訳ありな撲殺魔っ
「聖女リファリスよ、大儀であった」
「勿体ない御言葉でございますわ」
先日の千年祭での活躍を評価され、今日は大司教猊下から直々にお招きを頂きました。
「聖女に付き従って共に地獄門を封じた功績、弟子であろうと同じ輝きを放とうぞ」
「「ありがとうございます」」
「更に、我が身を顧みず、世界を守る為に犠牲になった聖リジーは、未来永劫語り継がれるであろう」
「はい」
「「~っ」」
二人とも、笑ったりしたら撲殺では済みませんわよ。
「それらの功績に報いる為、其方らを呼び出したのだ」
「報いる……と仰いますと?」
「我ができる事であれば、何なりと与えてやろう」
「何なりとって……そんな、余りにも恐れ多いですわ! それに欲しい物なんてわたくしには……」
「別に金銭的なものでは無い。我が権限が及ぶ範囲で、超法規的な措置をしてやろう、と言っているのだ」
「超……法規的措置?」
「聖女よ、其方メイドを一人雇ったそうだな」
!
「は、はい。路頭に迷っていましたので、保護しました」
「その者、当初は貴族のような名乗りをしておったな」
っ!?
「……何の事か、分かりかねますが」
「聖女よ……いや、リファリスよ、これ以上我に言わせるつもりか?」
く……。
「そのメイド、リフター姓を名乗っていたそうだな」
「……何故知っているのですか」
「我が境界内で、秘密裏に押し通せると思うたか?」
そ、そうでしたわ! 千年祭とは、信者様の祈りによって集められたありとあらゆる魔力を、祭殿の中心……つまり大司教猊下に集中させる為の大規模儀式。要は千年祭の会場は、大司教猊下の魔力領域の中とも言えます。
「地獄門から溢れ出た魔物、それを迎撃した後、聖リジーと入れ替わりで現れた貴族の娘……全て把握しているぞ」
い、一番知られたくない方に……知られてしまいましたわ……!
「さて、聖女よ。もう一度問おう。我が権限が及ぶ範囲で、超法規的な措置を望むか?」
……っ……。
「大司教猊下、一つ宜しいでしょうか」
リブラ?
「何だ、元リブラ侯爵夫人」
「恐れながら申し上げます。功績に見合う褒美と考えるならば、リファリスにとって苦痛にしかならぬものを与えるというのは、どのような意図でございましょう?」
「……其方、リフターについて知っているのか」
「元ではありますが、侯爵の末席に名を連ねていましたので」
「ふむ……ならば其方の問いに答えてやろう。でしゃばるな、首のみの存在が」
っ!?
「アンデッドである事、とうの昔に見抜いておるわ。我が目は節穴では無いぞ」
「…………」
「つまり、お前は我によっていつでも浄化できる状態なのだ」
「そうですね」
「その上で改めて言おう……でしゃばるな、首のみの存在が」
大司教猊下の浄化魔術はわたくし以上。いくらアンデッド最上位のデュラハーンとは言え、まともに食らえば一溜まりも……!
「いえ、撤回するつもりはありません」
リブラ!?
「ほぉう?」
「何度でも申し上げます。恩賞を受ける筈の者に仇で返すとは、どのような考えがあるのでしょうか?」
「……浄化されたいのだな?」
「どうぞ、如何様にでも。ですがそれは、貴方様の狭量を世に示す事になりますよ」
「……何ぃ」
「自らの過ちを認めない事で、器の小ささを世間に知られますよ、と申し上げているのです」
リブラ! それは余りにも無礼で……。
「……『滅せよ』」
ブワアアアッ!
「う……うぐうううう!?」
リブラを聖なる光が包み込んで…………だ、駄目ぇ!
「いやあああああああああっ!!」
「あぐぅぅぅぅぅ!!」
「……これに耐えるか……ならば『認めよう』」
ブワアアアッ!
「ああああ…………あ?」
「リブラ……?」
服は燃えてしまってますが、身体は……異常が無い?
「リブラ、痛いところは……?」
「え……な、無いわね」
「記憶も無事ですの?」
「う、うん、ちゃんとリファリスの事も分かる」
「でしたら」
キュッキュッ
「はああああああああん!」
「感覚も……異常ありませんわね」
「そ、そういう確かめ方しないで!」
「リブラよ、其方にこれを授けよう」
大司教猊下が差し出されたのは……銀色の輝きを放つ大剣でした。
「聖人の一人、聖マキャベリウスが使っていた大剣だ。穢れを払われたアンデッドには相応しかろう」
聖マキャベリウスの剣!? 聖心教の至宝の一つではありませんか!
「我が光に耐え抜いたアンデッドよ。其方には聖騎士の位を与える」
「聖騎士……私が、ですか?」
「ちょうど空席になっていたでな。ちょうど良かろう」
リブラが……新たなわたくしの聖騎士!?
「気心が知れた者が側に居るのであれば、心強いであろう」
そ、それはつまり、リブラの存在をお認め下さると!?
「リブラ元侯爵夫人は、我が光に耐え抜いた。つまり、アンデッドで在らず」
「大司教猊下……」
「これは弟子への褒美である。聖女よ、其方にでは無いぞ」
はい?
「リブラ元侯爵夫人という、何者にも代え難い味方が聖騎士になったのだ。これでも乗り越えられんとは、言わせぬぞ」
……お祖父様……。
「改めて聞こう。聖女リファリスよ、其方は我に何を望む?」
わたくしは大いなる決意の元、堂々と宣言致しました。
「リフター伯爵領への、立ち入り許可を」
リファリスの過去に何が?




