キツネ娘と盾メイドの閑話
「ふんふふんふんふーん♪」
久々のメイド業や……ウッキウキやでぇ!
「それにしても汚い教会やなあ……つまりやり甲斐の固まりやけどな。んふふ♪」
埃を払って蜘蛛の巣取って、窓を磨いて床を磨いて……ふふんふんふんふふーん♪
「ボンボロ教会、綺麗になーれや♪ ふふんふふーん♪」
「ボンボロ教会で悪かったですわねっ」
「ん……リファりんやないか。おはよーさん」
「おはようございます」
まだ薄暗いのに、早起きやなあ。
「何でこんな早ように?」
「早朝の奉仕ですわ」
奉仕かいな。
「なら参加せなあかんな」
「あ、結構です。早朝の奉仕はお祈りですから」
ああ、お祈りな。ならウチには関係あらへん。
「やったら掃除続けとるわ」
「はい、よろしくお願いします……それとエリザ」
「何や」
「我が教会はボンボロでは無く、趣があるのです」
「あーはいはい、分かった分かった」
ボンボロな建物住んでる人の常套句やな。
「……何か?」
「いーや、何でもあらへん……しかし、異常な量の埃やな」
「ああ、それは……」
……? 何でリファりんは遠い目をしとるんやろ。
「天井裏なんか埃の絨毯やったで」
「天井裏まで効果が及んでますの!?」
効果?
「……流石は埃高き貴婦人ですわね……」
……??
ゴシゴシゴシゴシ
カサカサッ
「ん……何や、ゴキブリかいな」
パシィン!
ゴキブリ怖くてメイドやっとれへんわ。
チュチューッ
「今度はネズミかいな」
ズバシィィン!
ヂュウ!?
ネズミくらいチョチョイのチョイや。
カサカサチュチューッカサカサチュチューッ
……ゴキブリとネズミ天国やな。リファりん達もようこんなとこで生活しとるわ。
「久々に三盾流、やってみよか」
タワーシールドを両手に、クルクル回転。
「……三盾流奥義、独楽の舞」
ギュルルルル!
バシブチベシボコボコブチィン!
ヂュヂュウ!?
「逃がさへんで。独楽の舞・追」
ギュルルルル!
スパァァン!
チュチュー!?
「……よっしゃ、全部駆除できたな」
三盾流、まだまだ衰えとらへんで。
ふう、午前いっぱいかかったけど、どうにか掃除も終わったわ。
「ガタ来とったとこも修理したし、歪んでたとこも修正したし、これでボンボロからボロくらいに昇格やな」
「ボロで悪かったですわねっ」
あ、リファりん。
「おかえりー。どや、綺麗になったやろ」
リファりんは怒気を放ちつつも、感心した様子で教会内を見とる。
「……蜘蛛の巣が全くありませんわね」
「全部取ったで」
「埃も……ありませんわね」
「全部取ったって」
ウチの掃除に穴はあらへん。
「……ボロは余計でしたが、綺麗なのには間違いありません。ご苦労様でした」
「ええてええて、これがメイドの役割や」
「では、料理はわたくしが致しましょう」
……え?
「リファりんが料理?」
「ええ」
「ホンマに?」
「ええ……何か不都合でも?」
え、せやかて、リファりんシスターやろ?
「肉や魚も無い、ケチくさい料理はちょっと……」
「…………はい?」
「シスターなんやろ? やったらビンボー料理ちゃうん?」
「び、貧乏……せ、清貧ですわ!」
「清貧って、ビンボーの言い訳で一番使われる」
ブゥン! ガギィ!
「リ、リファりん、聖女様がそんな物騒なもん振り回すんは、神様に怒られるんちゃうの?」
「主は仰いました。右の頬を打たれたら、左の頬を差し出せと」
「そうやろ? やったら」
「ですが主はこうも仰ってます。目を抉られたら目を抉り返せ、歯を折られたら歯を折り返せ、と!」
「真逆やん!?」
ギャリリリ……ギィン!
咄嗟に盾を取り出せてなかったら、今頃ウチの頭は脳みそバーンやで!
「エリザ、撤回しなさい」
「何をや!」
「貧乏認定を撤回しなさいと言っているのです!」
「認定してないで!」
「清貧を否定した時点で貧乏認定なのです!」
「んな無茶な!」
ガギィ! ギャリリリ……
シ、シスターの割に力強いなぁ……!
「あんまりウチを舐めんといてぇな。防御ばかりが、三盾流やないで……!」
ガギギギン!
左手にスパイクシールドを持ち、それで威嚇や。
「こういう盾もあるんや。こんなんでブッスリいかれたら、あっちゅう間にあの世行きやで?」
「もう一度言います。撤回しなさい」
ガギィン!
ウ、ウチの言う事を聞いてへんのか?
「撤回しなさい」
ガギィン!
「だ、だから、ブッスリいくで!?」
「撤回しなさい」
ガギィン!
え、ええ加減に……せいやぁ!
ドスドスドス!
し、しもた! 威嚇のつもりやったのに、踏み込みすぎた!
「撤回しなさい」
ガギィン!
「え、えええ!? 全身スパイクで貫かれたんやで!?」
「回復しました」
んなアホなあああああ!!
「撤回しなさい」
ガギィン!
「や、やから」
「撤回しなさい」
ガギィン!
も、もう限界や……!
「分かった! ビンボーちゃう、清貧やな!」
ピタッ
あ、止まった……んやな?
「……分かれば良いのです。では夕飯の支度をして参ります」
「…………」
「あ、聖心教徒では無いエリザには、普通の食事を用意しますからご安心を」
……な、何なん、リファりんって。
ちなみに、ホンマに普通の食事やった。
「肉……」
「肉……」
「二人とも、お行儀が悪いですわよ」
……視線がめっちゃ痛かったけど……。
「エリザお姉様はどこ?」
「お姉様はどちらに?」
「えっと、その、分かりかねます」
「どこ?」「どこ?」「ねえ」「ねえ」「教えて」「教えてよ」
「こ、こあい……」
明日から新章です。




