司書と撲殺魔っ
ドキドキ、ドキドキ。
「おねーさん」
ドキドキ、ドキドキ。
「おねーさん?」
ドキドキ、ドキドキ。
「おねーさんん? おねーさあんんっ」
あ、あと二人、ドキドキ。
「おねーさああんん!!」
ひゃう!?
「ははははいっ。何事でいらっしゃいますかっ」
拙者を呼んだ若者は、大きな大きなため息を吐かれたでござる。
「何事でいらっしゃいますかっ、じゃないよ。もう何人並んでると思ってんのさっ」
え、え。
う、うわああああ! ズラーッと並んでるでござる。
「し、失礼つかまったああっ! ささっ、ご用件を窺おうっ」
「ご用件って……この本を返却したいだけなんだけど」
「あ、はい、書物の返却でござるな。う、うむ、確かに仰せつかった通り、三日前に貸し出された物に相違無い」
「そりゃそうだ、図書館だからね」
「そ、その通りでござるな……ご利用忝いでござる。また来られよ」
「あ、ああ」
頭を下げる拙者を見て、何故かスキップ気味に離れていく若者。余程待たせてしまったのでござるが、いやはや心の広い好青年でござるな。
「次の御仁、如何なされた?」
「ご、ごじん? いかがなされた?」
あ、慌ててしまって、つい地が。
「コホン、失礼つかまつった? ご用件は?」
「と、図書館ですから、本を借りるか返すかのどちらかじゃないの?」
「そ、その通りでござるな。で、どちらでござるか?」
「あ、私は借りる方」
「うむ、では拝見致す……ほうほう、確かに拙者が勤める図書館の蔵書に間違い無いでござるな」
「当たり前じゃん……」
「では貸し出し期間は一週間でござるな。返却期日をご確認の上、無理の無い返却をお願い致す」
「……お金借りたんじゃないんだけど……まあいいか」
そして、そして、ついに。
「こんにちは。また借りに来たよ」
きたああああああああっ!!
「は、はい、いつもお務めご苦労様ですっ」
「ありがとう。今日は返却と貸し出しをお願いしたいのだが」
「は、はい、喜んで」
ふああ、眩しくて直視できませぇぇん。
「はい、返却を確認致しますた。そ、それと、今回の貸し出しは、この書物でござりまするねぇぇぇ」
「あはは、いつもながら面白い人だ」
はうう、ズキュンですぅぅ。
「は、はい、返却期日をご確認の上、無理の無いご返却うぉを」
「あはははは、本当に面白い人だ。では、また来ますよ」
「は、はい、お待ち致しておりまするぅ」
はあ~、はあはあ。き、緊張したあ……。
「次は私だけど、大丈夫?」
はあ、はあ……平常心、平常心。
「お待たせしました。次の方どうぞ」
「私も返却と貸し出しを」
「承りました。返却は……問題ありませんね。貸し出しは……あ、この本は入荷して間も無い人気作ですので、返却期日が三日と短くなっておりますが」
「構わないわ。私もずっと待ってた新作だから、読んだらすぐ返す。まだまだ読みだい人はたくさん居るだろうから」
「はい、ご利用ありがとうございます」
さあ、お仕事、お仕事。
「ふふ……くくく、ぶふふ……」
夕飯までの少しだけの休憩時間、リブラが見慣れない本を片手に笑っています。
「どうしたんですの、リブラ。何をそんなに笑ってるんですの?」
涙を流しながら笑うリブラに、洗ったばかりのハンカチを手渡します。
「ありがとう……いやさ、この本、マジで面白いんだって」
わたくしに見せてきた表紙には「パロディ・偉人痛快伝」と書かれていました。確かに興味惹かれる題名ですわね。
「先月入荷したんだけどさ、人気ありすぎてなかなか借りられなかったんだ」
わたくしもネタ元である「偉人痛快伝」は何冊か所有していますが、パロディと付いた物があるのは初めて知りました。
「内容は……やはりパロディですのね?」
「そ。それも原作に上手く笑いどころを組み込んであってさ」
そうなんですの? 原作はあのままでも充分に面白いのですが。
「例えばさ、ほら、ここのこれ」
はい……あら、そこは。
「古代魔術の祖・ジャギールが、最強魔術の片鱗を見出したきっかけですわね」
「本来ならお風呂で石鹸を踏んでさ、滑って転ぶじゃない」
そうですわね。その時に頭を打って、しばらく気絶なさるんですわ。
「それがきっかけで最強魔術が生まれるんですわね」
「そうでしょ。だけどパロディ版だと、ほら」
え、えっと……転ぶ時に、たまたま置いてあった壺に………………ぶふっ!
「く……くすくす……」
「ね、ね、面白いでしょ?」
くく……うぅ……が、我慢、できな……ぶふぅ!
「あはははははははははははははは、な、何故壺が、あははははははははははは!」
「あは、リファリスの笑いのツボに入ったねえ」
「あははははははははははは! お、お腹が痛……あはははははははは! い、息ができな……あはははははははは!」
「ちょっと、大丈夫?」
「大丈夫じゃな……あはははははは!」
コンコンッ
「あ、リファリス、お客さんみたいよ」
「こんな時間に来られるという事は……おそらくあの御方ですわね」
「切り替え早いね。さっきまでの大爆笑が嘘みたい」
あのような痴態、見せる訳には参りませんわ。
「はいはい、少々お待ち下さいな」
この時間にいらっしゃるという事は、多分あの方ですわね。
コンコンコンッ
「はーい」
ガチャ ギィィ
「お待たせしました。あら、やはり司書さんでしたのね」
「こ、こんばんは。夜分遅くにすいません」
わたくしの背後からヒョコっとリブラが顔を出し。
「あ、さっきはどうも」
「あら、貴女は『パロディ・偉人痛快伝』を借りられた」
あら、顔見知りでしたの。
口調が変な司書さん可愛い、と思われる方は、高評価・ブクマを頂ければ、登場回数増えます。




