表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/428

天罰と撲殺魔っ

 この男、最初は金に釣られて店主の悪行を手伝っていたようじゃが、罪の意識に苛まれて耐えられなくなったようじゃ。

 さて、シスターはどのようにこの男に対するのじゃろうな。



「……分かりました。貴方は主に許される事をお望みですか?」


 そうわたくしに問われた男性は、小さく首を横に振りました。


「いえ、俺のような人間が許されて良いはずがありません」


「……つまり?」


「……罪を償いたいのです。だけど、どうすればいいか分からないのです」


 罪を償いたい。しかし、どうすればいいか分からない。


「つまり、それをわたくしに望みたいんですの?」


「はい。現世で一番神に近い御方と言えば、やはり聖女様ではないかと思って」


「……何度も言いますが、わたくしは聖女などではありません」


 そう言ったものの、男性は引き下がるつもりは無いようで。


「しかし! 俺より! 俺よりは! 神に! 神に近いはず!」


 主に近いなどと、何と恐れ多い事を……!


「わたくしは、そのような立派な存在では」

「いえ、聖女様しか俺を救える人は居ません!」

「だから、わたくしは聖女では」

「いえ、聖女様です! 俺にとっては貴女様が聖女なんです!」


 だから……。


「聖女様!」


 だ・か・ら……。


「聖女様ああ!」


 だからああああああああああ!


「聖女様! 聖女様!」



「わたくしは聖女様ではあり得ません!」



 ゴスッ!

「ぶべっ!」


 ……あーあ……昼間っからやってしまいましたわ……。


「何度も言ったではありませんか。わたくしは聖女などでは無いと」


 手にした杖で男性を殴り飛ばしたわたくしは、太陽光を遮る場所に移動します。


「あ、あんたは……」


 太陽の光を背後に受け、黒く染まったわたくしの顔には……。


「あ、あんた……まさか……」


 三つの、紅い月が浮かんでいました。


「うふふ……もう分かりましたわよね。わたくしが誰なのか」


「そ、そんな、あ、あんたが……」


 目が笑い、口も笑う。だけどその色は深紅。


「うふふふふ、貴方が悪いんですのよ。わたくしを聖女と呼ぶから」


 美しい笑い声をあげながら、ひたすら鈍器を振るう殺人鬼。


「わたくしは聖女ではなく……〝紅月〟ですのよ」


 聖地サルバドルのお膝元を汚す殺人鬼・紅月とは。


「うふふ、うふふふふ、あはははははははっ!」



 わたくしの事でしてよ。



「天罰」

 ゴスッ!

「ぐぁ!」

「天誅」

 グチャ!

「あがっ!」

「滅殺・抹殺・撲殺」

 グチャ! ゴチャ! バチャア!

 ……ゴトンッ


「あは、あははは、あははははははは! 罪人さぁん。勿論、貴方だけを逝かせたりしませんよぉ…………あはははははははははははははは!」



 この笑い声が響いてくると、懺悔の奉仕を求めてやってきた信者達は一斉に回れ右するそうな。

 そして、全員呟くのじゃ。

 ……またか、と。



 ズル……ズル……


「今晩はぁ♪」


「はい、いらっしゃ…………こ、これはこれは聖女様、こんな時間に何用で?」


「貴方がぁ、お肉屋さんの大将さんですねぇ?」


「は、はい。そうですが?」


「このお肉ぅ、捌いて下さらなぁい?」


 ゴトッ ベチャア


「え…………ひ、ひ、ひいいいいいいいいい!」


「そんなに叫んでしまってはぁ、ご近所迷惑ですよぉ?」


「な、な、何だ、何なんだ、何なんだよ一体!?」


「何なんだ、と言われましても、貴方の部下ではありませんかぁ?」


「ぶ、部下って……まさか!」


「まあ、これだけ頭が弾けちゃってたら、分かりませんよねぇ…………あはは、あははは、あははははははは!」


 開け放たれた扉から侵入した風によって、室内の灯りが消え。

 背後から照らす月明かりがわたくしの顔を黒く染め。


「……聖女様……じゃない?」


「言いましたねぇ? 貴方、聖女と言いましたねぇ?」


 あまりの嬉しさ(・・・)に、自然に笑みが零れます。


「っ!? み、三つの紅い月……ま、まさか、まさか、あんたが」


「そうですわよぉ。貴方のような罪深き人が最も恐れる殺人鬼(さばきびと)……紅月ですわよぉ?」


「な、な、なぁぁ!?」


「さあさあ、貴方はその紅月に裁かれる権利を得たのですわよぉ! おめでとうございますぅ!」


 再びニッコリと笑みが浮かびます。ああ、楽しみですわぁ。


「ひ、ひぃ、ひぃああああああああああ!」


「さぁて。まずは罪の告白をして頂きましょうかぁ?」


「つ、罪の告白!?」


「貴方が手込めにした女性の人数はぁ?」


「ひ、ひぃぃ!」


「早く仰って頂かないとぉ」


 ブゥン バギャ!

「ぎゃああああああ!」


「一つずつぅ、関節が砕けますわよぉ?」


「わ、分かりました! 言います、言います! 十八人ですぅ!」


「はぁい、よく出来ましたぁ♪ では、お仲間も白状して頂きましょうか」


「は、はいい!」


 こうしてお肉屋さんは、全ての罪を告白なさいました。


「さぁて。いよいよお楽しみの、裁きの時間でございますぅぅぅ♪」


「さ、裁きって……全部喋ったじゃねえかよぉぉぉぉぉぉ!」


「あらぁ、喋ったら許すだなんて、わたくし一言も申し上げておりませんわ?」


「そ、そんなああああ!!」


「あああ、始まりますわ、わたくしの一番気持ち良い時間が♪」


「嫌だああ、死にたくないいいい!」


 それでは、始まり始まりぃ♪


「はーい、天罰」

 ガスッ!

「うぎぁ!」

「あはは、天誅」

 ゴスッ!

「ごほぉ!」

「うふふふふ、更に天罰」

 ドボッ!

「ぐふぇ!」

「あははははははは、天誅♪」

 グチャ!

「あばぁ!」

「滅殺・抹殺・撲殺!」

 ゴチャ! グチャ! バチャア!

 バタッ


「あははは、あははははははは! 今日は二人も撲殺できましたわ! 堪らない、堪らない、堪りませんわああああああああ!」



 ……も、もう終わったかの? 終わったのじゃな?

 ふう…………こ、これが聖女と呼ばれるシスターの正体。巷で〝紅月〟と呼ばれる連続殺人鬼じゃ。

 殺害方法は至って簡単。聖女の証と呼ばれる〝聖女の杖〟でひたすら殴って殴って殴りまくる。最後には被害者の頭を潰すまで殴り続けるのじゃ。

 この殺人鬼〝紅月〟は、無差別殺人鬼では無い。あくまで罪を犯した者のみを断罪するのじゃ。その罪有りし者を探す場が……懺悔の奉仕なのじゃよ。

 ん? 何じゃ? 何故このような危険人物が捕まらないのか、じゃと?

 それこそが、聖女と呼ばれる由縁なのじゃよ。



 次の日の朝。わたくしはいつもと同じように朝の掃除を始めます。


「貴方はあちらを掃除して下さいな」

「は、はい」

「お肉屋さんは……その倍はお願いしますね」

「は、はい」

「お仲間の皆さんも、よろしくお願いしますね?」

「「「は、はい……」」」


 わたくしの指示に従って、贖罪のお掃除が始まります。


「おはようございます、聖女様」


「あら、衛兵さん。おはようございます。それとわたくしは」

「聖女ではありません、ですね。いつまでも頑固ですなぁ」


 わたくし、本当に聖女の器ではありませんわよ。


「……で、あの者達は……」


「連続婦女暴行犯ですわ」


「それはそれは……お前達、殺されたのは何回目だ(・・・・・・・・・・)?」


 そう聞かれた皆さんは、指を一つ上げました。


「まだ一回か……ちなみに何回の予定で?」


「最初に罪の告白をなさった方は、今日の奉仕で終わりです。後の方々は……今後の反省次第ですわね」


「それはそれは……何回生き返る(・・・・・・)事やら」


 夜に撲殺し、朝に復活魔術で生き返る。その繰り返しの中で、罪深き方々は贖罪の道を歩まれるのです。


「どうだ、お前達。ここで贖罪できて幸せだろ?」

「「「……衛兵さんに捕まった方がマシです……」」」

「あははは、かもな! 何回も死刑だなんて、こんな恐ろしい罰は無いからな!」


 まあ、恐ろしい罰だなんて。


「衛兵さんも、一晩如何ですか?」


「……慎んで遠慮させて頂きます」


 あら、残念。衛兵さんなら、さぞかし撲殺し甲斐がありそうでしたのに……あははは、あははは、あははははははは!


「で、では、聖女様」


「……ですから、わたくしは……」


「ああ、失礼しました。では、シスター・リファリス」



 これは後に「撲殺の聖女」と崇められる、シスター・リファリスの物語じゃ。

えーっと、ビキ殺のリファリス様とは関係ありません。ただリファリス様っぽい主人公が書きたかっただけです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=529740026&size=200 ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
[一言] この章をありがとう
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ