ありませんわ。
「分かりました。確認致しますわ」
「別にええで、急ぐ訳やないし」
「いえ、それの方が重要ですわ」
そう言って部屋へ戻る為に立ち上がったのですが。
「リファリス」
「はい?」
リブラが呼び止め、わたくしに顔を近付け。
「……リファリスは何も悪くない。私だけはちゃんと分かってるから、その事をちゃんと覚えておいて」
そう言って軽く唇を頬に当ててきました。
「……ありがとうございます、リブラ。その言葉だけで、わたくしは強く居られますわ」
「うん。じゃあね」
「はい。また明日」
キィ パタン
「ふー、暑い暑い」
「……何が仰りたいんですの?」
「何でもあらへんよ」
……まあ、話題にされても困りますし。
「で、確認してほしいものとは?」
「これが一覧や」
それから三十分程、旅に持って行くものの確認を行いました。
「……はい、何の問題もありませんわ。流石はエリザですね」
「当たり前や。このくらい朝飯前やで……あ、それと」
「まだ何か?」
「今日のベッドメイキングは、どっちの部屋でええんや?」
但し、少し気の回しすぎは否めません。
「必要ありませんわ。明日は早いんですのよ」
「え、リブラんはヤル気満々やったやん」
何をする気ですの!?
「だって、後ろに」
え、後ろ?
「はろはろー」
キュッキュッ
「はああああああああああん!」
ま、窓の外から!?
「やっぱリファりんの部屋やったんやな……ちゃんと準備できてるさかい、ごゆっくりなぁ」
「ま、待って下さい!」
「あー、湯浴みの準備もしとくわ」
ですから、気の回しすぎですわ!




