留守番を言い渡す撲殺魔っ
「実は今回、一人残ってもらいたいのです」
「「……え?」」
わたくしの一言に、夕ご飯を食べていたリブラとモリーの手が止まります。
「ええで、ウチが残るわ」
「「……ほっ」」
エリザがアッサリと引き受けてくれたので、二人とも胸を撫で下ろします。
が。
「いえ、今回はエリザに付いてきてもらいます」
「「ええ!?」」
……何故二人が反応するのですか?
「何でウチやねん。メイドは主人の家を守るんが仕事やで?」
「今回はメイドとしてではなく、エリザベス・リフターとして来てほしいんですの」
「エリザベス・リフターとしてって……もしかしてウチを利用するつもりなん?」
「利用させて頂きますわ……無論、それなりの対価は用意します」
「対価……ねえ。どんなんやん?」
間違い無く、貴女が喜ぶものです。
「ズバリ、聖クリニクスのデッキブラシ」
「要らんわ」
「え、そうですか?」
「大体何なん、その聖クリニクスって」
無論。
「聖人です」
「それは分かるがな。何で聖人のデッキブラシが出てくるねん」
それは勿論。
「聖クリニクスは掃除の達人として」
「それで聖人認定されるん!?」
「はい。長年に渡り聖地サルバドルで清掃活動を行い」
「努力の賜物なんやなあ……って、ちゃうちゃう。そんなんどうでもええねん」
はい?
「要は、何で聖人のデッキブラシでウチが喜ぶと思ったか、いう事や」
ああ、それは勿論。
「エリザがメイドだから」
「メイドだからデッキブラシで喜ぶ思わんといて」
…………ああ。
「モップですか?」
「ちゃう」
でしたら……。
「ハタキですの?」
「ちゃうねん」
違いますか。でしたら……。
「聖クリニクスの聖骸布……」
「それそれ、そういうのや!」
「……で作った雑巾ですか?」
「ちゃうわ! 聖骸布雑巾にすんなや!」
「耐久性抜群で使い易いですわよ?」
「もう雑巾にしてるんかいな!」
「あのー、それより」
「一人残す理由を教えて」
ああ、そうでしたわ。
「何故話が逸れてしまったのでしょうか」
「それより聖骸布の雑巾が気になんねん!」
「「雑巾はいいから!」」
はいはい、そうでしたわね。
「理由は二つ。今回は〝誇り高き貴婦人〟にお願いできないのです」
「え、何で?」
「魔王様と喧嘩して、実家に帰られたそうで」
「待ちいや! 魔王は居るんか?」
「はい、居ますわよ」
「魔王居てモンスター居ないってどういう事やねん!」
それ、わたくしに言われましても……。
「あのー……」
「また逸れたぜ」
逸れる原因は、毎回エリザです。
報酬は聖骸布の雑巾で決まりました。
「うーっ! うーっ!」
話がスムーズに決まって良かったです。
「むぐぅぅぅ! うーっ!」
後は二人のうち、どちらかに決めてしまえば……。
「むぐぅぅ! ふぐぅぅ!」
ドッタンバッタン!
「五月蝿いですわ」
キュッキュッ
「ふぐぅぅぅぅぅぅぅぅん!?」
よし、これで静かになったでしょう。
「では二人のうち、どちらかに残って頂きますので」
「待って、リファリス。残ってもらいたいもう一つの理由は何なの?」
それは勿論。
「わたくしが留守の間の教会の維持運営をお願いしたいからですわ」
「教会の維持と……」
「運営っすか……」
……不満げですわね。
「モリー、貴女が残って」
「はあ? 何で俺なんだよ。つーか、何で命令口調なんだよ」
「だって私は姉弟子だし」
「それは……あまり関係無くねえか?」
「それに私、貴族だし」
「『主の前では、人に上下は無い』んじゃなかったか?」
「むっ」
福音書第二十章七部ですわね。
「だ、だけど、あんた私を『姉御』呼ばわりしてるじゃない」
「うっ」
確かに、あれはモリーが自発的に言ってますわね。
「つまり、あんたは私を上だと認めてるのよ」
「ううっ」
「だからモリー、姉弟子で貴族で姉御である私の言う事を聞いて」
「今回はモリーに同行して頂きます」
「ちゃんとリファリスのお供しなさい…………え?」
「これで決まりですわ。今回はリブラが居残りと言う事で」
「ええええええ!?」
「いよっしゃあ! 流石はリブラの姉御、懐が深いな!」
「いやいやいやいや、待って待って! リファリスに誘導された気がしたんだけど!」
「気がしたのではなく、誘導したのです」
「何で!?」
「何でって、わたくしがリブラに残ってほしいからですわ」
「だから、何でえええ!?」
「リブラしか居ませんもの。わたくしが留守の間、教会を任せられるのは」
「……え?」
目にありありと戸惑いが表れています。
「わたくしの一番弟子であり、聖騎士であり、親友である貴女しか、教会を任せられる人は居ませんわ」
「リ、リファリス……」
「エリザでも守る事はできますが、聖心教徒ではありませんから、教会の運営は任せられません。モリーは単純に、まだ弟子になって日が浅いですから」
「つ、つまり、私しか居ない?」
「リジーが居たとしても、同じ選択肢でしたわね」
「リジーが居たとしても……か。分かったわ、リファリス。私が留守を預かるわ」
……ホッ。もっとゴネると思ってましたが。
「その代わり、しばらく離れるんだから、リファリス成分をたっぶりと補充させてね?」
え?
「じゃあ、今から一回目のリファリス成分摂取を」
ズルズルズルズル
「ちょ、ちょっと待って下さいな! まだ準備がっ」
「俺がやっとくから、ごゆっくり~」
そ、そんな無体なああ!?
結局腰痛が原因で、出発が遅れる事になります。




