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元気づける盾メイドっ

「これ頂けます?」

「毎度あり」


 街で必要なものを買い集めながらも、頭の中では昔のリフター伯爵領が浮かんできてしまいます。


「はあ……もう忘れた筈でしたのに……」


 未練……なのでしょうか。


「シスター? 持っていかないのかい?」


 あ。


「申し訳ありません。つい考え事をしていましたわ」


 お店のご主人から包みを頂き、軽く会釈します。


「何か悩み事かい? シスターに言うのもアレだけど、あんまり思い詰めなさんな」

「ありがとうございます。大した事ではありませんから」

「そうかい、ならいいが」


 すると隣のお店の方が。


「シスター、そいつ撲殺すればスッキリするかもよ?」

「おい!?」

「あら、宜しいんですの?」


 胸の谷間(空間魔術)から杖を取り出してみせます。


「さ、流石に撲殺は勘弁してくれよ!?」

「あら、シスターに撲殺されるんなら本望でしょうに」

「いくら相手がシスターだからって、死んだら終わりじゃねえかよ!」

「あら、すぐに生き返らせて差し上げますわ」

「そしたらまた撲殺できるねえ」

「止めてくれぇ!」


 わたくし達のやり取りを見て、通りがかる方々が笑顔になります。


「……やっぱりセントリファリスは良い街ですわ……」


 リフター伯爵領を思い出さない為に、わたくしはこの身をセントリファリスの発展に捧げてきました。


「つまりわたくしは逃げていたのですね……」


 セントリファリスに集まる方々の為に腐心し続ける事で、償っていたつもりだったのでしょうか、わたくしは……。


「リーファりん」

「はい!? エ、エリザ?」


 再び思案していたわたくしを呼んだのは、メイド姿がすっかり板に付いたエリザでした。


「何してん? 店のおっちゃん、困ってんで」

「え……あ、た、大変失礼致しました!」

「……本当に何を悩んでんだ?」

「悩み……ああ、そういう事かいな」


 エリザは苦笑いしてから、わたくしの手を掴み。


「えっ」

「おっちゃん、また来るわ!」

「え、あ、毎度っ」


 突然走り出しました……い、一体何なんですの?



「はあ、はあ、ど、どこまで行くんですの?」

「まだ先や。しっかり付いてきいや」


 付いて来いって、貴女が手を引いてますから嫌でも付いて行きますわよ!


「はあ、はあ、ちょ、ちょっと待って下さいまし」

「待てへんで。もうちょいやから気張りや」


 気張り?


「よっしゃ、見えてきたでぇ。あの坂を登れば」


 ……海、ですわね。


「海や、海! 悩んだ時は海を見るんが一番や!」


 海を……ですか。


「大変申し訳ありませんが、毎日見ていますので、特別感じ入るものはありませんわ」

「えええ!? 海やで、海! 海よ、ウチの海よ、やで!」


 ……何故にエリザの海なんですの?


「先程も言いましたが、海沿いの町ですから、もう見慣れていますわよ」

「そんなもんなん!? そんな程度なん!? 海は無限の可能性を秘めてるんちゃう!?」


 無限の可能性はあると思いますが、今は何の関係もありませんわ。


「何でやねん! 海のアホオオオオぶげぼぅ!?」

『誰がアホですか!?』

「ポセイドス様、失礼致しました」

『あら、聖女じゃないの。この無礼者は貴女の?』

「はい、わたくしのところで働いてもらっています」

『そう……なら聖女に免じて許してあげるけど、また(わたし)に向かって阿呆だなんて言ったら……』

「よく言っておきますわ」

『お願い……じゃあね』


 そう仰ってから、海の女神様は波と共に去って行かれました。


「な、何々やねん、ホンマに」

「あれは海の女神様で、ポセイドス様と仰られます」

「女神様がそんな気軽に出てくるん!?」

「海に阿呆だなんて言えば、そうなるに決まってます」


 当たり前の事ですわ。


「そ、そやな。違う世界なんやから、そういう事もあるんやな」


「逆に、こちらの世界には無くて、そちらの世界にあるものもありますでしょう?」


「そやな。この世界にはモンスターがあまり居らへんのやろ?」

「魔物と呼ばれる、魔力の影響で巨大化・狂暴化した動物は居たりしますが」

「あー、自然の魔力溜まりがあるんやな……やったらドラゴンとかも居らへんの?」

「ドラゴンですか? 普通に居ますよ」

「そうやな、やっぱ居らへん……はい?」

「ですから、普通に居ますわよ。ほら、あの山」


 内陸部の大きな山を指差します。


「あの山には無数のドラゴンが住み着いてますわ」

「無数に居るん!?」

「たまに町に買い物に来る程度に」

「ドラゴンが買い物に来るん!?」

「普通ですわよ」


 若いドラゴンさんが牛を一頭買いしてかれます。


「……ドラゴンってモンスターやった気が……」

「ドラゴンは世界の守護者と讃えられる種族です。魔物と同じにしては失礼ですわよ…………あ、噂をすれば」


 バッサバッサ

『聖女殿、久し振りであるな』

「お久し振りです。皆様お変わり無く?」

『皆壮健であるぞ……それより、そちらのメイドよ』

「は、はい!?」

『我等を魔物と同列に並べるような発言、今度聞いたら許さぬからな』

「は、はい! 申し訳ありません!」

『分かれば良い……ではな聖女殿、また機会があれば』

「はい、お元気で」


「な、何にも言えない……こあい」

「別に、普通ですわよ」

「普通じゃないで! どんだけ耳がええんや!」


 苦し紛れに地団駄を踏まれます……あ、そこは。


『痛いわね!』

「ぼぎゃぶるぅ!?」

「地の女神様がいらっしゃいます……って、遅かったですわね」



 お陰で悩みはアッサリと吹っ飛びました。エリザに感謝です。

エリザの受難。

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